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婚約者の逃れられない箱庭の楽園

掲載日:2026/07/21

夏のホラー2026に応募しようかと、ホラーを書いてみたたテーマがあったので、応募できませんでした。

テンプレ話の大喜利にチャレンジ中。今回はホラー風にアレンジした作品です。

私には婚約者がいる。

スロウバー侯爵家の次男であるルシフェル様だ。


彼は、光輝く黄金の髪に、南海の海の色のような澄み切った瞳を持ち、優しく精悍で、この世のものとは思えない美しさを持つ男性だ。


彼と私の婚約が決まったのは、親同士の仲が良く、領地が隣同士の幼馴染だったこと。そして、我が家が後ろ盾を持たない中立的な伯爵家であるという理由からだった。

ルシフェル様の美貌は、彼を手に入れようとする貴族令嬢たちの争いにより、内乱にまで発展する懸念すらあると言われている。


まさに傾国の美男子。


そして幸運——あるいは不幸——にも彼と婚約できた私もまた、彼に魅了されたひとりだった。


ハルヌ伯爵家の長女である私、リリアンヌは、パッとしない赤茶色の髪に濃茶の瞳という、ごくごく普通の容姿だ。

そうなると当然、周囲からのやっかみや嫉妬、様々な嫌がらせが私に襲いかかる。


だが、それも耐えられないほどではない。なぜなら、彼には他に最愛の人がいるからだ。



「リリアンヌ、すまない」


ああ、いつものことだ。私は少し寂しげに微笑みを返して言う。


「大丈夫です」


その返事を聞くと、ルシフェル様は席を立ち、茶会から急いで姿を消す。 病気の義妹の様子を見に行くために……。


周囲からクスクスと忍び笑いが聞こえる。

とある伯爵家の茶会に招かれた私達だが、社交のためだけではなく、悪趣味なことにこの「いつもの光景」を見物したいからという理由で呼ばれている節もあった。


「リリアンヌ様、お可哀想に」

「仕方がないわ、力ある貴族とのお付き合いは争いになる可能性もあるのだから……」

「いつまで婚約を続けていらっしゃるのかしら」

「彼を繋ぎ止めておくにはねぇ……」

「だめよ、ご本人だって分かっているんだから」

「彼をあそこまで夢中にさせる、義妹君にも興味があるわ」


と、聞き慣れた会話が聞こえてくる。そう、いつものことだ…。


パートナーを伴うお茶会も、夜会も、そして二人きりのデートでさえも、彼はいつものように姿を消す。

「無理をして参加くださらなくても……」と辞退を勧めても、「君のパートナーとしての役目を果たさなければ」と言って一緒に出てきてはくれる。


結果、私一人だけが残されることになるのだが……。

彼自身は、とても善良な人なのだ。


「あら、リリアンヌ様。またお一人ですの? いつもいつも学習なさらないのね」


公爵令嬢のアルベルティーナ様だ。こうして、いつも話しかけてくださる。 彼女は珍しいことに、ルシフェル様に魅了されていない稀有な存在だった。


「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」


私は恐縮して頭を下げる。彼はいつも途中で退出してしまう。それは招いてくれたホストに対して大変非礼なことだ。アルベルティーナ様の仰る通りだった。


「ルシフェル様にも困ったものね」


アルベルティーナ様がそう口にすると、周囲から不穏な殺気が彼女へと集まる。ルシフェル様を悪く言うことは、この場では神に逆らうようなものだ。

しかし、アルベルティーナ様が会場を一瞥すると、その殺気は一瞬で霧散した。公爵令嬢に逆らえる者など、この会場には一人もいない。


「いつも気にかけていただき、感謝いたします。しかしながら……」


私が弁明しようとすると、アルベルティーナ様は扇を開き、ひらひらと軽く振りながら言った。


「それは前にも聞いたわ。私が言いたいのはね、リリアンヌ。貴方がいつまでこれを続けるつもりなのか、ということよ」


私は苦笑した。


そう、いつまで続けるのか……それは私にもわからない。もしかしたら一生かもしれない。

私は彼に魅了されている。だから、私からは離れられない。 そして彼の恐ろしい秘密を知っている。だから彼を裏切れないし、裏切る気もない。

ただ、この秘密と共に彼との関係をいつまで続けるのか。それだけは、私も知りたいのだ。


私が壊れてしまう前に……。



麗しのルシフェル様の大切な義妹であるシルフィ様と、私は面識があった。 出会ったのは、彼と婚約を結ぶ少し前のことだ。

幼い彼女は、日当たりの良い清潔なベッドに横になりながら、私に微笑みかけた。


「貴方がお姉様になるのですね。兄をよろしくお願いしますね」


銀色の髪に、薄い青の瞳。真っ白な肌をした彼女は、今にも消えてしまいそうな儚さがあった。

微熱で頬がぽっと赤くなっており、それが唯一の命の温もりを示しているようだった。その微熱の状態こそが普段より体調が良く、面会が可能なタイミングだったという事実が、彼女の病の重さを物語っていた。


そして私とルシフェル様が婚約して数年が経ち、これまで通りの日常を繰り返すうちに……。

彼女は息を引き取った。 お葬式にも出席し、意気消沈していたルシフェル様を慰めた。


はじめにお医者様から告げられていた余命よりも長く生きた。「本当によく頑張った」と、彼のご両親は涙ながらに語っていた。



はずだった……。


しかし、喪が明けてルシフェル様と再会した時、彼は言ったのだ。


「すまない。シルフィの熱が下がらないんだ。今日の予定は申し訳ないが中止とさせてほしい」


私は混乱した。シルフィ様は亡くなったはずなのに、どういうことだろう、と。

私は彼のご両親にお会いした。ご両親は重い口を開き、喪に服している間にルシフェル様がなぜか「シルフィが生きているかのように」振る舞い始めたのだと打ち明けてくれた。


「心が落ち着くまで静観してもらえないだろうか」と頭を下げられ、私は承知した。

彼は今も、そのままにしてあるシルフィ様の部屋で、居ないはずの彼女を看病しているのだという。

私は、シルフィ様の部屋へと足を運んだ。ノックをして部屋に入る。


「嘘……」


そこにはルシフェル様と、そしてシルフィ様が……いえ、違う。シルフィ様じゃない。なに、あれは……。


「リリアンヌ、君も来てくれたのか。ちょうど症状が落ち着いたところなんだ」


ルシフェル様は私に気づくと、素直に嬉しそうな笑顔を向けた。


「リリアンヌお姉様……。ルシフェル兄様、ちょっとお姉様とお話ししたいの。いい?」


ルシフェル様は一瞬躊躇ったが、私と彼女を見比べると頷いた。


「わかったよ。お茶と軽い茶菓子でも持ってくるとしよう」


ルシフェル様はそう言って部屋を出て行った。


「お座りになって」


私は恐怖に震えながらも、ベッドの横に置かれた椅子に腰掛けた。


「お姉様、私が見えるのね。私はどんな風に見えているのかしら……」


私は怯えながらも、目の前にいる存在について口にした。


「シルフィ様の姿をした……なにか……」

「正解よ。もっと言えば、シルフィと契約した悪魔。それが私」

「悪魔……。それに、シルフィ様と契約だなんて……」

「シルフィは、本当はもっと早く死ぬはずだった。でも、もう少しだけ……もう少しだけ兄であるルシフェル様と生きたかったの。そのためなら何をしても、何を犠牲にしてもいいと」


私は息を呑んだ。


「だから私と契約をした。魂と引き換えに、もう少しの寿命をね」


私は震える指先をぎゅっと握りしめ、尋ねた。


「でも、シルフィ様はお亡くなりになった……。なぜ貴方がここにいるの? なぜルシフェル様は、貴方をシルフィ様だと思っているの?」


悪魔は寂しげに笑った。


「私もルシフェルに魅了されてしまったのよ。シルフィに共感し、彼の幸せのためなら何でもしようと思った。彼には必要なの。家族と、シルフィと、貴方が」

「私……?」

「そう。ルシフェルとシルフィの関係を容認してくれた大切な人。それがルシフェルの望む『大事な家族』の枠組みなのよ」


私が混乱していると、それを見た悪魔は言葉を続けた。


「貴方の前に、何人もの高位貴族の令嬢と縁談があったわ。でもダメだった。みんなシルフィの存在を嫌がり、彼女との関係を断ち切ることを条件にしたの。ルシフェルはそれを拒んだ」


そして、悪魔は私を指差した。


「でも貴方は、シルフィごとルシフェルを受け入れた」


何となく、理解できた。

あの美貌ゆえに、ルシフェル様は幼い頃から過剰な執着や欲望をぶつけられてきたのだろう。その中で、自分を特別な存在としてではなく、ただ『普通』に受け入れてくれる人を求めていたのかもしれない。


……けれど、私もまた、彼に魅了されている一人に過ぎないのに。

私の心を読み取ったかのように、悪魔は言った。


「それでも貴方は、シルフィを優先するルシフェルを受け入れたでしょう?」


重苦しい沈黙が部屋を包む。


「彼に魅了された私は、彼の望みを叶え続けるわ。そのために、私は彼の精気を少しもらうの。たぶん……これまでと同じように『症状の悪化』という形でね」


「これまで通りに……」


私が呟くと、悪魔も深く頷いた。


「そう、これまで通りに……」


会話は終わった。

ルシフェル様が部屋に戻り、たわいもない会話を三人で楽しみ、私は家路に着いた。


恐ろしい秘密を知り、私は震え上がっていた。

悪魔との契約など、神への冒涜だ。 けれど、私は離れられない。自分からルシフェル様の手を放すことなんてできない。 私には、どうしても逃げ出すことができないのだ……。



そしてまた『いつもの日常』が戻り、私はルシフェル様が屋敷へ帰っていくのを見守る日々を送っていた。

そんなある日、公爵令嬢のアルベルティーナ様から声をかけられた。


「リリアンヌ、大変よ。帝国の皇女様が、ルシフェル様を見初められたわ」


帝国は我が国よりも遥かに強大で、少し前まで侵略戦争を繰り返し、周囲の小国を飲み込んできた国家だ。 現在の皇帝陛下は内政に注力しているものの、我が国が束になって敵う相手ではない。その皇女様となれば、権力は絶大だった。


「それは……」


私は言い淀んだ。


大変な事態……のはずだった。けれど私の胸には、「もしかしたら、これでルシフェル様と離れられるのかもしれない」という思いが浮かんでしまった。

皇女に望まれ、帝国へ無理やり連れて行かれたなら……私の婚約は破棄され、物理的に距離が離れる。


そうなれば、この異常な関係から抜け出せるかもしれない。

だけど……私は本当にそれを望んでいるのだろうか?


自分自身の心が、分からなくなっていた。


事態は急速に進行した。

帝国の皇女様は正式にルシフェル様へ求婚したが、彼はそれを拒否。諦めきれない皇女様は王家に圧力をかけ、戦争すら仄めかした。結果、王命により私との婚約は破棄され、ルシフェル様には帝国へ下向するよう命令が下った。


侯爵家の次男であるルシフェル様と言えど、王命には逆らえない。

ルシフェル様は私の元を訪れ、深く謝罪した。そして、私にこう告げたのだ。


「こんなことを頼める立場ではないのだが……どうかシルフィを気にかけてやってほしい。頼む。君しか頼れる人がいないんだ」


私は、その願いを引き受けた。

彼は帝国へと旅立っていき、私は割り切れない複雑な感情を抱えたまま、彼を見送った。


ルシフェル様が去ってから数日後、私はシルフィ様の部屋を訪ねた。

けれど……そこにシルフィ様——いいえ、悪魔の姿はなかった。



終わったのだ。

安堵、悲しみ、喜び……いくつもの感情が一度に押し寄せ、抱えきれなくなった私はその場に倒れ伏した。


一ヶ月ほど自宅のベッドで静養していたある日、アルベルティーナ様がお見舞いに来てくださった。


「体の調子はどうかしら?」

「わざわざお越しいただき、ありがとうございます。お医者様には体には異常がなく、精神的なものだろうと言われておりまして……」

「そう……」


アルベルティーナ様はなぜか落ち着かない様子で、自分の手元を見つめていた。


「どうかなさいましたか?」


私が尋ねると、彼女は顔を上げ、静かに告げた。


「どうせ後から耳に入る話だから、私から言っておくわね。……帝国の皇城で、謎の不審死が相次いだの。ルシフェル様を連れて行った皇女様をはじめ、皇族や高位貴族に多数の死者が出たわ。帝国は極度の混乱に陥り……ルシフェル様は我が国へ戻られることになったわ」


私は目を見開いた。驚きとともに、その事件を引き起こした『犯人』の心当たりが首をもたげる。


ああ……ああ、結局こうなってしまうのね。


私は逃げられない。離れることなんてできないのだ。 ルシフェル様が望む、「彼を構成する幸せの枠組み」からは。


私は両手で顔を覆い、泣いた。 悲しいからなのか、嬉しいからなのか、それとも恐ろしいからなのか。 自分でももう、分からなかった。


ただ一つ分かっているのは、また『いつも通りの日常』に戻るということだけ。

あの切なくも、狂おしい、普段通りの日常に……。


いつまでも……。


おしまい


評価・レビュー等は受け付けておりますが、返信できない場合が多いので、ご承知おきくださいmm


本作はAI(Gemini)を利用し、校正を行っています。

基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。

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― 新着の感想 ―
恐れ入ります 「帝国へ下向する」という表現がありますが 「下向」は古語で都から地方にくだるという意味で 格の高い国が格の低い国に行くような意味になるからこの場合誤りで 格が上の帝国にお婿に行くから逆…
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