石井さんのガパオライス
平日夜七時台の
代々木公園店は、
いつも通りの明るさだった。
石井さんは、
特に考えることもなく店に入った。
入口の自動ドアを抜け、
惣菜棚のほうへ向かう。
棚の前に立ち、
一つずつ商品を見る。
値段も、量も、
だいたい見慣れたものばかりだ。
でも、久しぶりにきたからか
懐かしい、という気持ちになった。
その中に、
ガパオライスがあった。
手を伸ばすでもなく、
ただ、見ただけだった。
ああ、
と思う。
そういえば、
自分があの人にこれを勧めたんだったな、と思った。
石井さんは、
棚の前で、ほんの少しだけ立ち止まった。
店内を見渡す。
惣菜棚の端。
レジのほう。
入口付近。
見覚えのある姿は、
なかった。
今日は、
いないらしい。
それを確認してから、
石井さんは、
別の総菜を一つ、カゴに入れた。
いつも通りのものだった。
レジに向かう途中、
もう一度だけ、
惣菜棚のほうを振り返る。
ガパオライスは、
そのまま並んでいる。
成城くんは、
今日は来なかったのだろう。
石井さんは、
理由を考えなかった。
ただ、
次に会ったら、
あれ、美味しかったですか、
と聞いてみてもいいかもしれない。
そんなことを、
思っただけだ。
会計を済ませ、
店を出る。
外の空気は、
少しだけ冷えていた。
石井さんは、
袋を持ち替えながら歩く。
会いたい、
というほどの感情ではない。
けれど、
今日は、
いないのが分かった。
それが少し寂しかった。




