ガパオライス
平日夜七時台の
代々木公園店は、
前日と変わらず、落ち着かなかった。
成城くんは、
いつもの時間に店に入った。
入口を抜けるとき、
無意識に店内を見渡す。
惣菜棚のほうに、
見覚えのある背中があった。
人混みの中にいるはずなのに、
そこだけ少し、輪郭がはっきりして見えた。
成城くんは、そのまま店の奥へ進む。
棚の前で足を止めたとき、
横に人の気配が近づいた。
「久しぶりっすね」
振り返ると、
石井さんが立っている。
いつもの服装。
いつものはずなのに、
今日は、どこか整って見えた。
理由は分からない。
姿勢なのか、
視線の高さなのか、
あるいは、
店の照明のせいかもしれなかった。
「お久しぶりです」
それだけで、
余計な間が消えた。
二人は、
同じ惣菜棚を見ていた。
石井さんが、
棚の一角の商品を指さす。
「こっちのほうが、
野菜、ちゃんと取れますよ」
声は控えめで、
押しつける感じはない。
成城くんは、
一度だけ、そちらを見る。
確かに、
さっき見ていた場所より、
総菜はいくぶん健康的な色をしていた。
「……ガパオライス。買ったことなかったです」
「野菜、大事っすからね」
「一人暮らしだと、そういうの気にしたほうがいいですよね」
成城くんはそう言って、
色鮮やかな総菜をカゴへ入れた。
石井さんは、
それ以上、何も言わなかった。
その背中が、
さっきよりも少しだけ遠く見えた。
二人は、
それぞれ、
必要な惣菜を選ぶ。
レジの前で
成城くんはカゴの中を見た。
いろどりが、
いつもより鮮やかだった。
なぜそれを選んだのか、
説明はつかなかった。
二人はレジを通り
自動ドアを抜けた。
「じゃあ」
「はい」
それだけ。
ただ、成城くんは
石井さんの、
少し寂しそうな横顔が気になった。




