表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

成城くんと石井さん

夕方七時台の

代々木公園店は、

いちばん落ち着かない。


会社帰りの人と、

これから夕飯を作る人と、

何となく寄った人が、

同じ幅の通路に流れ込む。

カゴの中身は控えめなのに、

足取りだけは妙に慎重になる時間帯だ。


成城くんは、総菜棚の前で立ち止まっていた。

買うものは、だいたい決まっている。

新商品を眺めはするものの、

結局いつも、同じものを手に取ってしまう。


「それ、結構おいしかったですよ」


後ろから声がした。

振り返ると、長身の男性が、カゴを片手に立っている。

無地のTシャツの上に厚手のパーカーを羽織った、ラフな格好。

人なつこいというほどではないが、話しかけやすい顔をしていた。


相手の視線は、成城くんがふと手に取った、

四角いクレームブリュレのようなものに向けられている。


「日本酒にもワインにも合います」


よく見ると、

クリームチーズ炙り味噌漬け

と書いてあった。

スイーツではなかった。


成城くんは、お酒好きというわけではない。

けれど、たまに惣菜と一緒に、

日本酒やワインを一本だけ買うことはある。


「……買ってみようかな」


それだけで、会話は終わった。


数日後、また同じ時間帯に店へ寄った。

この日の成城くんは、海老パッタイと、

海老とオクラの焼ビーフンの前で迷っていた。


「そのパッタイ、レモン絞ると、さっぱりして良いですよ」


聞き覚えのある声だった。

先日の男性だ。


「……そっか。疲れてるし、酸っぱいもの、いいかも」


その流れで、二人はレジに並んだ。

話したのは、サラダ系総菜のことだけ。

相手はキヌアのプチプチした食感が好きらしい、

ということが分かった程度だ。


「石井です」


レジを抜けたところで、相手がそう言った。


「成城です」


言ったあと、二人とも一瞬だけ黙った。

この店で名乗るには、少し出来すぎた名字だった。


それからは、たまに会う。

いつも決まって、同じ時間帯。

片方がワイン棚を見ていて、

もう片方がチーズの前で立ち止まっている。


深い話はしない。

仕事の内容も、住んでいる場所も、まったく知らない。


「今日は何も買わない日ですか」


「はい。寄っただけです」


そんな会話をして、それぞれ別の方向へ出ていく。


ある日、成城くんがマイバッグを忘れた。

石井さんが、黙って余分に持っていたというマイバッグを差し出す。

店のロゴが入った、少し厚手の茶色いビニール袋だった。


「また、今度返してくれればいいですよ」


その日の帰り道、成城くんは少しだけ、足取りが軽かった。


友情というほどの言葉は、たぶん当てはまらない。

けれど、このまちで生活していて、

「この時間、この店に来れば、顔を知っている人がいる」

という感覚は、案外、大きい。


成城くんと石井さんは、今日もそれぞれのカゴを持って、

必要なものだけを買い、同じ自動ドアを抜けていく。


ただそれだけの関係が、

いつの間にか、日常の一部になっていた。

するすると、まるで元からこんな話があったかのように書けてしまったので、投稿してみました

続く、かな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ