第6話 友達三人で許してね作戦
「それにしても、久々にハヤテのアレを見たな」
「しばらく大人しくしてたからな」
大人しくしてたおかげで、高校じゃ陰キャの最底辺だ。
別に誰にどう思われようといい。他人の評判ごときで俺の価値が変わるわけじゃない。実害さえなければいいって、思ってたんだがな……。
実害が向こうから衝突してくると避けようねぇわ。
「もうやめたのかと思ってたわ」
「人間、そうそう変わるもんじゃないんだよ」
「だな。でも、安心したわ。ハヤテは前から何も変わってない」
「そりゃ大斗もだ。永遠に彼女募集中だ」
「永遠じゃねぇよ! いつかは募集終了するよッ!!」
「……終わるといいな」
「やめろ、そんな目で俺を見るな!」
やんのやんの。先生に怒られない程度に小声で笑う。
「ま、なんにせよおれは、何があってもハヤテの味方だからな」
「……ありがとよ」
授業が終わっても、萌木の机には誰も近づかない。
みんな間合いをはかるように、一定距離から近づかない。
隣の席の安達が俺に顔を寄せた。
「ねえ、転校生って普通なら人気ありそうじゃない?」
「そうだな」
「でもなんか朝比奈さん、避けられてる?」
「あー、たぶん……俺と一緒にクラスに入ったせいで、俺の仲間だと思われてるんじゃないか」
「えっ、あれで?」
「いや完全に仲間かどうか、まだ見極めてる状態かもしれんが」
「転校してきたばっかりなのに、可哀想だよ」
「手助けしたいのはやまやまなんだが……」
転校初日は、やっぱクラスの中心で質問合戦が繰り広げられるくらいがいい。
質問は、仲良くなるための一種の儀式みたいなもんだ。
俺たちはそうやって、他人を受け入れる。
でもそれがなかったら、誰にも受け入れられなくなる。
萌木は何も悪いことをしてないんだから、せめてなんとかしてあげたいが……。
「たぶん、俺が手を出すと良くないことになると思うんだよな」
「放っておいて、良くなる可能性は?」
「…………」
「ねえ白河くん。助けてあげようよ」
「でもなあ」
「誰も味方がいない状態よりはいいんじゃないかな」
「うーん」
確かに、イケメン三人衆の反感を買った状態で、迂闊にも萌木をクラスに連れてきた俺も悪いか。
しゃーない。
友達百人出来ぬなら、せめて三人で許してね作戦だ。
「おい大斗。朝比奈さんを紹介するからこい」
「えっマジ!? 行く行く!」
ちょろい男も一緒に連れて、萌木の机に向かう。
「朝比奈さん。改めて同じクラスの白河颯。こっちは――」
「安達圭。宜しくね」
「三浦大斗、十六歳! 彼女募集中ですッ!」
「は、はあ……あ、朝比奈萌木、です。宜しくお願いします」
「おい大斗、朝比奈さんが怖がってるだろ。妙なことを口にするな」
「いきなり叩くなよ、痛いだr――えっ、痛ェ!?」
あっ、位階が上がったの忘れてつい、普通に突っ込んじゃった。
「だ、大丈夫k――」
「隙あり!」
「ゴフッ!」
大斗の拳がみぞおちにクリーンヒット。
おのれぇ下郎め!
「ってな感じで、おれたち友達やってんだ。朝比奈さん、これから仲良くしてね」
「良い感じで〆た気になるな大斗」
「痛い痛い、ギブギブ」
「……うふふ。宜しくお願いします」
不安げな表情が一気にぱっと明るくなった。
これで、よし。
「白河くん、私にも紹介して貰えるかな」
なぬ!?
まさか俺たち以外に声をかけてくる奴がいるとは思わなかったな。
しかも女子!
振り返ると、赤色の長い髪を後ろで結わえた強気な瞳の女子がいた。
あー、委員長なら確かに声はかけるか。
このクラスで唯一、イケメン男子勢と対等に渡り合える人物だしな。
「おう……。友人への挨拶は自由だ。俺に許可取る必要ないぞ」
「そうだな。朝比奈さん、私はCクラスの委員長職を預かっている西園寺エマなのだ。どうか、仲良くしてほしい」
「よ、宜しくお願いします」
おおう、萌木がエマの凜とした佇まいに困惑してるな。
かくいう俺も、びびってる。
前はもっとフレンドリーな女子って感じだったはずだが、今はめちゃくちゃ宝塚にいる貴公子っぽい。
エマよ、世界線を跨いで何があった?
事情を知ってそうな安達にそれとなく尋ねてみる。
「西園寺の口調、おかしくね?」
「おかしいかはわからないけど、西園寺グループ会長の娘だから、ああいう口調なんじゃないかな?」
「へえ? 西園寺グループって、なんぞ?」
「えっ、白河くん知らないの? 日本で五本指に入る大財閥だよ!」
「お、おう……」
エマってそんなすごい家柄なのか。
家格が上がると話し方が硬くなるんだな。
びっくりだわ。
といっても、誰にでも平等って性格は変わってなさそうでよかった。
「今度、私の家でティーパーティを催すのだが、朝比奈さんもどうかな?」
「えっ、私なんかが行ってもいいんですか?」
「もちろん、学友だから当然なのだ」
きちんと関係を積み重ねているようでなにより。
この分だと、西園寺の目の届く範囲で悪いことはされないだろう。
なんせ、萌木には西園寺グループがバックについたようなもんだからな。
軽々しく手は出せまい。
あとは、そうだな……。
周りに威圧の視線を向け、俺の耳を触る。
周囲の女子が、びくっと肩をふるわせた。
万が一、俺の仲間っぽいからって萌木に手を出せばどうなるか、きちんと想像させておく。
「おいハヤテ、悪い顔してるぞ」
「罪なき子羊を守るためなら、悪い顔の一つや二つするさ」
なんせ人権キャラだしな。
モブに潰されちゃかなわん。
ってことで、おまけだ。
「エルドラ」
『はいマスター』
「学内で萌木に危険が迫ったら、感知出来るか?」
『強襲への対策ですね、承知しました』
違う、そうじゃない……が、まあいいや。訂正するのも面倒だ。
『ワタシ一機のみでは万全とは行きませんが、できうる限りの対策を講じさせていただきます』
「頼んだ」
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TIPS
・職業
『滅亡国家のラグナテア』では、ステータスに表記されるタイプの職業(戦いでの役割)はないが、武器種や使用スキル・魔法によるカテゴリ分けが存在する。
一般的なものは、剣士、戦士、僧侶、魔法使いなど。
中にはアサルト・マジシャンや聖騎士、聖女など特殊な職業もある。