第50話 クラン試験その1
クランのランクアップ試験当日。
集まったのは俺、エマ、萌木、レオン、一条、畠山の六人。
大斗が彼女がらみで休んだから、他にも休む奴がいるかと思ったが、案外集まったな。
「せっかくのテスト日なのに雨って、残念ですね」
「そうだな。これじゃあ帰る時にはびちゃびちゃなのだ」
あいにくの雨。しかもザンザン降り。
深淵は次元層で魔物を遮ってるが、こちらからの雨は遮らない。
最悪のコンディションだ。
「チッ。これじゃ握りが濡れて滑っちまうな」
「足下にも気をつけた方がよさそうだね」
「くそっ。早いとこ終わらせようぜ」
「千葉、急いては事をし損じる。今日みたいな日はいつも以上に気をつけるべきだ」
「わぁってるよ」
レオンを抑えてはいるが、一条と畠山の顔も雨にうんざりって感じだな。
指定された現地に到着すると、既に試験官が二人、俺達を待ち構えていた。
……二人?
「クラン【ラグナテア】の皆様でよろしいですか?」
「はい、そうです」
「私は今回の試験を務めさせていただきます堤。そしてこちらは梶原です。本日は宜しくお願いします」
「……申し込み時の話では、試験官はお一人のはずでは?」
「巷で話題のクランの試験ですので、今回特別に試験官が二人付くことになりました」
「怪しい素振りを見せれば、即テスト不合格にする。注意するんだな」
堤は普通に丁寧に接してくれているが、梶原はもろに俺たちに疑いの視線を向けてる。
これは俺たちがズルしたって頭っから決めつけてんな。
後々問題が起らなきゃいいんだが……。
さておき、俺たちが攻略する予定の深淵は、両国国技館にある。
深度はⅢ。
次元層が敷地をすっぽり覆っているのが、遠目でもはっきり見える。
「さて、それでは深淵をクリアして頂きますが、我々は戦闘に加わわらず、皆様の邪魔にならない場所から観察させていただきます」
「死者が出たり、我々が深淵の攻略は不能と判断した場合は、即時試験は中断だ。皆、心してかかってくれ」
「「「「はい」」」」
インベントリからテントを出し、その中で各が準備を進める。
この運動会で見るやつ――タープテントって普通に売ってるのな。
放課後に一条たちが安達を連れて行ったあの時に、このテントを購入してきた。
たしかに【払暁の光剣】は、深淵攻略の時にこういったテントを使ってた。だから一条は購入の必要性に気づいたんだろう。
当初は『俺たちみたいな少数クランにテントなんているか?』なんて思ってたけど、今では手のひらクルックルしてる。
リアルは、晴天だけじゃない。
雨の日だってあるもんな……。
ゲーム基準で考えてたから、雨が思考のエアポケットに入ってたわ。
いつも通りフル装備に、今日は念のためエルドラに子機を5体プレゼント。
『マスター、ありがとうございます!!』
さっそくエルドラが子機を掌握――しながら空中でクルクル回ってる。
……器用だな。
「誰かが死にそうになったら、緊急時はそいつらを潰してもいい。絶対にみんなを守ってくれ」
『承知しました!』
これで最悪の備えはオッケーか。
他にもなにか準備したほうがいいか?
「うーん」
「む? どうしたのだ颯」
「いや、なにか見落としはないかと思って、チェックしてた」
「珍しいこともあるのだな」
「そうか?」
「これまでそこまで入念だったことなどないではないか」
「そうだっけ……?」
たしかに、いつも即時即応……ってか行き当たりばったり?
大抵のことならすぐに対処出来るから、なんも準備してなかったな。
「ふふ。颯も緊張するのだな」
「別に緊張してるわけじゃ――」
いや、緊張してるのか?
でも深度Ⅲの深淵なんて、一人で鼻歌うたいながらでもクリア出来るんだけどな。
――あー、そっか。
俺だけじゃなくて、みんなの命を預かってるから、緊張するのか。
「……まっ、いつも通りやるさ」
「そうだな。それが一番なのだ」
深呼吸をして肩の力を抜く。
「……よし、それじゃあみんな、いくぞ!」
「「「おう!」」」
「「はいっ!!」」
深淵に入るも、やっぱり雨は降っている。
中は快晴だったらいいのにって思ったけど、んなわけないか。
周りに敵の気配がないのを確認して、外の仲間を呼び入れる。
深淵攻略で一番危険なのは、次元層を越える瞬間だ。
ここに悪魔が固まっていたら、視界が開けると同時に――無防備な状態で襲撃を受ける。
先にエルドラが入り、次に一番対応力の高い俺が入り、最後にみんなが入るって手順を踏む。
入り口は安全地帯、なんて便利なもんはない以上、手間をかけるしかない。
皆が集まったら、訓練通りの陣形で進んでいく。
前衛は一条、エマ、レオン。
後衛が畠山と萌木だ。
俺は中衛に入ってるが、基本手出しも口出しもしない。
深度Ⅲで手出しすると、下手すりゃみんな何も出来ないまま俺一人でクリアしちゃうからな。
それじゃあみんなのタメにならん。
ってわけで、みんなが失敗した時のフォローに専念してる。
今はこのやり方が一番安全だ。
口出しをしないのは、パーティに立派な指揮官がいるからだな。
「三時方向から悪魔三体。まず一条が引きつけて」
「了解!」
「二秒後にサイドからレオンと西園寺が攻撃」
「おう!」
「はいっ!」
エルドラから受け取った敵の位置情報を活用し、後方からバシバシ指示を飛ばしてる。
こいつ――畠山の職業は『アサルトマジシャン』。
魔導弓を使って、後方から敵にクリティカルな一撃を与える。
ゲームじゃ、パーティに入れると仲間の動きが良くなる『指揮官』ってスキルを持っている。
どういう理屈かわからんが、こいつが居るのと居ないのとじゃ、仲間AIの動きが段違いなんだよな。
んなわけで、俺は指揮の一切を畠山に任せてる。
幸いこいつは設定通り頭がいいから、すぐに指揮のコツを掴んだし、エルドラから得られる敵情報も俺より上手く使いこなしてる。
俺の方が実践歴(ゲーム含む)長いはずなのに、俺よりパーティ戦が上手いなんて……。
ゲームじゃ仲間は自動的に動くもんだったから仕方ないが、なんか悔しい。
考え事をしているあいだに、遭遇した三体の悪魔を討伐し終えた。
今回現われたのはシザーキャット。
強さはランクⅢの中では下だが、動きが素早くて攻撃が当てにくい。
――んだが、みんな普通に素早さに順応してるな。
倒した悪魔からは、エルドラが魔石を抜き取っていく。
楽ちん楽ちん。
「……こんなドローン、いつ発売されてたんだ?」
「ん、あー、特別製なんですよ」
魔石を抜き取るエルドラを見て、梶原が驚いてる。
そういえば一条たちも、この光景に驚いてたな。
「魔石を抜くのってそんなにすごいのか?」
「その技術があったら真っ先に【払暁の光剣】が利用してるよ」
「あー、たしかにあそこ、ポーター使ってたな」
魔石を抜き終わったエルドラが、ふよふよ漂い俺の肩に乗った。
エルドラ、お疲れさん。
「一体、どうやって魔石の位置を判断してるんだ? それに魔石をピンポイントで切除する技能もすごい。是非わたしも一台欲しい……」
さっきまでのトゲトゲしさはどこへやら。
完全にエルドラにお熱だ。
機械フェチかな?
でも悪いな、こいつは世界に一体しかないんだ。
「これ、非売品なんです」
「そ、そうか……」
そんなにチラチラ見ても売れません。
魔石の回収を終えて、次に向かおうとした時、堤がこちらに近づいて来た。
「問題が起りました」




