第44話 ちょっとツラ貸せや
しょーもな。
そんな意味で漏らした息だったが、一条とレオンが勢いよく立ち上がった。
「先輩。申し訳ありませんが、僕たちは貴種派には所属出来ません!」
「あ、ああ。大庭先輩、すんませんでした!」
「ささ、白河くん行こうか!」
「お? おう」
二人に腕をむんずと掴まれ、ずずいと大庭から遠ざかる。
その途中、
「後悔することになるぞ」
大葉がそう言うのを、俺は確かに耳にした。
「あっぶねぇ……。マジで、何事もなくてよかった」
「ほんと、冷や汗が止まらなかったよ」
「ふぅん。大庭ってそんなに凄い奴なのか?」
「テメェのことだよッ!」
「うん。大庭先輩の無礼に切れてボコボコにするかと思った」
「平和主義者の俺がそんなことするわけないだろ」
「「……えっ?」」
なにキョトンとしとんねん。
ぶっ飛ばすぞ。
「テメェ、気に食わない奴がいたらすぐ攻撃すんだろ」
「俺からはやらんぞ。やられたら必ずやり返すだけだ」
「それ、無礼な態度で接してきたから、反撃してもいいって聞こえるけど?」
「~~~♪」
くちぶえって、むつかしーなー。
「白河くん、惚け方が雑だよ」
「マジ、あのままだったら暫く食堂が使えなくなってたかもしれんな」
「いやさすがにそこまではしないわ」
「……学校の校庭」
「……でけぇ穴」
「おっと、そろそろ午後の授業の時間だな!」
ここは惚けるに限る!
てかあれはしゃーないだろ。
深度Ⅴの悪魔と戦ったんだ。不可抗力だよ。
「ところで、あの大馬鹿先輩が言ってた貴種派ってなんだ?」
「……大庭先輩ね。それ本人の目の前で絶対に言わないでね」一条がため息を吐いて「貴種派っていうのは、昔からの名家の出身者や、親がランクの高いクランに所属してる人達が寄り集まった派閥だね」
「へえ。ってことは、一条とレオンは貴種派なのか?」
「いいや、入閥はしてないよ」
「勘弁してくれ。あんなのに入れっかよ」
一条は苦笑止まりだが、レオンはめちゃくちゃ顔をしかめてる。
その気持ちはわからなくもない。
あのワカメ、平民ごときとか普通に言っちゃうような人間性だしな。
貴種派ってのはたぶん、そういう輩が寄り集まった煮こごりみたいな集団なんだろ。
そんなところに加入したら魂が穢れそうだ。
「自分たちの生まれを鼻にかけて、平民を侮辱するような派閥とは仲良くなれん」
「……ん? 俺、誰かさんに絡まれた記憶があるんだが」
「チッ。さっさと忘れろ。もう過去だ」
くっそ、イケメンはすっとぼける台詞まで格好いいのかよ。
ずるいわ。
「しゃーないな。フルボッコにしたし水に流す」
「ぐ……」
「この学校には、目に見えない壁があってね。ぼくらがあの席に座ったのも、日当たりのいい席は貴種派のものだからだよ」
「正直、どうでもいいな」
「そう言うと思ったけど、気をつけてね。貴種派はあくまで学内派閥だけど、学外にも結構影響力があるから」
「なんで?」
「親を利用すんだよ」
「うっわ、姑息ぅ……」
「そう、姑息だけど、影響力を無視しづらい。下手をすれば、クラン活動にも影響が出るから、なるべく穏便にコトを収めてね」
「へいへい」
世の中にはしょーもないもんが存在するんだな。
俺平民の出だし、こっちから近づかなきゃ大丈夫だろ。
――なんて、思ってる時期が俺にもありました。
その日の放課後、火の粉のほうから俺に向かってきやがった。
○
「そこの一年、ちょっとツラ貸せ」
校門を出ようとしたところで、三年生のバッジを付けた男たちに捕まった。
これからダンジョンに行くんだが……無視していいかな?
――うん、駄目だな。周りを囲まれた。
「お、おいハヤテ。どうすんだよ」
「そうだな……」
安達と大斗もいるし、穏便に抜けるのは難しそうだ。
大人しく先輩についていくと、校舎の影に見覚えのある男がいた。
名前はなんだっけ?
…………ワカメでいっか。
「率直に言おう、一条くんや千葉くんたちに関わるな。彼らは貴様らのような下賤な民が関わっていい存在じゃない」
「はあ」
「一条くんや千葉くんは、今後の日本を背負って立つハイクランの御曹司。日本の未来を背負って立つ彼らには、汚らわしい平民などではなく、我らのような貴種派との関係こそが相応しい」
ワカメの近くにいる男達が、一斉に圧を放ってきた。
ふぅん。そこそこ鍛えてるみたいだな。
あー、金持ちだからいい教師でも雇ってるのか。
「お、おい、ハヤテ、やべぇぞ」
「白河くん、どうするの?」
肩を丸める安達と大斗が声を震わせた。
安達が怖がるのはわかるが、大斗はこいつらより怖い魔物をガシガシ倒してるだろ……。
「なあ大庭。この下民たち、最近調子付いてるからヤキ入れとかないか?」
「そうそう。西園寺家のお抱えハンターに手伝って貰ったからランキング一位になったんだろ?」
「まるで自分の手柄みたいな顔して生意気な」
西園寺お抱えハンターって、あのジジイか?
あのジジイの手なんて、頼まれても借りねぇよ……。
ってか、またこの論調か。
聞き飽きたわ。
この世界の人間ってズルしてでもランキング1位になりたいの?
さっぱりわからん。
「無能が、いきがってんなよ?」
「勘違いしてる平民には、躾をしないとな」
「……みんながそこまで言うなら、しょうがない。立場をわからせてやろう」
「よっしゃ」
大庭が頷くと共に、男の一人が安達の背中を突き飛ばした。
さらにもう一人が大斗の腿に蹴りを入れる。
「エルドラ」
『録画してます』
「了解」
いい加減鬱陶しいから退場願いますか。
インベントリからレギオンを取り出し、構える。
すると男たちが、遅れてインベントリを操作。
おのおの武器を取り出した。
「お、ヤルってのか?」
「武器持ったから勝てると思ってんのか下民め」
「格の違いというものをわからせてやるよ!」
「――遅い」
「ガッ!」「グハッ!」「ウゴッ!!」
魔力弾を三連発。
威力を最小限に抑えていたが、男三人が吹き飛び地面に転がった。
うん、想像はついてたが弱すぎる。
武器を取り出しても危機感ないし、口ばっか開いて警戒しない。
おまけに不得意武器を装備してた頃のレオンより打たれ弱い。
これで三年。来年は早けりゃプロハンターだが、大丈夫かこいつら?
とりあえず、ワカメ先輩と話を付けて――、
「あっ」
「ん?」
おおう……。
ワカメ先輩は早くも大斗に拳で伸されてた。
「殴っちゃ不味かったか?」
「あー、いや。いいんじゃないか?」
手を出してきたのは向こうだし。
ワカメ先輩が生きてたら、適当に話を付けようかと思ったんだが……。考えてみると、聞く耳持ってそうにないから、結果オーライだな。
「安達、怪我はないか?」
「うん、大丈夫だよ。それより、貴種派に手を出しちゃ不味いんじゃないかな」
「そうか? 俺たちの後ろには西園寺が付いてるから大丈夫だろ」
「案外そうでもないんだよ。学校での影響力は貴種派が圧倒的だから、西園寺の後ろ盾はあんまり通用しないと思う」
「ふぅん。それで、貴種派を敵に回したらどうなるんだ?」
「昔貴種派を敵に回した人は、テストでやってもいないカンニングをでっち上げられて退学させられたらしいよ」
「へえ、それは怖い」
怖いが……正直俺のテストの成績でカンニングをでっち上げられるのか?
自慢じゃないが、俺のテストの成績は全部平均点以下なんだが。
「やべぇ。カンニングをでっち上げられたらどうしよう!」
「安心しろ大斗。お前がカンニングしてるって思う奴は誰もいないから」
常に赤点ギリギリ回避の超低空飛行だからな……。
「カンニングについては、どうとでも対処出来るだろ。それ以外にはなにかあるか?」
「うーん。イジメという名の暴行を受け続けた生徒もいるみたいだけど……」
「それは大丈夫だな」
「そうみたいだね。白河くんはいつものことだけど、三浦くんには驚いたよ。すごく強くなったんだね!」
「へっへーん! おれってほら、能あるタカが爪を隠すタイプじゃん?」
「……どこがだよ」
「ついに隠れてた才能が花開いたんだよ。ぐへへ。これでやっとモテモテに――」
「ならん、ならん」
そうやってすぐ調子に乗るから、彼女が出来ないんだぞ?
たぶん。俺も彼女いないから知らんけど。
「真面目な話だけど、貴種派とか三年生ってわりに弱くね?」
「そうだな。正直、もう少し強いと思ってただけに驚いた」
「いやいや、二人が強すぎるんだよ」
俺と大斗の間に、あきれ顔の安達が割って入る。
「普通の生徒は、デイリーランキングになんて絶対に入れないんだよ。今最前線で活躍してるトップハンターだって、学生の頃はランキングにかすりもしてないんだよ? 先輩がたが端からズルしてるって決めつけてたのも、あまりに常識外れだからだよ」
「いや、だからってズルって決めつけるのは違うんじゃないか?」
「うーん、それなら『人が空を飛んだ』って喩えるとわかるかな」
「どういう意味だ?」
「人が空を飛ぶって聞いたら、誰だって『何を使って飛んだんだろう?』って考えるよね。飛行機とか、グライダーとか、パラシュートとか。トランポリンでもいいね。でも、人が自分の体だけで飛んだって考える人はまずいない」
「……なるほど。その『何を使って飛んだ』って部分がズルになるわけか」
「その通り」
さすが安達、説明がわかりやすい。
「そんな二人から見れば、貴種派の先輩がたは弱く見えたかもしれないけど、普通の生徒からすると強い人達だよ」
そうなのかねぇ。
でも、正直もう少し強くてもいい気がするんだが……。
特に今後、この世界がゲームと同じ進行をするなら、魔王――深度EXランクの深淵が度々出現するようになる。
それと同時に深淵の発生頻度もどんどん増えていく。
少しでも前戦で戦える人材が増えた方がいいと思うんだが……学校って小さい世界で縄張り争いしてるレベルの人間にゃ、無理な願いだろうな。




