第41話 憧憬
究極魔法を使えるか実験したら、ゲームと同じように出来たけど……。
「うっわ、エグ……」
自分で使った魔法の威力に、正直引いてる。
《グラビティ・ブラスト》
上級魔法四属性を同時に使用することで、初めて使用可能になる究極魔法だ。
空中に浮かんだ魔法を重力に合成する――ってな文章がTipsに乗ってた。
この魔法が使いたくて、レギオンと夢幻防具を揃えたようなもんだ。
いずれも最高ランクまで強化しないと、魔力が足りなくて不発に終わるからな。
武具補正さまさまだ。
――とはいえ、気軽に使っちゃったけど、直径五十メートルくらいあるぞこのクレーター……。
どうしよう。めっちゃ先生に怒られそうだな。
クレーターの中心に、ぺしゃんこになったバフォメットがいた。
あれ、まだ生きてんの?
さすが深度Ⅵの悪魔だけある。
クレーターの深部に下りたって、バフォメットに銃口を向ける。
「生きてるか?」
「……ま、まさか、このオレが」
「聞きたいことあんだけど、本物の畠山はどこにいるんだ?」
こいつが畠山修になりすましていたってことは、どこかに本物がいるはずだ。
たぶん。バフォメットはウツロビトみたいに、食わなきゃ変身出来ない悪魔じゃなかったはずだから、大丈夫大丈夫。
畠山もゲームじゃSSRキャラだ。
萌木とは別だが支援系のハンターで、幻惑や罠を見破るスキルを習得する。
もし可能なら引き入れて、駄目でも生かしておきたいんだが……。
「……早く、見つけねば、死ぬ、かもしれん、な」
「おっ、生きてるんだな」
それは朗報だ。
「居場所を、教えて、欲しくば――」
「エルドラ」
『はいはーい!』
俺の呼びかけと同時にエルドラの姿が出現。
いるとは思ってたが、消えると本当にいるかどうかわからないんだよな。
ってか、いつから見てたんだ?
『まさか、マスターが究極魔法まで使ってしまわれるとは思いませんでした。さすがですね! それに鉄拳での戦闘にも明るかったんですね。いつ習得されたんですか?』
「まあ、いろいろあってな」
戦闘途中で切り替えた鉄拳『マイト・イズ・マジック』は、ゲームイベント『拳でオトせ! 鉄拳正妻』の報酬アイテムだ。
あれは、殴りマジを量産するクソイベント(褒め言葉)だった……。
このナックル、ネタ装備でもあるが、使い方次第で化けるんだよな。
特に魔物に最接近されたマジが、緊急回避的に使うのに向いてる。
といっても、拳闘士のスキルモーションを真似したスキル再現をやって、特定条件下だとメイン武器と同じDPSたたき出せるレベルまで使いこなしてるのって、たぶん俺だけだ。
いや、それくらいコンセプトが好きだったんだよ。
だってほら、殴りマジって、ロマンじゃん?
キャラクターには得意武器、不得意武器があって、それぞれでステータスが増減する。
だがプレイヤーには、その手の縛りはない。
そりゃそうだ。
誰だって好きな武器使って、好きなように戦いたいもんな。
縛りがない代わりに、キャラクターのような武器種によるステータス増減はないんだけど――と、それはいいとして、
「今すぐ畠山を捜索してくれ」
『そう言われると思って、現在鋭意捜索中。おっと、それらしい反応を発見しました』
「よし、よくやった。――んで、なんだって?」
「ぐ……ぬ……」
バフォメットが顔をしかめた。
こいつに聞きたいことは……もうないよな?
なんで、俺を狙ったのかとか聞いても、どうせ教えてくれないだろうしなぁ。
悪役ってそういうもんだろ?
お前を追い詰めるためなら死んでもいい、的な。
バフォメットに向けてレギオンを構える。
「ちょ、ちょっと、待って、くれ。聞きたいことが、あるなら、なんでも話す! 組織のことも、全部、教えても、いい! だから頼む、命だけは――」
「さよなら。死ね」
ズドン。
土魔法で頭を潰す。
悪魔の命乞いなんて、誰が聞くか。
○名前:白河 颯
○位階:★Ⅳ ○ハンターランク:F
○クラン:ラグナテア ○クランランク:―
○装備
・武器:レギオン
マイト・イズ・マジック
・防具:夢幻のローブ
夢幻の手甲
夢幻のブーツ
夢幻のベルト
・ペット:白銀の守護機〝エルドラ〟
○
一連の戦闘風景を、一条肇は校舎の屋上から眺めていた。
ここに来たのは、近づいて足手まといになるのは不味いから、というレオンの案だ。
はじめは少しむっとしたが、戦闘風景を見ればそう言った理由に深く納得した。
「これが、白河くんの戦い……」
「すげぇだろ? うちの大将は」
「あ、ああ」
「アイツなら、オヤジたちにも勝てるかもな」
「…………どうかな」
日本最強の男――一条亘と戦えばどうなるか?
肇では、まったく想像出来ない。
そもそも上級ハンターが本気で戦う様子など、滅多に見られるものではない。
戦うだけで周囲に大きな被害が生じるから、基本的に全力を出せるのは深淵の中だけだし、同格以上のハンターでなければ危険すぎて近づけない。
それが日本最強ハンターであれば、なおのことだ。
「白河くんは、どうやって強くなったんだろうね」
「さてな。ただ、努力だけじゃねぇのはわかった。見たかあの動き? オレより鉄拳の使い方が上等だったぞ……クソッ!」
「その上、魔銃にも通じている」
ただの生徒ではないと思っていた。
けれど、その程度の認識では甘すぎた。
甘かったのだと、まざまざと見せつけられた。
「僕たちも、彼くらい強くなれるんだろうか」
――いや、
「強くなりたい」
今のままではダメだ。
ならば、自分が根本的に変わらなくてはならない。
もっと強くなるために。
父の背中を追い越すために。
「だったらなおのこと、来いよ。アイツ、外面は冷てぇが、身内には優しいぜ。たぶん、ハジメも仲間に入れば、強くなる助言くらい貰えるはずだ」
「……そうか」
「ま、その前に土下座と手土産問題があるな」
「ははは。それなら、強くなるより簡単だ」
肇の腹は、もう決まっていた。
同じ年齢、同じクラスの白河に、これほど凄まじい戦いを見せられて、己の無力さと、己への失望を感じないハンターはどこの世にはおるまい。
同時に、強い憧れと、尊敬の念を持たないの者も。
もしいずれも持たぬ者がいるのなら、それはハンター失格だ。
肇はこれまで、ハンター失格だった。
父への尊敬はあったが、近すぎて憧れることはなかったし、己が無力だと思ってもみなかった。
これほど自分に失望させられたのも、今日が初めてだ。
だからきっと、一条肇は今日、初めてハンターになった。
ハンターとして必要な精神性が、芽生えたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
TIPS
・拳でオトせ! 鉄拳正妻
滅亡国家のラグナテアで開催されたイベントで、期間中はプレイヤーの女子力(物理)が猛威を振るった。
イベント開始時、プレイヤーには鉄拳が支給され、これを装備してイベントモンスターや、限定ボスを倒すと愛情ポイントを獲得。
ポイントは様々な景品と交換可能で、その一つに『マイト・イズ・マジック』が上げられる。




