第4話 引き継いだ力
「なあエルドラ、階位はどうやって上げるんだ?」
「魔物との戦闘を繰り返せば、自然と上昇すると言われています」
「そ、そうか」
よかったぁ!
中身蒸発コースだけは避けられた!
「位階の最大値はいくつだ?」
「現時点で確認されている最高位階はⅦです」
「んっ!? そ、そうなのか」
これじゃ位階の最大値がゲームと同じかわからんな。
そうか。人類はまだⅨまで到達してないのか。
だとすると、討伐推奨位階Ⅸの魔王とかと戦うんだ?
最前線のハンターはかなり厳しそうだな……。
「確認する方法はわかるか?」
『PADSで確認出来ませんか?』
「ああ」
ゲームと同じなのか。
でも、PADSでどうやって身体能力がわかるんだ?
「ん、自己診断プログラム……これか」
ボタンをタップすると、手のひらに少しだけピリっとした気がした。
画面の【診断中】表示が完了するのを待つ。
「お、きたきた」
画面に自分のステータスが表示された。
○名前:白河 颯
○位階:★Ⅰ ○ハンターランク:F
○クラン:― ○クランランク:―
「んん?」
見たことない表示があるな。
位階のところだが、普通は数字だけなのに『★』がある。
これはなんだ?
「なあエルドラ。位階にある★マークはなんだ?」
『……申し訳ありません。ワタシはそれを存じ上げません』
「これなんだが」
『マスター。DADSには強力な個人情報保護機能が付与されています。ワタシでは画面を確認出来ません』
「そ、そうか」
となると、自分で確認するしかないか。
試しにタップ――おっ、説明がポップした。
『消滅国家を救った者の証。効果:位階引継ぎ』
……まじか。
インベントリに俺のゲームデータアイテムがまんま入ってるから、位階引継ぎってのは、たぶんプレイヤーデータを引継ぐいでるって意味、だよな。
ってことは、だ。
俺のデータ、プレイヤーの位階ⅨでMAXだったんだが?
それを引き継いで、なおかつ位階+Ⅰなの?
凄まじいな。
位階Ⅸのステータスを、位階Ⅰから持ってるってことだろ。
だが、納得した。
ゲームと同じ操作感なのは、ゲームと同じ位階だったからか。
あとホロ訓練を全クリ出来たのも、案外このステータスがあったからかもな。
魔物をサクサク倒しながら前へ。
十階まで進んだところで、急に胸が苦しくなった。
「うっ……」
『マスター、どうしましたか?』
「なん、か、胸が熱、い」
苦しいといっても、呼吸が出来ないほどでもないし、痛いわけでもない。
危険を感じない程度に、胸が圧迫されてる感じだ。
『……もしかすると、位階昇華ではないでしょうか?』
「これ、が……」
やがて何事もなかったように胸の苦しみが消えた。
詳しく体を確認するが、特に大きな変化はないように思う。
本当に位階昇華があったのか?
試しに全力で走り出してみると、
「うおッ!?」
加速力がまるで違う。
危うく転びそうになり、慌ててブレーキ。
「す、っご……」
一応知識として知ってはいたが、実際に体感するとこんなに違うんだな……。
『マスター、体の具合はいかがですか?』
「悪くはないが、いろいろと調整が必要だ」
俺の筋肉が、まるごとゴリラのそれに入れ替わった気分だ。
このままだと、うっかりドアノブを捻っただけで〝もいで〟しまいそうだ。
変化した力に体を慣らしながら地上に戻り、そのまま寮へ。
ルームメートは誰なんだ?
ドキドキしながら扉を開くと、二畳もなさそうな部屋が。
「お、おう……一人部屋か」
いくらなんでも狭すぎだろ。
でも、一応プライバシーが守られていて有り難い。
「さすがにいろいろありすぎて、頭も体も疲れたな……」
復習とか宿題とか、今日やらなきゃいけないこともあったが、明日の自分に丸投げして本日終了、さようなら。
○名前:白河 颯
○位階:★Ⅰ→★Ⅱ ○ハンターランク:F
○装備
・武器:レギオン
・防具:夢幻のローブ
夢幻の手甲
夢幻のブーツ
夢幻のベルト
・ペット:白銀の守護機〝エルドラ〟
○
体に微振動を感じて目が覚める。
瞼を開くと、目の前に鋼鉄の丸い玉が……。
「おいエルドラ。なんで居るんだよ」
『おはようございますマスター。昨日、ダンジョンで起動して以来、マスターのお側を離れておりませんが?』
「……あー、そうだったな」
完全に俺のミスだ。
初めてのことづくしで頭がボケてたんだろう。
装備は収納したのに、エルドラをしまうのを忘れてた。
「……ん? だとしたら、なんでここまで誰にも指摘されなかったんだ?
こんなものが宙に浮んでいたら、ハンター協会を出る時とか学校に入る時に、警備員に止めらると思うんだが。
『他人には見えないよう光学迷彩を使用いたしました』
「そんなことも出来るのか」
『はい。ちなみに現在、ワタシの音声もマスターのみに届けています』
「…………」
つまり今の俺は、独り言を喋ってる危ない奴ってことだな。
オッケー、気をつけるわ。
……ん? ってことは、だ。
「もしかして、エルドラを使えばテストでカンニングし放題ってことじゃ?」
よっしゃ! これでテスト勉強の地獄から逃れられるぞッ!!
『申し訳ありませんが、テストの回答をお教えすることは出来ません』
「なんでだよ?」
『エー、マスターは学生ですから、エー、最低限勉学には清く正しく勤しむべきかと』
「正論だな。……で、本音は?」
『黙っていたほうが、面白いマスターが見られそうなので』
「いい性格してんなお前」
本当にAIか?
感情インストールされてね?
ま、いいけどさ。
戦闘能力じゃもう、別人みたいになったわけだし、学力くらいはせめて元の俺のままでいないとな。