第3話 いざダンジョンへ
学校を出て、ダンジョンに向かう。
場所はゲームと同じで新宿だ。
おおう……駅周辺にある建物が全然違う。
なんだこの、巨大な石棺みたいな建物は。
ピンチになったら中からロボットでも出てくんのか?
入り口もデカいな。
中は武具や素材、お土産やら推しハンターグッズの店と、ちょっとしたデパートだ。
ショップエリアを過ぎると、セキュリティチェックがあった。
ここから先はハンターだけしか入れない。
このセキュリティには学生証が使えるらしい。
さすがハンター養成学校だ。
一番奥にハンターギルドの受付があった。
受付の列に並んで、順番を待つ。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか」
「ダンジョンに潜りたいんですが……どうしたらいいですか?」
「ええと、ハンター養成学校の生徒さんですね」
「はい」
「本日は初めてのダンジョンでしょうか?」
「そうですね」
「では、ハンターネームの登録をお願いします」
なにそれ。
ハンドルネーム?
それとも二つ名的な?
さすがにちょっと恥ずいな。
「……まだ考えてないので、後で登録してもいいですか?」
「承知いたしました。そうしましたら、ライセンスは正しく登録されておりますので、そのままダンジョンゲートへお進みいただいて大丈夫です」
受付が指を差した方に、中でも厳重なゲートがあった。
おそらくそこが、ダンジョンの入り口に繋がっているんだろう。
「ところで、お一人でしょうか?」
「はい」
「……ええと、付き添いましょうか?」
や、優しい。
三バカに絡まれた後だから、優しさが染みる。
ちょっと胸がときめくけど、左手薬指に光る円環が…………チッ。
胸に広がる熱がスッと引く。
「いえ、一人で大丈夫です」
「しかし――」
「中を見てすぐ戻ってくるだけなので」
「……そうですか。どうか無茶はせずに。無事の帰還を祈っております」
「ありがとう」
ゲートを抜けて、奥へ進むと、大地にぽっかりと穴が空いていた。
地下鉄線路の地上出入り口みたいだ。
インベントリから武具を取り出し、装備する。
○武器
レギオン
○防具
夢幻のローブ
夢幻の手甲
夢幻のブーツ
夢幻のベルト
夢幻シリーズは、最新のショップアイテムで、セットで装備すると『夢幻機動』スキルが使えるようになる。
これが俺の基本装備。
「あとはペット枠だけど……どうするかな」
アイテムを自動収集するペットは楽でいいけど、別に低層で使うもんじゃないよな。
あれは拾いきれないほどのアイテムがドロップする、深淵で使うものだし。
「とりあえず安全重視でいくか」
インベントリにあるペットアイテムを取り出す。
装備するだけで全ステータス+100%っていう壊れアイテムだが、現実だとどうなるんだ?
手のひらに載った丸い鉄の塊が起動。
中心部にあるカメラが開き、宙に浮かび上がった。
『初めまして、マスター。ワタシは白銀の守護機エルドラです』
「しゃ、喋った!」
ゲームの中だと、エルドラは操作キャラの後ろに付いてくるだけだった。
まさか、喋るとは思わなかったわ。
『言語も発せぬ旧型機と一緒にしないでくださいマスター。ワタシは最先端の守護機です。索敵から防衛、殲滅戦まで、幅広くマスターをサポート出来ます!』
「そ、そうか。宜しくなエルドラ」
「はい、宜しくお願いいたします」
殲滅戦って、そんな機能付いてたっけ?
……まあ、いいや。
この世界がゲームに染まったからって、すべてがゲームと同じってわけじゃない。
たとえばインベントリに入ってたはずの、俺のお金だ。
ゲームで頑張って貯めた三億が、ゼロになってやがるのな!
くそっ。三億あったら一生遊んで暮らせるのに!
きっとエルドラも、そういった違いの一つなんだろう。
ずんずん進んでいくと、やっと魔物が現われた。
「ゴブリン二体か」
さくっとレギオンで胸を打ち抜く。
あー、死体は残るのか。
ゲームだと魔石だけ入手するんだが、リアルはそう上手くはいかないか。
『マスター、魔石を回収しないのですか?』
「取りたいのはやまやまだが……」
だって、ゴブリンの死体に手、突っ込まなきゃいけないんだろ?
さすがに嫌だよ。
『ワタシが回収しましょうか?』
「取れるの?」
『お任せください』
エルドラがふよふよ漂いながらゴブリンに近づき、体の一部からうっすら光を放った。
途端にゴブリンの体からズボッと魔石が抜けて浮かび上がった。
「おお、凄いな」
『お待たせしました。マスター。極小ですが、魔石を二つお持ちしました』
「あ、ありがとう」
これは、マジで有り難い。
「これから俺は魔物を倒すから、エルドラは魔石を抜き取ってくれ」
『承知しました』
「さて、先に進む――っと、忘れてたわ」
ゴブリンの死体から証を入手してから、ダンジョンの奥に向かった。
ダンジョンの低層には、ゴブリンやキラーバッド、一角ウサギが生息してる。
あんまり強くないが、装備が整わない初心者じゃキツイだろうな。
肩慣らしには丁度良いが、魔物の密度が高くないのが不満だ。
十分歩いて2~3体しか出てこない。
ゲームだと、ダンジョンでもテンポよく戦闘出来るんだが……。
この調子だと、いつ位階が上がるのやらって感じだ。
位階は戦闘力の基礎。
その高さによって、肉体の基本性能が大きく変わる。
最低がⅠで、ゲーム内最大値はⅨだ。
レベル最大値が99とか255がある中で、ラグナテアは最大値が結構低い。
だから位階を上げるのも結構時間がかかる。
Ⅴを超えたあたりからバグか? ってくらい上がらなくなるんだよな。
ただ、一つ上がるだけで次元が変わるほど変化する。
たぶん、位階昇華は種族進化みたいな扱いなんだろうな。
それにしても、戦ってる感覚はゲームと同じだが、俺の位階ってどうなってんだ?
――って、この世界にも位階はあるよな?
すっかりゲーム気分で魔物を倒してたが、位階が無かったらどうしよう……。
さすがに位階昇華なしはきっつい。
位階Ⅰでドラゴンのブレスなんて食らったら、装備は無傷でも中身が弱すぎて蒸発する。
「なあエルドラ、階位はどうやって上げるんだ?」
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TIPS
・白銀の守護機エルドラ
ゲーム課金することで購入出来る『幸運クジ』から出現する、ペットアイテム。
出現確率は低い分、能力補正はペット中トップクラスの性能を誇る。
ただし、『滅亡国家のラグナテア』では性能よりも見た目を重視するプレイヤーが多く、人気投票では毎年1位を逃し続けている。
ハヤテメモ:AI搭載なんて聞いてないんだが?