第27話 白河颯の裏側で
「お父様、そろそろ理由を教え欲しいのだが?」
「ふむ……」
西園寺輝元は、執務室で娘のエマに詰め寄られていた。
原因は娘の同級生ハンター、白河颯を【払暁の光剣】の深淵攻略への帯同を決めたことだ。
白河はあろうことか、エマをダンジョンに連れ込んだ。
ダンジョンには危険な魔物がたくさん住み着いている。
もし力なき者が安易に踏み込もうものなら、二度と地上を拝むことが出来なくなる。
そのような危険な場所に――たとえエマから頼み込んだこととはいえ――大切な娘を連れ込むとは言語道断だ。
おまけに立ち上げたクランに加入させるなど、決して認められる行動ではない。
たった16才でクランを立ち上げたという実績は、輝元も認めている。
だが、あくまで立ち上げただけだ。
そこから発展させて、大きくなる保証はどこにもない。
反面、白河に将来性を感じないといえば嘘になる。
そこで、実力以外の部分を確かめるため、輝元は【払暁の光剣】の狩りに同行させることにした。
【払暁の光剣】は数十年続く歴史あるハイクランだ。
多くのクランがここのシステムを参考にするほど、狩りから事務、ミス防止策に至るまでマニュアル化されている。
そんなクランの狩りに同行すれば、自分とハイクランの違いが否応でも見えてくる。
これを自らの成長に繋げるか、あるいは糧に出来ずに突っぱねるか、はたまたなにも感じないか。
それによって、輝元は彼の評価――クランマスターとしての将来性を見定めるつもりだった。
もし光るなにかがあれば、一時でも娘を任せて良いかもしれない。
そう思う程度には、輝元は白河に興味を抱いている。
「エマチ、今回の狩りの同行については――」
「旦那様、失礼しますッ!」
「……入れ」
娘への話を邪魔され、輝元は眉根を寄せた。
一瞬、入室を拒否しようかと思った。
だが、扉の向こうから聞こえた声があまりに切迫していたため、入室を許可する他なかった。
「失礼します!」
礼儀もそこそこに、執事の一人が足早に近づいてくる。
その表情から、並々ならぬことがあっただろうとわかる。
「一体何があった?」
「麻布ヒルズの深淵が、深化しました!」
「何だとッ!?」
「――ッ!!」
予想もしていなかった報告に、輝元は思わず立ち上がる。
深化とは、出現した深淵の深度(危険度)が突然で上昇する現象だ。
まさか娘の学友を送り出した先の深淵が、深化するとは予想だにしていなかった。
「たしか、以前は深度Ⅱだったはずだな。どれほど深化したんだ?」
「外側からの計測では、その……深度Ⅴとのことです」
「…………」
「そんな……」
輝元は、絶句するしかなかった。
娘が真っ青な顔をして、口に手を当てた。
深度Ⅴ。
C級ハンターがチームで挑むレベルの、凶悪な深淵だ。
深淵が深化する現象は、決して珍しくはない。
毎年数度は深化しているが、自らが娘の友人を送り込んだ深淵が偶々深化するなど、あまりにタイミングが悪すぎる。
「……白河くんには、斉藤が付いている。あれは、元B級ハンターだ。それに【払暁の光剣】もいる。おそらく大丈夫だろう」
「そ……そう、ですわね」
「万一勝てないとしても、逃げ出すくらいは可能だろう」
「旦那様、それが……」
「なんだ?」
「外からの突入が封じられたようです」
「どういうことだ?」
「次元層に異変を感じたクランメンバーが、本部に報告して、即時討伐チームを結成したようですが、深淵に突入出来なかったと……」
悪い出来事というのは、一つ起れば次々と、悪い出来事を呼び寄せるらしい。
頭がクラクラしてきた。
白河は学内ダンジョンで出現した、深度Ⅲの深淵を単独クリアしたほどの戦闘力を持つ。
また、ダンジョンのデイリーランキングでも一位を獲得するほど、継戦能力も高い。
だが、深度Ⅴはダメだ。
ここから先の悪魔は、桁違いに強くなると言われている。
事実、ハンターとして一線級と呼ばれはじめるCランクのパーティですら、度々攻略に失敗する。
深度Ⅴとは、それほどの恐ろしい深淵なのだ。
「深淵攻略に参加した【払暁の光剣】のチームは、誰が担当だったかわかるか?」
「いえ。Cチームだ、としか」
「D級ハンターのパーティ……」
【払暁の光剣】が常備しているチームはランクの高い順番で、マスターが率いるEXチーム、Sチーム、Aチームときて、一番ランクの低いのがCチームとなる。
Cチームにはランクが上リたてのハンターしかおらず、一線級(C級ハンター以上)が一人もいない。
輝元は机に肘を突き、手のひらに力なく頭をのせる。
ああ、これはダメだ。
どう考えても、誰も助からない。
このままでは深淵内で殺戮が行われ、生存者ゼロ。
明日になれば、この深淵と次元が融合し、麻布ヒルズが壊滅する。
(……最悪だ)
絶望したその時、開け放たれた扉からまた新たな執事が現われた。
「失礼いたします! 深淵の続報をお持ちいたしました」
「……入れ」
「はいッ! 先ほど深化した深淵ですが、無事悪魔が討伐されました!」
「なんだとッ!?」
「……ほっ」
「お、お嬢様!」
張り詰めた気が緩んだせいか、エマの膝がかくんと折れた。
傍に居た執事が慌てて支え、ソファに座らせる。
「詳細を説明しろ」




