第20話 パワーレベリング
「へえ、ここがハンター協会。すごいですね」
「エマは来たことあるのか?」
「いいや。私も入るのは初めてだな」
ハンター協会に入り、
「ハンドルネームは如何しますか? 登録しない場合はノーネームになりますが」
「私は実名でお願いするのだ!」
「私もお願いします!」
受付で古傷が抉られ、やっと本番。
ダンジョンゲートをくぐって、地下1階に到着した。
「ここからはエマが前衛、俺が中衛、朝比奈さんが後衛でいこう」
「了解した」
「はい!」
出現する魔物は、学校のダンジョンより強い。
だが、二人の能力じゃ危険はほとんどないだろう。
万が一があっても、俺とエルドラで対処出来るから大丈夫だ。
朝比奈さんがバフをかけ、エマが順調に魔物を倒していく。
全く不安を感じない立ち回りだ。
余裕があるみたいだから、課題を出すか。
「朝比奈さん、余裕があればマジックバレットを飛ばして魔物を牽制して」
「りょ、了解です!」
「エマは今のまま、後衛からの射線を意識してみてくれ」
「わかったのだ!」
ゲームじゃパーティに入ってるだけでも経験が貰えた。
他にも経験値アイテムがあったから、回復術士でも特に問題なくレベルアップ出来たんだけどなあ。
リアルじゃ多少は魔物にダメージを与えないとダメみたいだ。
ヒーラーはダメージディーラーでもないのに、ダメージを与えないとレベルが上がらないとか、かなりハードモードだな。
まあ、いざとなったら〝卑怯技〟を使えばいいだけだから、今は実戦を体にたたき込むことだけを考えさせる。
二時間ほど狩りを続けると、二人の動きが目に見えて良くなった。
エマは後衛に攻撃チャンスを作る立ち回りがかなり出来るようになったし、萌木は回復、バフ、マナ攻撃と適宜良いタイミングで使い分けられている。
萌木は、さすがSSRだって感じだが、その萌木に成長力で付いていくエマもなかなか凄い。
「よし、特訓はこの辺にしておこうか」
「は、はい」
「了解だ」
いくら格下の魔物とはいえ、連戦はきつかったか。
二人の顔に疲労がありありと浮かんでる。
「次はランニングだ」
「次?」
「ランニングですか?」
「ああ。それじゃあ行くぞ。エルドラ、背後の警戒を頼む」
『了解しました』
「あ、あの、ランニングって、どこを走るのだ?」
「ダンジョンの中だ」
「えっ、どこまで……?」
「四十階まで」
「「――ッ!?」」
二人が目を剥き絶句した。
まあ、そりゃそうだろうな。
二人の実力じゃ、いいとこ十階で戦えるくらいだ。
四十階になんていったら、抵抗する間もなく魔物に殺される。
それは二人だけなら、の話だが。
「俺から離れるなよ」
「ちょ、ちょっと待つのだ! さすがにそれは危険だぞ!?」
「問題ない」
「大ありだ! 四十階は、Dランクハンターが挑む場所なのだぞ!?」
「怖いモンスターがわんさかいるんですよね……!?」
「Fランクの私たちでは、死んでしまうのだ!」
「そーですそーです!」
「俺がいるから大丈夫だ。絶対に死なない」
「う……」
実際、深淵だって誰もかけずにクリア出来たしな。
「ほら行くぞ」
「ま、待つのだ!」
「置いてかないでくださいー!」
二人を引き連れいざ四十階へ。
先ほどとは打って変わって、二人は必死の形相で俺の後ろに付いてくる。
目がやや血走ってるのがちょっと怖いな……。
遭遇した魔物は一瞬で蹴散らす。
後ろから襲ってくる魔物は、エルドラが消す。
そうして一時間ほど走って、俺たちは地下四十階に到着した。
訓練後に一時間も走らせるのはさすがに酷だったかもしれない。
エマも萌木も、疲労困憊という感じで地面に崩れ落ちてる。
だが俺はここで、どうしてもやりたかったことがある。
「さあ二人とも、好きなだけ殴れ!」
「……私が知ってる狩りじゃないのだ」
「右に同じく……」
「ほら、早く攻撃しないと復帰しちゃうぞ」
「う、朝比奈さん、やるぞ!」
「は、はい!」
四十階の魔物オークに、二人が力任せに攻撃をする。
これが普通の戦いなら、二人はあっさり蹴散らされて終了だ。
だが、残念ながらオークは凍っている。
――俺が凍らせた。
デバフ魔法《氷結嵐》。
ほとんどダメージを与えないが、対象を氷結させる。
氷結時間はモンスターの体力に応じて変化するが、ボスじゃない敵なら十秒以上は余裕で停止させられる。
これが、俺がやりたかった卑怯技――パワーレベリングだ。
この世界には、経験値アイテムがない。
ゲームからほとんどのアイテムを引き継いだ俺のインベントリからも消えていた。
この状態で位階を上げようとすると、すごく時間がかかる。
ヒーラーは特に、だ。
そこで、パワーレベリングだ。
この方法が使えるなら、一定以上の位階にすぐ引き上げられる。
位階が上がったとしても、戦闘の立ち回りやスキルは要訓練だけど。
魔法で氷結状態にし、エマと萌木が攻撃、魔物が動き出したらまた氷結させて攻撃を繰り返し、オークを撃破。
これを何度も繰り返していく。
「あっ、胸が……!」
「なんか熱い気がします!」
「おっ、おめでとう。これで二人は位階Ⅱだな」
オークを3体倒したところで二人の位階が上がった。
パワーレベリング失敗だったら完全な骨折り損だった。
上手くいって良かった良かった。
俺がまる一日ソロでガチ狩りしてやっと位階ⅡからⅢに上がったのを考えると、ⅠからⅡまではわりと簡単に上がるんだな。
たぶん、ソロとパーティじゃ経験の増え方も違うだろうし……パワーレベリングだけで仲間を位階Ⅲにするには相当キツそうだ。
「こんなに簡単に位階が上がって良かったのだろうか?」
「いいのいいの」
「とっても、ズルしてる気がします」
「気にしたら負けだ。ってか、他のクランだって、これくらいやってるはずだぞ」
「そうなんですか?」
俺でも考えつくことだ。
ハンターが生まれてから歴史が長いし、安全を担保出来るクランは絶対にやってる。
「生き延びる確率が少しでも上がるなら、いくらでもズルするべきだ」
魔物も悪魔も、正々堂々襲ってくるわけじゃないんだからな。
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TIPS
・パワーレベリング
位階の高い者が低い者を連れて、高レベルのモンスターを倒し、経験値を稼ぐ方法。
プレイヤーとしての注意点としては、他プレイヤーから『楽をしてレベルを上げてる』と白い目で見られることが上げられる。
パワーレベリングはあまり目立たぬよう行う方が良いだろう。
パワーレベリングを行う上での注意点は、経験値は高位階の者により多く分配されるため、パーティ内で位階が離れ過ぎていないこと。
同じ理由で、高位階の者がなるべく高ランクモンスターにダメージを与えないことなどがある。




