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推しと恋をする世界線 〜大好きな歌声に導かれてタイムリープした私が、疎遠になっていた親友からの溺愛に気づくまで  作者: 矢口愛留


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48/50

48 推しと恋をする世界線で(3)



「五月のライブはさ、masQuerAdesマスカレードとしての、三本目のライブだったんだ」

「え? 三本目?」

「うん、そう」


 確かに優樹の言うとおり、私がタイムリープした直後、masQuarAdesマスカレードはバンドを結成したばかりの頃だった。

 けれどまさか、結成三本目のライブだったなんて。


「実はさ……俺も琢磨も、masQuarAdesマスカレードのこと、親以外には全く伝えてないんだ。愛梨が最初に俺たちのライブに来てくれた時――あの時にいた観客は、ほとんどが陽菜先輩や竜斗の関係者か、対バンの人たちを観に来てた客だった」

「え? そうなの?」

「うん。結成したばっかで、お客も少なかったから、よく覚えてる。だから、愛梨が来てくれてるのに気づいた時は、すげえびっくりした」


 私は、あの日のライブで公爵(デューク)と目が合ったことを思い出した。

 あの時、公爵(デューク)は……優樹は、私を見つけてくれたんだ。


「対バンに知り合いがいるのかなって思ったけど、愛梨は俺たちのバンドだけ観て帰っちゃったし。どうして愛梨がライブに来てくれたのか、ずっと不思議だった」

「そっか……そうだったんだね」

「ああ。それで、ライブの次の日……愛梨がmasQuarAdesマスカレードのことをどうやって知ったのか気になって、家に行ったんだよ」


 優樹は懐かしそうに目を細め、「結局masQuerAdesマスカレードのことは言い出せなかったけどな」と苦笑をこぼした。


「それで、優樹は家に……。そっか」

「そ。だから、タイムリープしたんだって言われて、俺、すとんと納得したんだよな。不思議な話だけどさ」

「――masQuerAdesマスカレードが、この時間軸で、私と優樹を繋いでくれたんだね」


 優樹はやさしく笑って、頷いた。

 そうして、静かな夜に染み込むような澄んだ声で、ぽつりと呟く。


「……俺、実は、愛梨に再会するあの日まで、諦めてたんだ」

「え?」

「だって、愛梨は修二のことが好きだったろ? だから……本当は、スマホ水没したんじゃなくて、連絡先、自分で全部消したんだよ。愛梨のことをすっぱり諦めるためにさ」

「え……」


 優樹はやはり、私が修二に想いを寄せていたことに気がついていた。当時の私に告白する勇気がなくて、修二を諦めたように、優樹も私を忘れようと努力したんだ。

 そしてそのせいで、タイムリープ前は、優樹と疎遠になっていたということ――。


「けど、あの日、愛梨は俺たちのライブを一人で観に来た。俺のことを、ずっと目で追ってくれてた。幸せそうに、曲を聴いてくれた」


 その時のことを思い出したのか、優樹は嬉しそうに笑った。彼はブランコから降りると、私の背中の方へ回って、座ったままの私を後ろからぎゅっと抱きしめる。


「あの時は、本当嬉しかったんだ。愛梨とまた、繋がりを持てるかもしれない、って。忘れようと思ってたはずだったのに、愛梨の顔を見たら、俺にはやっぱり、愛梨を諦めるなんてできなかった」

「優樹……」


 後ろから私を抱く優樹の腕に、私はそっと触れる。

 優樹は嬉しそうに吐息をこぼして、抱きしめる力を少しだけ強くした。


「それで、意を決して家に行って、さ。masQuarAdesマスカレードのこともそうだけど……修二とはどうなったのか、他に好きな奴ができてないか、探ろうとした。だから、あんな世間話みたいな変な聞き方になっちゃって……あの時は、無神経なこと言って、辛いこと思い出させたりして、ごめん」

「ううん。優樹は悪くないよ」


 私は、首を横に振った。


「話してみて脈がなさそうだったら、やっぱりなかったことにして、演者とお客としての関係をそのまま続けようと思った。でもさ、愛梨は修二のこと、もう好きじゃない……どころか、何か嫌な思いをしたみたいだってこと、すぐ分かったから」

「それで、私ともう一度、連絡先を交換してくれたんだね」

「そゆこと。……はは、俺、かっこ悪いよな」

「ううん。優樹は、かっこ悪くなんかないよ」


 私は優樹の腕を優しくほどいて、ブランコから立ち上がる。そうして、ブランコの横に立つと、まっすぐ彼と向かい合った。

 にこりと笑って、優樹の綺麗な顔を正面から見上げる。


「むしろ――最高にかっこ良くて、やさしくて、誠実で。私にはもったいないぐらいの、自慢の彼氏だよ」


 そう言って、今度は私から彼の背中に手を回す。

 優樹は、目を丸くし頬を赤く染めた。はにかむように笑いながら、彼も私に応えて、ぎゅっと抱きしめ返してくれる。

 私はその胸に顔をうずめながら、ありったけの想いを込めて、優樹に伝える。


「――私ね、優樹に感謝してるの。今の私があるのは、全部優樹のおかげなんだよ」


 タイムリープしたばかりで周りとの関係に悩んでいた時に、私に手を差し伸べてくれたのは、公爵(デューク)ではない。優樹なのだ。

 優樹の存在は、あの日から、私の中で少しずつ大きくなって、かけがえのないものになった。


「きっかけは確かにmasQuerAdesマスカレードだったのかもしれないけど、私がこうして前を向くことができたのは、間違いなく優樹のおかげなの。優樹が、隣でやさしく寄り添ってくれたから、私は前に進めたの」

「愛梨……」

「優樹。私に生きる力をくれたのは、あなたなんだよ。ありがとう――大好き」

「――っ」


 端正な顔を喜色に染め、その口元を夜空に浮かぶ月と同じ形に変えて。

 大切な人は、私の名を呼び、幸せの詰まった言の葉を囁く。


 優樹は少しかがんで、私は少し背伸びして。

 互いの唇が、ゆっくりと重なり合った。


 本当に想い合う人との、大切なキス。

 初めての味は、砂糖菓子みたいにふわふわとして、この上なく甘かった。




    ――――Next『全ての世界線で、あなたと共に』


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