表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しと恋をする世界線 〜大好きな歌声に導かれてタイムリープした私が、疎遠になっていた親友からの溺愛に気づくまで  作者: 矢口愛留


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/50

47 推しと恋をする世界線で(2)



 自分が伯爵(アール)だったんだ、という不思議な確信を得て、私は真の意味でmasQuerAdesマスカレードに加入することを決意した。

 けれど、仮加入の期間を変えるつもりはなく、予定通り、来年のハロウィンで正式加入を発表するつもりである。


 理由は様々あるが、私には、やはり優樹たちと違って、音楽一本でやっていける自信がまだなかったのだ。そのため、仮加入期間のうちに、これから先の働き方や時間の使い方を考えたり、きちんと周囲の理解を得る必要があると思ったのである。


 先日、バンドに加入しようと思っていることを両親に話したところ、母は理解してくれたが、父は難色を示していた。バンド活動未経験の私が、普通の仕事と両輪でこなしていけるのか、心配しているようだ。


 何より、自分自身が不安を払拭し、しっかり覚悟を決めるための時間が必要だった。


 タイムリープ前のmasQuerAdesマスカレードは、大人気のバンドになっていた。そして今も、その階段を駆け上っている最中だ。

 そんな中にいきなり、ちゃんとした覚悟もできていない人間が加わって、上手くいくとは思えない。


 仮加入期間で、私はしっかり音楽に向き合い、masQuerAdesマスカレードに向き合い、自分の人生を見定めなくてはならないのだ。



 また、優樹との交際については、順調そのものだ。

 masQuerAdesマスカレードの練習や会議がある日には、必ず私を迎えに来て、終わった後も家まで送り届けてくれる。

 そのため、私が優樹と付き合っていることも、両親にはしっかりバレていた。

 けれど、両親とも、優樹にはやはり好感を持っているようだ。折に触れて優樹を夕食に誘い、時々一緒に食卓を囲むようになった。


 一方、芹沢家に私が呼ばれることは、皆無である。ただ、優樹の父親とだけは、高級レストランの個室を借りて、顔を合わせることができた。

 優樹が言っていた通り、彼の父親は、大会社の社長とは思えない、穏やかな雰囲気の人だった。その身に背負ってきた苦労と人の良さが滲み出ている。


 優樹は、高校の時から私をずっと一途に想い続けてきたこと、私を芹沢家のゴタゴタに巻き込んで不幸にさせたくないことを、力強く語った。

 優樹の父親は、私と優樹を祝福し、絶対に二人の仲を引き裂くような真似はしないし、させない、と約束してくれた。

 そして、何かあったら、いつでも遠慮なく頼ってほしい、と。芹沢家の長としてではなく、優樹の父親として二人の力になりたい、とも言ってくれた。


 ただ、義母や弟、妹のことを、優樹は信頼していないらしい。自分も避けているぐらいだし、私に会わせるつもりは全くないということだ。



 優樹の父親と会った時にも、私の両親にきちんと交際報告をした時にも、これ以上ないほどに、優樹の誠意を感じられた。


 修二のことで、私の心には小さな傷、大きな傷がいくつも残っている。

 優樹はそれをきちんと分かっていて、自分が誠意を見せることで、その傷を一つずつ癒してくれようとしているのかもしれない。焦らず、ゆっくり、私のペースに合わせて。


 ――彼は本当にやさしくて、真面目で、誠実で、私にはもったいないぐらい素敵な人なのだ。



 学校に通いながら個人レッスン、バンドの練習、会議、そしてライブの準備。忙しい私たちには、普通のカップルのように休日を満喫することはできない。

 しかし、私たちにはmasQuerAdesマスカレードという特別な繋がりがある。演奏で心を繋ぎ、声を重ねるのは、何よりも幸せな時間だ。


 ちなみに、バイトはかなり減らした。推し活にお金がかからなくなったためだ。

 チケットを購入しなくても、関係者席からライブを観られること。そして、新しいグッズのサンプルを、他のファンよりも先に手にすることができること。――正直言って、最高の役得である。


 また、伯爵(アール)の衣装やグッズも、現在製作中だ。ドレスと仮面が用意でき次第、私もステージに立つことになる。



 タイムリープしてから、私は本当に幸せだ。

 けれど、時折不安になる。この幸せは全て幻で、目が覚めたら暗い海の底に沈み、泡になってしまっているのではないかと。


 そんなことを考えているせいだろうか、不思議な夢を見る頻度が増えてきたように思う。

 けれど、朝を迎えたら、その夢は泡沫のように消えてしまって、後にはほとんど何も残らない。

 ただ、どう考えても現実とは異なっているのに、妙なリアルさを感じることだけは覚えている。


 そんな漠然とした不安を抱いていたある日、masQuerAdesマスカレードのスタジオから自宅へ向かう道の途中で。

 私に元気がないように見えたのだろう、優樹は、「何か悩み事でもあるのか」と心配そうに尋ねてきた。

 けれど、「幸せすぎて不安」なんて悩み、話したところでどうにもならないだろう。

 私は少し逡巡したものの、気になっていたことを優樹に聞く良い機会だと思って、帰り道の途中にある公園に寄り道することにした。


 夜の公園は、暗くて静かで、昼間とは全く様相が違っている。

 私たちは、隣り合うブランコに腰を下ろした。

 子供の時は背伸びして座っていたけれど、大人になった今は、逆にその座面の低さにびっくりする。


 冬空には、細い三日月が浮かんでいた。

 頼りなく太陽の光を反射する、夜空のペンダントをぼんやりと眺めながら、私は口を開いた。


「ねえ、優樹はどうして、私がタイムリープしたなんて、荒唐無稽な話を信じてくれたの?」

「ん、ああ……それは、五月のライブの時のことがあったからだよ」

「五月……優樹が私の家に来た、前の日のこと?」

「そう」


 優樹は頷き、懐かしそうに目を細めた。

 細い月光に照らされた横顔は、とても綺麗で。どこか現実離れしているように思えて、私はなぜだか不安になる。


 けれど、彼はふわりとやさしく笑って、私に甘い視線を向けた。

 そこに宿るあたたかな想いは確かに現実で、確かに私の方に向いていて。私の不安は、あっという間に溶かされていく。


「五月のライブはさ――」


 そうして優樹は、私を見つめながら、やさしい声で話し始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ