40 伯爵(3)
優樹は、熱意をたっぷり含ませた声で、表情で、私に告げる。
「答えは急がないよ。さっき言ったように、サポートメンバーとして、仮加入って形でもいい。仮加入した後で、やっぱり辞める、ってなっても構わない。もちろん、最初から断ってくれても問題ない。無理はしなくていいから、少しだけ、検討してみてほしいんだ」
私は、こくんと頷いた。
真剣に話す優樹の、私を見つめるmasQuerAdesのメンバーたちの想いに触れたら、考えるそぶりも見せずに断ることなんてできない。
むしろ……ふつふつと、胸の奥から、衝動のような何かが湧き上がってくる。私に眠る何かが、首を縦に振れと、叫んでくる。
私は、心が上げる叫び声を無視して、深呼吸をした。そして、優樹にひとつ、尋ねる。確信はあったものの、どうしても、確かめておきたいことがあったのだ。
「……一つ、聞いてもいい?」
「うん、もちろん」
「もし……もしも私が加入するとしたら。私のステージネームとメンバーカラーって、どうなるのかな?」
「んー」
優樹は、考えるような仕草を一瞬だけ見せるが、すぐに返答をした。
「空いてる爵位は、伯爵と、子爵だ。愛梨のイメージなら、伯爵がいいかな」
「イエス! ボクも伯爵に賛成さ! イメージカラーは、そうだなあ。無垢で清楚なホワイトがいいんじゃないかい?」
「ああ、いいな、それ。愛梨には白が似合いそうだ」
優樹の返事に竜斗くんが同意を示し、イメージカラーを提案した。白、というメンバーカラーに、優樹もすぐさま賛成する。
「伯爵……メンカラは、白……」
私の脳裏に、白地が入った黒のドレスと、他のメンバーより面積の大きな仮面を身につけてキーボードの前に立つ、女性の姿がよぎる。
やはり、今探しているキーボーディスト……それは、タイムリープ前のmasQuerAdesで活躍していた、あの伯爵なのだろう。
「愛梨さんは私と違って小柄で女性らしいタイプだから、衣装はタキシードじゃなくてドレスを仕立ててもいいわね」
「おっ、陽菜先輩、いいこと言う! 愛梨のドレス姿か……間違いなく可愛いだろうなぁ」
「松原さんが加入してくれたら、華やかになりそうだね」
陽菜さんの提案に、優樹が目を輝かせる。琢磨くんも、ぽわんと笑って頷いた。
「紅一点だね、ベイビー」
「ちょっと竜斗? 聞き捨てならないわね? 自ら望んで男装しているとはいえ、一応私も女性なんだけど?」
竜斗くんが余計なことを言って、陽菜さんが詰め寄り凄む。
一方で、優樹はにこにこしながら私の方を眺めていたかと思うと、はっと何かに気づいたように悩ましげな表情になった。
「愛梨のドレスは最高だけど……でも白か。うーん。真っ白はダメだ、俺たちと同じく、差し色程度にしよう。真っ白なドレスは、別の時に着てもらうからな、うん。ああ、綺麗なんだろうなぁ」
「優樹くん、楽しそうだね。色々気が早い気がするけど」
琢磨くんが優樹に生暖かい目を向けて、ツッコミを入れている。
優樹は、どこまで本気なのだろうか。白いドレス……、修二のことは吹っ切れているとはいえ、まだどうしても消えないダメージが残っている私には、ちょっぴりセンシティブな話題である。
それに。
優樹の言った、衣装のアイデア……それは、本物の伯爵が着るべきものだ。
白い布地をベースに、黒いレースやリボンを全体につけ、金や銀の糸を織り交ぜた、豪華なドレス。白薔薇に止まる黒蝶を彷彿とさせる衣装――。
「まあ、とにかくそういうわけだから。私たちは、あなたを歓迎するわ。色良い返事を待ってるわね」
「僕も、また松原さんと一緒に演奏したい」
「ベイビー、今日は疲れただろう? お家に帰って、ゆっくり考えてみておくれよ」
陽菜さんはわずかに口角を上げ、琢磨くんもぽわんと笑う。竜斗くんは無駄にウインクを飛ばした。
そして、優樹はやさしさと熱のこもった瞳をこちらに向けて、私の手を両手できゅっと握る。
「愛梨。俺からも、改めてお願いするよ。俺は愛梨と一緒に、音を奏でたい。愛梨と一緒に、夢を掴みたい。けど……何よりも、愛梨の気持ちが一番だから。ゆっくり考えて、決めてほしいんだ」
「……うん」
私は、ひとまず頷く。そして、戸惑いを抱いたまま、四人の顔を次々と見渡した。彼らの表情は、みな私に対して好意的で。
「――少し、考えてみます」
私が微笑んでそう答えると、彼らは皆、安心したように頷いたのだった。




