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推しと恋をする世界線 〜大好きな歌声に導かれてタイムリープした私が、疎遠になっていた親友からの溺愛に気づくまで  作者: 矢口愛留


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34 マスカレード(1)



「君は誰だい?」


 男性は、私の顔を訝しげに見た。腕を組んで顎に片方の指を置き、首を傾げている。

 口調も仕草も、非常にキザだが、服装はパンキッシュだ。

 襟の折り返し部分だけ赤のチェックになっている革ジャケットと、白いタンクトップ。パンツとブーツも革製で、ピアスやネックレス、ブレスレットなど、じゃらじゃらとアクセサリーを着けていた。

 髪色は明るい茶をベースに、金色のメッシュが入っている。


「……あ、もしかして、君が例の子かい!? 待ってたよ、首をながーくしてね!」

「え? あの、その」

「自分の楽器は持ってきたかい? 持ってきていないなら、貸し出し用のものがあるから、今すぐ借りてくるよ! コルグにヤマハにローランド、どれが好みだい!?」


 彼は私を誰かと勘違いしているようだ。しかし、私が口を挟む間もなく、ひたすらマシンガントークしてくる。私は誤解を解こうと、口を開いた。


「いや、待っ――」

「ヤマハだね、了解さ! いい子で待っててね、ベイビー!」

「べ、ベイビー……?」


 キザな男性は、ウインクを一つ残すと、風のように去って行った……が、廊下で誰かとぶつかりそうになったようだ。


「わっ、竜斗(りゅうと)くん!?」

「おぅ、ソーリー!」

「まったく、急に飛び出してきて、危ないなあ。……わっ!?」


 次に彼と入れ違いになるように入ってきたのは、身長が低めで、少しぽっちゃりした、愛嬌のある男性だった。冬なのにダボッとした半袖のシャツを着ている。ふわふわした黒髪は、天然パーマだろうか。

 知らない人が部屋にいたからだろう、私の姿を見て、彼は一瞬驚いたようだったが――、


「……あれ? 松原さん?」

「え……もしかして、山南くん?」


 私と目が合うと、彼は目をぱちぱちとしばたたき、私の名前を呼ぶ。

 驚きをあらわにしているその男性は、高校時代の同級生で、優樹の友人――山南琢磨(やまなみたくま)くんだった。


「ちょっと、琢磨、そこ邪魔。早く部屋に入ってくれない?」

「あ、ごめん」


 琢磨くんが首を縮めて謝ると、後ろからすっと姿を現したのは、長身で細身の女性だった。

 はっきりした顔立ちの美人で、髪型はウルフカットにしている。白とネイビーを基調とした、スタイルを際立てるパンツルックだ。


「あら、お客様? 琢磨の知り合い?」

「えっと、高校の時の同級生で……」

「は、はじめまして。松原愛梨(まつばらあいり)といいます」

「はじめまして。私は、土方陽菜(ひじかたひな)よ。それより、あなた」


 陽菜さんは、つかつかと近づいてきて、私の顔をじいっと見る。


「……どこかで、会ったかしら? なんだか見覚えがあるのよね」

「そ、そうですか?」


 陽菜さんはにこりともせず、私を見つめて、首を傾げた。美人の無表情はとても迫力がある。私はとりあえず、にへら、と笑って、椅子を少し後ろに引いた。


「お待たせ、愛梨……って、お? 二人とも、もう来てたのか? 早くね?」

「あ、優樹……おかえり」


 ちょうどいいところに、缶コーヒーを二本持った優樹が戻ってくる。私はようやく少し安心し、優樹に笑いかけた。


「ねえ、この子、優樹のお客様?」

「ん……まあな」


 陽菜さんは、今度は無表情のまま優樹の方へ向き直った。

 優樹は返事を濁しつつ、私に缶コーヒーを手渡すと、私の隣の席に座る。

 陽菜さんと琢磨くんも、私と優樹の向かいの席に、それぞれ座った。


「あの、優樹……どういうこと?」

「ん、ああ。ほんとは説明してから会わせるつもりだったのにな……こんなに早く来るなんて。しくったな」


 私が優樹に尋ねると、彼は缶コーヒーのプルタブを引っ張りながら、苦虫を噛みつぶしたような顔をする。


「私たちが早く来たのは、たまたまよ。全員でスタジオに入る前に、琢磨と合わせておきたいところがあってね」

「そういう優樹くんは? どうして松原さんが?」

「ああ、今から説明――」

「ノンノン! 説明なんて後さ!」


 陽菜さん、琢磨くんに続き、説明を始めようとした優樹の言葉を遮ったのは、開く扉の音と有無を言わせぬ男性の声だった。


「ベイビー、ヤマハのキーボードを持ってきたよ! 早速合わせよう!」

「……は?」


 優樹がぽかんとしているのに目もくれず、先程のキザな男性が、レンタルスタジオのスタッフを一人連れて、二重扉の中に入っていく。

 二人の手には、軽音楽用のキーボードとキーボードスタンド、それと電源コードなどの小物類があった。


「そっか。そういえば松原さん、高校の時、合唱コンクールでピアノ弾いてたもんね」

「なるほど、新しいキーボード候補の子ってことね。じゃあ私もセッティングしてくるわ」

「僕も」


 琢磨くんと陽菜さんは、なぜか納得したように頷くと、さっさと立ち上がり、スタジオの中に入っていく。


「いや、おい……ああ、もう、あいつら、何でいつも人の話聞かないんだよ」


 優樹は困ったように頭をがしがしと掻いた。


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