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推しと恋をする世界線 〜大好きな歌声に導かれてタイムリープした私が、疎遠になっていた親友からの溺愛に気づくまで  作者: 矢口愛留


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32/50

32 告白(3)



 たった一人、私だけに向けて開かれたライブが終わり、静かになった部屋で。

 マイクを通して、優樹は、歌うように、たっぷりと息を混ぜて、言葉を紡ぎはじめた。


「……レディースアンドジェントルマン。仮面舞踏会(マスカレード)へようこそ――」


「「今宵だけは身分など忘れて、踊りなさい」」


 私と優樹の声が、ぴったり重なる。

 先ほどの熱量の余韻を残したその瞳は、不安と緊張に揺れながらも、真っ直ぐに私を見つめていた。


「優樹が、公爵(デューク)、なの……?」

「――うん」

「知らなかった」

「そうだよな」


 優樹の瞳が、公爵(デューク)の仮面の下の瞳と重なる。

 やさしい目元だ。色素の薄い、焦茶色の瞳。

 今は、自信に満ちたライブ中の公爵(デューク)とは異なり、ただ不安そうに揺れている。


「……知ってると思うけど、私、masQuerAdesマスカレードの大ファンなの。それでね、公爵(デューク)は、最推しで……ライブ、いつも見に行ってた」

「最初から……五月のライブの時から、気付いてたよ。演奏中、ずっと、俺のこと見ててくれてた」

「もっと早く言ってくれれば良かったのに」

「言えるかよ」


 自分で言っておいてなんだが、それはそうだな、と思う。私が逆の立場でも、言えないだろう。

 正体を隠してやっているバンドを、友人がそれと知らずに毎回見にきて、熱い視線を送っているのだ。

 夢を壊したくないとか、バレたくないとか、色々な思いがあって言い出せないに違いない。


「……まあ、気付いてもらえたらいいなと思ってはいたよ。それで、イベントで特別なメッセージ渡したりもしたけど……愛梨は全然気付きそうな様子もなかったしな」


 その言葉に、私は、ハロウィンに開催された『星月夜の仮面舞踏会スターリー・ナイト・マスカレード』のことを思い出す。

 あの時、他のファンの子たちはピンクの薔薇のブーケがプリントされた、メッセージカードをもらっていた。

 しかし、私のカードには、赤い薔薇が一本だけ描かれていたのだ。


「メッセージって、もしかして……薔薇のメッセージカード? 偶然じゃ、なかったの?」

「偶然じゃない。俺が……公爵(デューク)が自分でカード手渡してただろ、あの時」

「そう、だったね」


 ――あの時、どこかで聞いたことのあるような、親しみのある声だと思ったのだ。

 よくよく思い返せば、仮面の奥のやさしい瞳も、柔らかく微笑む口元も、優樹と合致する。


 どうして、気がつかなかったんだろう。公爵(デューク)も優樹も、しょっちゅう見ていたし、どちらもこんなに大好きなのに……。


「愛梨さ、薔薇の花言葉って、知ってる?」

「……ううん」


 そういえば、気になっていたのに、結局調べていなかった。私は正直に、首を横に振る。


「知らないなら知らないでいいんだ。今思うと、俺、ちょっとキモいことしちゃったよなって後悔してる……公爵(デューク)の仮面を着けるとさ、なんかゾーンに入るっていうか、気持ちが大きくなっちゃうんだよ」


 優樹は、照れくさそうに顔をそむけて、肩から下げていたギターを下ろし、ギタースタンドに置く。


「なんなの? 赤い薔薇の花言葉」

「薔薇は、贈る本数によって花言葉が変わるんだ」


 優樹はミキサー卓の方へ移動し、マイクをオフにする。マイクスタンドを端によけ、アンプの音量も下げた。


「一本の赤い薔薇を贈る場合は、『あなたしかいない』とか、『一目惚れ』とかそういう意味」


 俺としては前者の意味に取ってほしかったけど、と頬を掻きながら、今度は荷物が置かれている小さなテーブルへ手を伸ばす。


「愛梨に意識を向けてほしかったのと、もし万が一、他の人に見られても偶然のサプライズってことで済むように、そうしたんだ。本当に贈りたかったのは――こっち」


 そう言いながら優樹は、テーブルに置いてあった紙袋から、何かを取り出す。その瞬間、部屋にふわりと香っていた、甘い香りが強くなった。


 優樹は紙袋から取り出したものを背中に隠して、再び私に真っ直ぐ向き合う。


「これが、公爵(デューク)じゃなく――俺の気持ち」


 そう言って、優樹は背中から、綺麗にラッピングされた、小さな真紅の花束を取り出した。


「赤い薔薇が、三本?」


 優樹は、頬を染めて、頷いた。

 彼の手の中で、美しい薔薇たちが、気高くこちらを向き、甘く良い香りを放っている。


「――愛梨」


 私をしっかり見つめて、一旦言葉を切った優樹は、大きく深呼吸をする。気持ちを整えているようだ。

 私の胸は、壊れそうなほどの早鐘を打ち始めている。この静かな空間で、互いの心音が聞こえてしまうのではないかと思うぐらい。


 そして。

 優樹は、椅子に座る私の前で片膝をつくと、形良い唇を、ゆっくりと開く。


「――愛梨のことが好きです。俺と付き合って下さい」


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