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推しと恋をする世界線 〜大好きな歌声に導かれてタイムリープした私が、疎遠になっていた親友からの溺愛に気づくまで  作者: 矢口愛留


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24/50

24 臆病(1)



 翌朝。

 アラームが鳴る前に、窓から差し込む白く柔らかな光に照らされ、目が覚めた。


「ん……なんか、いい夢見た気がする」


 夢の内容は頭からすっかり抜け落ちていたけれど、「好き」を詰め合わせたような素敵な夢だった気がする。

 それに、なんだか、すごくすっきりした気分だ。朋子と再び親友になれたことで、心が晴れたからかもしれない。


 私が起き上がった途端に、スマホのアラームが鳴り始めた。私はすかさずそれを止める。


「ふふん、目覚ましくん。今日は私の勝ちでござるよ」


 ちょっとした優越感に浸りながらスマホを黙らせると、そのまま画面を開く。眠っている間に、RINEが届いていたようだ。


「優樹からだ。えーと……なになに? 体調はどうか、って……もう、心配性なんだから」


 そうは言いつつも、私はくすりと笑みをこぼした。こうして心配してくれる人がいることのありがたみを、私は身をもって知っている。

 タイムリープする前は、両親ぐらいしか、私のことを案じてくれていた人はいなかったから。


「……そういえば、私。お母さんたちに、たくさん心配かけてたよね」


 タイムリープ前の私は、身も心も限界だった。


 仕事で遅くなった時、テーブルにご飯が用意してあるのも。

 洗濯機に洋服を入れておいたら、綺麗に洗われ、アイロンがかけられているのも。

 リビングやお手洗い、お風呂も全部、快適に使えるように掃除や補充を欠かさずしてくれているのも。

 それでいて、私が悩んでいたり、イライラしていたりする時に、無理に聞き出さず、私の気持ちが固まるのを辛抱強く待ってくれるのも。


 ――どれもこれも、当たり前のことなんかでは、決してない。


 なんだかんだと世話を焼こうとする母に、「もう大人なんだからいいんだよ」と言っても、「私たちにとってはいつまでも子供だ」と返されて、腹が立ってしまったりもしたけれど。

 でも……タイムリープ前の私にとっても、両親は、最後までお父さんお母さんだった。

 あんな形で別れることになってしまって、元の時間軸の両親には、本当に申し訳ないことをしたと思う。


 あの頃は自分のことしか見えていなくて気がつかなかったけれど、masQuerAdesマスカレード以外にも、世界には美しいものがたくさんあった。

 この時間では、周りにいる全ての人に、全ての物事に、感謝を忘れずに生きていこう――改めて、そう思う。


「お父さん、お母さん。優樹。朋子。推し活友達のみんな。学校の友達、先生、バイト仲間。それに……masQuerAdesマスカレード


 私の周りは、光に満ちている。奇跡があふれている。

 どうしてタイムリープしたのか分からないけれど、きっと、そのきっかけとなった、何か大きな存在があるはずだ。


「――ありがとう」


 その存在まで、感謝の祈りは、思いは、届いているだろうか――。



 芹沢家と藤堂家――優樹が自らの家庭の事情を教えてくれたのは、それからさらに数日後のことだった。


 ハロウィンも終わり、街にはクリスマスの足音が近づいてきている。

 優樹が連れてきてくれたのは、そんな街の喧騒からは離れた、のどかな場所だった。


 地元駅で待ち合わせをして、電車に揺られること一時間。

 二回ほど乗り換えをして、隣県の、私鉄の駅で私たちは下車した。


「こんな遠くまで、ごめんな」

「ううん、平気。たまには遠出もいいよね」

「ありがとな、俺の用事に付き合ってくれて。俺、一日空いてるの、今日しかなくて……それに、目的地に向かう道は静かだから、話をするにはちょうどいいと思ったんだ」

「大丈夫だよ」


 私も今日は一日空いている、と優樹に伝えたところ、「なら行きたいところがある」と言うので、二つ返事で了承したのだ。

 どこに行くのか尋ねたら、この駅の名前を告げられ、「行きたい場所があるってのも本当だけど、なにより、愛梨とゆっくり話がしたい。たくさん歩くから動きやすい服装で」と指定された。


 今日の優樹は、終始、どこか緊張しているように見える。


「ね、どこへ向かってるのか、そろそろ聞いてもいい?」

「ああ、うん。墓参りだよ」

「……お墓?」

「今日、命日なんだ。母さんの」

「えっ」


 さらりと告げた一言に、私は言葉を失ってしまう。

 しかし優樹は、気にした様子もなく、ポケットに手を突っ込んだまま歩いている。


「……あの、その」

「あっ、悪い。墓参りは俺一人で済ませるから、その間は休んでてもらって平気だぞ。歩かせちゃって悪いけどさ」

「えっと……そうじゃなくて」

「……ああ」


 私が優樹にちらちらと視線を向けていることに気づいたのだろう。優樹は、私がどんな風に声をかければいいいか悩んでいるのだと、思い至ったようだった。


「俺自身も母さんのこと、全く覚えてないんだ。だから、悲しいとかそういうのはないんだよ、全然」

「そう、なの?」

「うん。今日は、十九回目の命日。母さんは、俺を産んですぐに亡くなったんだ」

「……知らなかった」

「誰にも言ってなかったから、当然だよ」


 私が申し訳なさにうつむくと、優樹は小さく笑ってフォローする。その表情は、確かに悲しそうには見えなかった。

 

 優樹は、私の顔を見つめて、いつも通りの雰囲気で明るく尋ねる。


「ここからまだけっこうあるんだけど、歩ける?」

「うん、平気だよ。言われた通り、歩きやすい靴で来たから」

「じゃあ、歩きながら話そう。愛梨には知っておいてもらいたいんだ――俺の家のこと」


 ぴりりと真剣味を帯びた優樹の表情に、私も引き締まる思いになりながら、頷いた。


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