23 親友(6)
『朋子、デートって言ってたけど。相手は、修二?』
緊張しながら送信したメッセージに対する、朋子の返信は――、
『うん、そだよ』
――それは、あまりにもあっさりした肯定だった。
なんだか、拍子抜けである。
そのおかげか、続く質問は、すぐに送信できた。
『二人は、高校の時から付き合ってたの?』
『んーん。高校ん時はアタシの片想いだったんだ。付き合いだしたのは最近』
『そっかぁ。おめでとう!』
すんなりと祝福の言葉を贈れた自分に、自分でびっくりする。
『ありがとー!』
朋子からは、絵文字がたくさんついた、幸せに満ちたメッセージが返ってきた。
「ふふ」
私は、文面を見て自然と笑顔になる。
――なんだか、すっかり肩の荷が下りてしまった。
『愛梨も、がんば』
『え、私?』
予想外のメッセージに、私は驚いた。どういうことだろうと考えていると、長めの返信が届く。
『優樹のやつ、どっからどう見ても、ずっと愛梨に気があったでしょ。でも、なんか事情があったのか本人がヘタレなのか知らんけど、全然行動に移さなかったじゃん』
『えっ、そうなの?』
『あは、ほんとに気づいてなかったんだ。こりゃ大変だな』
お腹を抱えて爆笑しているスタンプが送られてくる。
「……そんなに笑わなくても」
スタンプに罪はないが、私は口を尖らせて呟く。
――優樹が私に気があったなんて、全く感づかなかった。いや、それ以前に、優樹は「恋人は作らない」と言っていたではないか。
『でも、今日のアイツ見てて、今度こそ本気なんだって思ったよ。愛梨もお洒落して可愛くしてたし、まんざらでもないんでしょ? アタシ、応援するよ』
『ありがとう。朋子も、お幸せにね』
『もち、もう離してやるもんですか。どこの誰がちょっかいかけてきても、撃退してやるぜい』
シュッシュとパンチを繰り出すスタンプが、送られてくる。
――別の時間軸では、私自身がまんまと撃退されたのだが。しかし、それももう、起こり得ない未来の出来事である。
朋子とも、卒業してからずっと連絡を取っていなかった。優樹と縁が繋がったこともそうだが、朋子とも、こうしてまた普通にメッセージのやり取りができるようになるなんて、思ってもみなかった。
『じゃ、今日は早めに寝なよ。おやすみ、アタシの親友。お大事にね』
そこに確かに記された、『親友』という文字を、噛み締めるようにじっと見つめる。
――なんて、素敵な言葉なんだろう。
『ありがと、私の親友。おやすみ』
別の時間軸では失ってしまった、三人の友。そのうち二人と、また縁を結ぶことができた。タイムリープしてから、嬉しいことばかりである。
「――なんだか、不思議」
まるで、大きな力でも働いているみたいだ。画面越しにmasQuerAdesと出会った、あの日のように――。
◇◆◇
私は、再び夢を見た。
誰もいない病室で、優樹が眠る私の手を握っている夢。
「――もし時間が巻き戻るなら」
優樹は、小さく歌を歌い始めた。
私の手の甲をやさしく撫でながら、私にだけ聴こえるような声量で。
「――あの日あの時、消してしまった連絡先
無視して駆けつけよう
きみのもとへ、きみのもとへ」
その声は、確かに優樹の口から紡がれているのに。
知らないはずの、聴いたことのない曲なのに。
「――もし僕に勇気があったなら
あの日あの時、きみは僕を拒んだかな?
それとも微笑んだかな?
僕の横で、僕と共に」
やさしく心の奥まで浸透するような、澄み切った歌声。
普段と違うのは、その声が涙に濡れていることだけ。
「――もう戻らない? いや、そうじゃない
これから掴むんだ、未来はこの手で――」
間違いない。
その声は、私の大好きな、masQuerAdesのヴォーカル……公爵の声だった。
「未来は……僕と……」
公爵の声が、喉の奥で詰まって、優樹の声に変わる。
そして、ゆっくりと。
病室が、白い光に包まれていく――。
◇◆◇
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