22 親友(5)
芹沢家の車で、自宅のそばまで送り届けてもらった私は、ベッドに入ってゴロゴロしていた。
*
家に送ってもらう途中、スモークの貼られた後部座席で、私は朋子にRINEを送った。
優樹が隣にいてくれたからだろうか。思ったよりも冷静にメッセージを送ることができて、一安心だ。
朋子は本当に心配していたらしく、すぐに既読がついて、そこから怒涛のようにメッセージとスタンプが届いたのだった。
「……ふふ、朋子ったら」
私が思わず笑いをこぼすと、優樹も嬉しそうに微笑んだ。
「良かったな、愛梨」
「……うん。朋子は、まだ、友達でいてくれるんだね」
私はスマホをぎゅっと胸に抱いた。
こちらの時間軸では、私と修二との間には、何もない。朋子に嫌われるようなことは起きていないのだから、当然ではある。ただ単に、私自身が、避けてしまっていただけなのだ。
芹沢家から私の家までは、車で十分ちょっとだった。
去り際に、伊東さんが「またいらして下さいね」と見送ってくれたが、優樹の家族とは結局会わなかった。
優樹は咄嗟に私を家に連れ帰ったのはいいものの、家族にはあまり会わせたくないようだった。
そのため、家族の不在は、優樹にとってはありがたいことだったらしい。もちろん、事情をよく知らない私にとっても。
家庭の事情については、また後日、改めてちゃんと説明すると、優樹は言っていた。
芹沢家はどう見ても一般の家庭ではなさそうだったから、あまり大っぴらにできない複雑な事情があるのだろう。
*
布団に入ってぼーっとしていると、優樹のことばかり考えてしまう。
――あの時、ノックの音で中断されなかったら、優樹は私に、何を言おうとしていたのだろう。
『愛梨。もう気づいてるかもしれないけど、俺――』
片膝をついて、私の手を取り、口元に近づけて。
真剣な表情で、声色で、私をまっすぐ見つめて。
「……あんな風にされたら、もう、ダメだよ」
私は、ほう、とため息をつく。
「優樹……」
もう、こんなにも。
私は、彼のことが気になって仕方がない。
今日一日で、私の中では恋愛への恐怖よりも、優樹に対して抱く想いの方が、圧倒的に大きくなっていた。
優樹に、これまでの経緯を話したからだろうか。
――いや、それだけではない。優樹が、私の話を信じ、共感してくれたから。
話を聞いても、私を腫れ物のように扱ったりせず、対応を変えずにいてくれたから。
「……好きに、なってもいいのかな」
小さく呟いた私の声は、誰にも届くことなく、宙を彷徨って消えていった。
*
夜になってすっかり体調も回復した私は、普段通りに食事と入浴を済ませた。部屋に戻ると、スマホに二件の通知が入っていた。
一件は、優樹から。体調に変化がないか尋ねるメッセージだ。
『大丈夫だよ。今日は本当にありがとう』
優樹にはそう返信をして、私はもう一件の通知を見る。そちらは、昼間に中断していた、朋子からのRINEだった。
朋子からも、体調を心配する文面と、キャラクターが『大丈夫?』と首を傾げているスタンプが送られてきていた。
「朋子……」
私は、なんだか嬉しくなって、口元を緩ませる。
『大丈夫、もうすっかり落ち着いたよ』
そうメッセージを送ると、すぐに『良かった!』というスタンプが届く。そして、続けざまに――。
『ねーねー、愛梨って、優樹と付き合ってんの? いつからいつから?』
「えっ」
思わぬ質問に、私はスマホの画面を見つめたまま、固まってしまう。どう返信しようか迷っていると、朋子の方が先に、次のメッセージを送ってきた。
『あっ、もしかしてまだってカンジ? まーだ渋ってんの、アイツ。ほんと意気地なし』
『えっと、意気地なしって?』
『はぁ? 愛梨、それ本気で言ってんの? なら、お互い様だわ』
その後には、なぜか呆れ顔の絵文字。私は、いたたまれなくなって、話題を変えた。
『ところで』
そこまで打ったところで、指が震える。今から聞くことは、私にとっては大切なことで――しかし、何気ない風を装う必要がある。私ももう、先に進まなくてはならないのだ。
私は深呼吸して、続きの文面を打ち込む。
『朋子、デートって言ってたけど。相手は、修二?』
緊張で震えながらも、どうにか文面を入力し、送信ボタンをタップする。
既読がつき、返事がくるまで、おそらく数秒――けれど、私には、一分にも二分にも感じられた。




