さよなら昔の私。こんにちわこれからの私
「だがとりあえずこの場を収めよう。さてどうしようか」
ふとその時、イタズラめいた閃が頭の中に現れた。リスクも多いがリターンもある。もしかしたら、私は私自身のこれからの人生を変えうるかもしれない。そう思って湧き上がる好奇心のまま行動する事に決めた。
まず最初にこの場を収める事にした。なんにしたってこんな混乱した場所では何やってもうやむやになってしまう。もちろん。可能な限り殺さない。怪我もさせすぎない。その上で、私は倒れふした人間達の中心で声を張る。目的は鼓舞すること伝えたい事はこれからの事。
「私は朝霧菜奈という。先程の行動はあくまで場を収める為だ、失礼した。私はこの状況を変えたい!先程、自分を神と名乗る男が1年後この世界から人類を1人残らず抹殺すると宣言した!しかし彼が世界に放ったidが私たちの心をこうも壊してしまっている。これで、私たちは1年と持つのだろうか?いや、今もう既に人類文明は滅びかけているのだ!私たちは理性を取り戻す必要がある!人と傷つけ会わずに共に暮らす術を!時として目的のために突き進む覚悟を!本能だけの猿ではなく!人間として生きるために!私は今ここで今ここにいる人達と共に元の豊かな文明的な暮らしを取り戻したい!1年後私たちがここに再び立っていたのならばその時こそ我らが本来の力でこの世を自由に生きられると胸を張る証左になるだろう!共にあの男に立ち向かって欲しい!」
シーンと静まり返った会場は閑古鳥が鳴いている喫茶店のように涼やかな風が流れてる。
あんまりウケは良くない?
燈火の見てくれを馬鹿にした手前だが引きこもり生活で肌とか声とか色々衰えているのだ。好奇心に任せて言うだけ言ったが具体的なプランなど何一つないのだ!正直今の自分にどれ程の説得力があろうかと思う!今すぐ逃げ出したくなってきた、、、!
ん?
ああ!皆身体が怪我しすぎて動けないだけか!
てことは少なからず私のせいか!
「少し手荒にし過ぎたみたい、、、最初に貴方達の治療をさせてもらうわ!」
「ああ、そうしてくれ、、ボス」
その言葉の後に元気の無い拍手がやっと遅れてやってくるのだった。
なんというか、全く締まらないのだが広場の人間を1人1人治療して回った
道具は近くの薬局屋さんを経営しているおじさんに付けで売って貰った。
話して見れば、皆口滑り良く話してくれた。
各個人それぞれに不安があり、問題がある。その問題を暫定的なこの場限りの仕切り屋として、解決できそうな人に顔繋ぎをした。右左も分からなかった状況から少しは先のことが見える様になって次第に皆、落ち着いて話を聞いてくれるようになった。
だから改めて、自分のしたい事とそれに着いてきてくれるかどうかを聞いたところある程度の人と協力関係になることが出来た。
そのうちの1人が自衛隊の屍消灯さん。
彼はなんというか壮絶だった。
本当にこの人に関しては手を焼いた。この人に関しては、一筋縄では行かなかった。
その時の事を今から話そう。
広場に彼が蹲ってその周りに何人かが彼を取り囲んで暴行を加えていたのだ。
「バカがァ!死ねよ!お前みたいなのがいるから社会が云々」
だとか
「目障りなんだよ」
だとかいまいちまとまりの無い戯言を叫びながら男に殴りかかっている。
腹ただしい、誰かを寄ってたかって恥ずかしくないのか。
真ん中にいるおじさんだけ助けて他は殺してしまおうか。
ジワリジワリと言葉が肌に浮き出てくる。
【醜い、もう見たくない】
力が湧いて出てくる。心の中の鬼が私の体に行き渡る。あとは感情の撃鉄を起こせばこの場所を血の海に沈める事だってできる。
「3つ数える前に暴行を止めろ!そうすれば原型くらいは残してやる、、、!」
警告なんて生ぬるい、殺意すら籠った声が周囲の空気を塗り替える。
「あ、ぁぁ。」
途端に男の周りにいた人達が怖気付いて、離れて行く。
なんだこの、消化不良感。こんなものか。そんな程度の感情で人に暴力を振るうくらいなら、最初から何もしなければ良いのに。
矮小な自尊心や気まぐれで人が暴力を振るうことが
すごく気持ち悪いことだと目の前で実演されて腹が立つ。さっき同じ事をしていた私の気持ちも考えて欲しい。
でも、今はそれどころじゃない。早くおじさんを助けないと。
「大丈夫?」
おじさんは何も答えない
「あの、この人気絶しているみたいなんです。」
「貴方は?」
彼は蹲っているのだと思っていたのだけど誰かに覆いかぶさっていようで、その体の下からおばあさんが現れた。着物をきていてクールな顔つきに良く似合っていた。
柔らかい印象なのによく切れるナイフの様な鋭さも
併せ持った雰囲気の持ち主だった
「ありがとうな。この人は私の事を守ってくれてな。本当は自分の身くらい自分で守らなあかんのやけど、、私は暴力には無力や。あんたは、どないしたんやその角。もしかしてイドとやらのせいで鬼にでもなってしまったんか?」
「そう、私は鬼、理不尽な事をことごとく壊す怪力の鬼になったの」
「そうか、アンタさんも苦労したんやな。それでも助けてくれてありがとうな。息大丈夫か?エラい荒いけど」
「大丈夫、鬼の状態になった時の副作用みたいなものだから。体力の消耗が早くて息切れしやすいの」
「そうか、無茶はすんなや?でも、さっきの男投げ飛ばして頼みる限りやと相当その鬼は強いんやな?」
「ええ、おばあちゃん。私の傍に隠れてて、すぐに静かにするから」
「いいな。おまえは、じぶんのしょうどうをかいならせるのか」
「あんさん!目ぇ覚ましたんか!」
倒れていたおじさんが立っていた。
2メートルはある。大きな身体、夏なのにコートを羽織っているせいでその分やっぱり身体が大きく見える。逆だった髪は動物の毛の様に硬そうだ。
「いいな、ひーろーだな。ここぞってときにだれかをまもれる。いいやつだ」
雰囲気がおかしい。私が鬼になった時と同じ感じ、
感情が溢れて止められないんだ!きっとこの人も私と同じように変化する。
張り詰めた雰囲気はまるで決壊する直前のダムの様
私は警戒心を最大級に引き上げて迎え撃つ心積りをした。
「俺なんて、死ねばいい」
その時の彼の目は人間の物では無くなっていた
男の身体が屈む地面に手が着く、毛皮の様な毛が毛皮になる。。
姿形が大きな狼になっていく。
多分、自分を見失ってしまったんだ。自分の姿が分かんなくなって、それで心も体も犬になっちゃったんだ。この人のコンプレックスは劣等感だろうか。
「負け犬、、、、、、」
負け犬が吠える、堪えの効かない感情をぶつけに来る。
「駄犬が躾てやる。来い」
(強いやつが秩序を壊す側に回ると本当に厄介だ。体の前に心を強くして欲しいね)
相手が間合いを詰める。身体を大きく回した後、踵が降ってくる。
鬼の目はその先端の動きまでも見逃さない
両手をクロスさせて受ける。
私の体はその瞬間中を浮いていた。
一瞬の事で思考が遅れてやってくる。
足先で腕を引っ掛けたあと、中に飛ばされた!
足が私の胴の真ん中に吸い込まれる。
見えているのに!思考が間に合わない。何をしたらいいのか分からない。痛みに耐える覚悟をする。
「ーーーーーーーー!!」とんでもない衝撃の後、
視界がシャッフルされる。
背中に激痛、お腹に鈍痛が走った後頭がチカチカして背筋が血の気を失って体の中心が引き裂かれた様に痛い!
「オェッコフッフーフーフー」
動け動け動け意識が衝撃でバラバラになったみたいにまとまらないよ動けないよ!初めて知った。私は、、痛みに弱かったのか
初めて知る殴られる衝撃と痛み。衝撃と一緒に勇気まで吹き飛んでしまった様だ。今は負け犬と呼んだあの男の姿が今まさに私殺そうとする獣のそれに見える。
「ごめーー」
心の底から白旗を上げようとした。勝てないと思った
「お待ちなさい。お嬢さん。逃げ傷は女の箔を落としちまう。」
目の前におばあちゃんが立っていた。
「ここは私が変わってやる。兄さん、女にこんな事してタダでは済まないよ。」
狼はさっきまで守っていたおばあちゃんが相手でも
構わす向かってくる。あの爪でなぎ払われたら
普通の人間なんて細切れだ。さっきは助かったのにすぐに殺されるなんてあんまりだ。
「おばあちゃん逃げて!!」
「逃げない!!言っただろう!逃げ傷を負うことはすなわち!生き方を曲げられるって事だ。それはどう死ぬかより大事なんだよ」
優しくて強い顔だ。不敵で自信満々で頼り甲斐のある王の顔をしていた。
「さて、お前さんにはこれが効きそうだと今思い立ったが、どうかね」
おばあさんは懐から椿の箔押しがされた黒い手鏡を取り出して狼の顔の前に掲げた。
「見な!これが今のあんただ!お前の最も忌み嫌う、人を傷つけるだけの獣さ!」
「ウ、ウォオオオオオオ!」
狼は鏡の中の自分を見ると目の色を変えて自分の顔を殴り始めた。
加減無く、躊躇無く、怯みもない
「なんで?、こんなに自分を攻撃するの?」
「自己嫌悪ってやつだよ。自分の生き方を貫け無いなんてことはね、生きていたらまあ、あるんだよ。そのうち、今の自分が嫌いで、やり直したくなったりする。でもね人生にはやり直しが効かない。そんなどうしようもない事に対する怒りが自分に向いてしょうがないのさ。ただ」
狼は止まらない爪で身体を引き裂いて毛皮が赤い血だらけになっても止まらない。まるで自分と自分で殺し合いしているかのよう。
「お嬢ちゃん、お願いしたい事がある」
「分かってます。私が彼を止めてやればいいんですよね?」
「かたじけない、私の恩人なんだ。それに、なんかほっておくと可哀想でさ。はは、、」
私たちはお互いハラリと笑いあった。お互い苦労するね。ほんとにねと心の内で言い合った。
さあ、やろうか。息を吸って、吐く
パンと頬を叩くのは本気を出すと自分に知らせる合図。私の勝負はいつもこうやって始まる。
恐怖はある。躊躇いある。でもやる勇気も理由も十分にある。
「私は止まらないよー?」
おばあさんが私を見る。不敵な顔だ。この人のこの目が好きだ。勇気をくれる
「あいつの顎スレスレを掠める様に拳をぶつけろ。首を支点に頭が揺れる。衝撃は脳を揺さぶり、意識を停止させる事が出来るはずさ」
「なんでそんなこと知ってるんですか」
「穏便に喧嘩するために培ったテクニックさ」
そっか、そういう人なんだ
私は身体を弓の様に引き絞る。
「1回で決めなきゃ今度こそ終わりだよ」
おうともよ!
走る!あいつは自分の体を引っ掻くのに夢中で気が付かない。
取った!奴の懐に入り込み私は奴に拳を当てる軌道に拳を置く。
でも奴はここからでも反応してみせる咄嗟に首を逸らして顎を拳の軌道からそらす。
「伏せ!」
そこにおばあさんの一括が飛ぶ!
でも彼もそこまで弱気じゃなかった一瞬硬直するけど、頭は下げない!
拳じゃ届かない!でも拳は止めない!
狼が笑う。
それでいい。せいぜい油断してろ!
私は狼の太い腕に拳を振りかぶった勢いのまま、覆い被さるようにして力を巡航させる!
「実は体育が私!結構得意なんだ!」
クラスでもできた人は私だけだった!これが出来たおかげで体育の科目で5を取れた私の十八番!一回転前回り!足を地に付けずに身体の軸を鉄棒を中心に一回転させる技!更にそのままの勢いで体を腕の上で伸ばして足をあいつの顎向けて叩き込んでサマーソルト!
「ゴフゥ!!」
狙い違わずあいつの頭がカクカクと揺れる。
身体に入っていた力が抜けてきたから、距離をとる。崩れ落ちる巨体を眺めて
「学校の授業も少しは役に立つじゃなない」
と頑張ってた自分を褒めてやる。
かくして、ここに狼退治は成ったのだった。