第一壊 私がコワレタ日
壊れる
若いうちに苦労は買ってでもしろって言う。でもそれは嘘だ。
苦労なんて買わずとも向こうから容赦なくやって来る。買う余裕なんてありはしない。
そんな余裕は大人達の思い描く幻想で、
現実の子供の世界はそんなに甘くない。
私たちが日夜負う傷は鮮烈なのだから。
小学生の頃、近所にお姉ちゃんが居た。お姉ちゃんとの年の差は4つ。色んな遊びを教えて貰った。
森の中に探検しに行ったり、学校の七不思議を試すために夜中に学校に忍び込んだりもした。後でしこたま怒られたけど、また行こうとお姉ちゃんに言われた時は断るどころか次の冒険はどこに行くのかとワクワクした。
中学になってお姉ちゃんは遠くの街に引っ越して行ってしまった。
お姉ちゃんが引っ越す最後の日、お姉ちゃんは私にお別れを言ってくれなかった。私がまだ寝ていたから、お父さんとお母さんにだけ朝にお別れを言って街を出て行ったと後で聞いた。
薄情だと思った。どうして手紙の1つも無いのだろうかと思った。私たちは一番の友達だったのに。
そう思っていたのは私だけだったのかと怒りに震えた。
だから私は、沢山勉強して、オシャレして、人気者になって、沢山友達を作ろうと思った。多少誰かが居なくなっても構わないくらいに沢山の友達を作ろうと考えた。
結果は上々だった。私はすごく綺麗になったし、成績も遅くまで勉強してたから一番になれた。
私は凄くちやほやされて、尊敬されて学校のアイドルみたいになった。
二年生の始め、先生に生徒会長になってくれないかと頼まれた。
私はもちろん承諾した。毎日忙しかったけど頑張った。もっと人気者になりたかったから。時間の合間合間に先生が会いに来るようになった。先生は仕事の手伝いだって最初は言ってたけど、嘘だった。
最初から私を放課後生徒会室にいさせる為に、私に手を出すために、兎を罠にかけるために。先生は。
ヒグラシの鳴く、燃えるように赤い日が差し込む教室で私は初めて人の形をした獣に襲われた。
子供の頃お姉ちゃんの後ろを走り回っていたからなのか、色んな冒険をして度胸が付いていたからなのか。足が動いた。私は学校を走り抜けて家の自分の部屋まで走り込んだ。その日の夜は夕日の火で焼きつけられたようにあの獣の姿が目から離れなかった。
次の日学校に行くと先生は怪我でお休みしていると言われた。
鬼が去ってとても安心していたら先生はお前が怪我させた。だから今度1人で謝りにいけと別の先生に言われた。私は周りの友達にほとぼりが冷めるまで助けて欲しいと言った。
やんわりと断られた。
どうして?友達だよね?
そこまで仲良くはないかな、、、
だって殴られたら怖いし、、、
なんか、ごめん。揉め事に巻き込まれるのはシンドい
わかった、、
気がつけばうさぎは蛇の群れの中にいたのでした
仲間たちに囲まれて楽し気なウサギはその実、一人ぼっちだったのでした。
その日は1人で帰りました。
山の中に入って制服と重いカバンを燃やして捨てました。身軽になった体で自分の家に帰りました。
幸い自分には才能に溢れているからやりたい事をまた探せばいいとその時は思っていました。生徒会の仕事も人間付き合いも運動も勉強も全部できていた自分にはなんでも出来るとそう思っていました。
次の日、私は何もしませんでした。
その次の日も、その次の日も、でもその間私はずっと思っていました。
「何やってるんだろう私」「何やってるんだろう私」「何やってるんだろう私」「何やってるんだろう私」「何やってるんだろう私」「何やってるんだろう私」
「何やってるんだろう私「何やってるんだろう私」
「何やってるんだろう私「何やってるんだろう私」
そして私はずっと家の中にいます。
苦労苦労ってそれでどうなっても誰も助けてくれないのなら、私は頑張らずただ、子供らしく遊んでいれば良かったんだ。
死んだ色彩の中で私は引きこもり生活を続けていた。食べて、寝て。エンディングのないネットゲームで惰性で生きていた。ネットにしか居場所がない
あれから人が怖い。怖い。免疫の無くなる病気に掛かってしまったみたいに。人と声を交わすとイライラするんだ。
変な夢を見た
記憶は無い。だけどすごく頭が重い。頭の中にドロっとした感情だけが残っている
ハラリ、うつむいた瞬間に手に髪がかかる。
白い。白白しい程に色が無い。
髪もそれをかき上げる、私の手の肌も。
「あ、あぁぁぁ。」
力と一緒に息が抜ける。
怖い、怖い、何が起きてるのか分からない。
でも、でも。これはこれで都合がいいのかも。引きこもる理由が出来た。こんな化け物を世間は受け入れてはくれないだろう。
ピロン
スマホのメッセージの通知が鳴る
「なんだろ。yuzu?」
ネットの友達だ。少し気弱だけど電子機器に強い頼れる友人だ。
【天上に燃える緋色の目あり心の狭間に耳あり
心を掴む言葉は常に地獄の底。希望は鍵、絶望は門天と地を今こそ繋ごう。】
あ、?あ、メッセージが現れては消えた。
【今のメッセージは何?】
【???わかんない?nanaも変なこと言うの?怖いの怖いの家に来てくれない?】
【少し考えさせて】
【ダメ?ダメなら、私、死んでるかも、泣笑】
【あなたも?】
【え、嘘でしょ。いいよ話を合わせて同情しなくていいよ】
【、、いいから。私にもなんかないのか】
【えぇえ。貴方はどうしたのさ】
【私は白髪になった】
【そっか。】
ブロロロ
荒々しい車の音が家の外から聞こえて来る
【ちょっと待ってて】
窓を閉めよう
キキーーッ
音が
ガッシャーン
車が
私の 家窓 割れて
なんで私死ぬの?
生まれて私は、
「お前が死ねぇぇえええええ!」
ぐっっしゃあああ
潰れた車の気絶した人間の頭の上、180度回ったフロントガラスの中に白髪に血のように赤い目つきの
牙と角の生えた人、とどのつまり鬼が居た。
そして私の顔には大きく私の感情を描き出したのように
【幸せになりたい】と黒く書かれていた。
読んで下さりありがとうございます。