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俺TUEEEしたかっただけなのに。  作者: 玉御爺
第一章  出逢い
2/5

異世界生活最初のバトル



 目を開けるとレンが立っていたのは先ほどの白い空間とはうってかわって薄暗い路地裏だった。路地裏の先からは光が差している。光の方へと踏み出した。



 路地裏を抜けると賑やかな街並みが広がっていた。


「すげぇ……。」


思わず感嘆の声が漏れ出る。大きな幅の道路が真っ直ぐと続いており、それを挟む形でたくさんの建物が立ち並んでいる。そのほとんどがレンガ造りで色鮮やかだ。元の世界でいうとヨーロッパのイメージに近い。レンの住んでいたビルばかりの町では見られない風景に気分が高揚していく。とりあえずはこの街並みを楽しもうとレンは歩き出した。



 かなり栄えているようで様々な店が立ち並んでおり、人通りも多い。看板に書いている文字は見たことがないものだったが、視界の端に現れた『翻訳』というスキルのおかげで読むことが出来た。

 ふと、『服屋』と書かれた看板が目に入る。今まで気にしていなかったが、レンの現在の服装は上下とも部屋着にしていたスウェットである。上下スウェットの俺TUEEEなんてあまりにも格好がつかない。着替えよう。そう思い、店のドアノブに手を伸ばそうとしてようやく気がついた。――お金を持っていないということに。





「クッソ、お金も貰っておくべきだった。」


 夢の異世界生活がはじまって最初にやることが職を探すこととなってしまった。さっきまでの愉快な気分は消え去り、気持ちは重くなるばかりである。通りには冒険者らしき人もいたので、ギルドで依頼を受ける方法も考えたが――


『ああ、ギルド?この辺にはないんだよねえ。』


とのこと。


「どうするか……。」


今まで働いたことなんてない。途方に暮れ、気もそぞろになったレンは向かいから歩いてくる人に気づかなかった。そのままドンとぶつかってしまう。


「すんませ……。」


顔をあげると、ぶつかった相手は背中に大剣を携えたいかにも荒くれ者といった風貌をした大男。目元の傷が恐ろしく似合っている。


「あ?」


男がレンを睨みつける。


「ごめんなさい!失礼します!」


ぶつかったのは悪いが、こんな相手には逃げるが勝ちである。しかし男はその大きな体躯を使って道を遮った。


「人にぶつかっておいてなんの詫びもなしかァ?」


相手の迫力に思わず怯む。辺りを見回すが誰もいない。気付かないうちに人気のない道へと入っていたようだ。危機的状況に焦っていると、視界の端に『スキル:サーチ』の文字が浮かび上がった。そう、今のレンにはチート能力があるのだ。レンは『サーチ』を使い、男のステータスを見る。


―――――――――――――――


  ボンドルド Lv.18

  生命力 1019

  神力 686


  〈魔法適性〉

  ・土属性魔法


  〈スキル〉

  ・防御増強

  ・肉体強化


―――――――――――――――



――勝てる。レンは確信した。


「ぶつかったのは悪かった。でも今、所持金0なんだ。金が欲しいなら他を当たってくれ。」


男――ボンドルドの額に青筋が浮かび、拳をボキリと鳴らす。


「いい度胸じゃねえか」


ボンドルドが拳を振り上げた。拳はレンへと真っ直ぐ向かっていく。が、レンには回避スキルのおかげで軽々と避けられる。男は間髪入れず2発目3発目を繰り出してくるが、レンはそれらも軽々しく避けていく。ボンドルドは頭に血がのぼった様子でとうとう背中の大剣を引き抜いた。


「クソがぁぁーー!!」


振り上げられた大剣を見てレンは大きく踏み込んだ。大剣の重い一撃を躱すと同時に相手の懐に入り込む。人生で一度も人に向けて使ったことのない右拳を相手のみぞおちに叩き込んだ。拳に硬い衝撃が伝わる。


「グッ……!」


ボンドルドが小さくうめき後ずさるのを見るに相当なダメージを与えられたようだ。


「調子に……のるんじゃ、ねえぞ……っ!グリード!!」


ボンドルドがレンへ掌を向け吠えるとレンの足元の地面がぐらりと揺れる。


「うおっ」


地震か……?異世界なのに?そう気を取られているとボンドルドが飛びかかってきた。


「うッ、ぁっ!」


振り下ろされた大剣を咄嗟に腕でガードするもあまりの力に軽く吹き飛ばされる。

急いで体制を整え直すと、なぜか真っ向から大剣に斬りつけられたはずの腕はかすり傷程度で済んでいた。不思議に思うと『スキル自動発動:物理攻撃ガード』の文字が浮かび上がる。スキル様様である。気を引き締めて次の攻撃に備えた。

……それにしても、先ほどの揺れはなんだったのか。


「もしかして、土属性魔法か?」


先ほどサーチで見たボンドルドのステータスでは土属性魔法に適性があった。何となくの予想でしかないが、魔法であればこういったことも出来るのだろうか。

……魔法といえば、レンも使えるはずである。どうやって使うのだろうか。確か先ほどボンドルドがやっていたのは――


「……グリード」


大剣を構えたボンドルドへ掌を向け唱えた。ボンドルドの足元が大きく揺れる。先ほどよりも明らかに揺れが大きい。


「な、にィッ!」


激しい揺れにボンドルドは大剣を支えにして立つことがやっとの様子。そこへレンは『スキル:身体能力向上』を施した状態で飛びかかる。まともに防ぐ手段がないボンドルドの顔へレンの拳が炸裂した。


「……ッ!」


白目を剥いたボンドルドの巨躯が地面へ叩きつけられる。


「オレの、オレの勝ちだ!」


レンは大きく拳を掲げた。



 初めてのバトル、初めての勝利。その事実に浮かれていたレンはようやく気づく。


「ハッ!やべぇッ、お金のこと忘れてたぁ!」


もう既に日は暮れ始めている。お金がなければ宿もとれない。人生初の野宿をすることになるのだろうか。


「……なぁ」


頭を抱えていると声がかかる。声の主は気絶していたはずのボンドルドだった。咄嗟に身構える。


「やめろやめろ。俺様の負けだ。戦う気はもうない。」


そう言ってどっこいしょと起き上がるボンドルド。恐ろしい。回復があまりにも早すぎる。


「はぁ〜あ、まさかこんなヒョロガリにやられちまうなんてなァ。全く情けねえ。一体どっからあんな力出てんだ?」


「……」


ボンドルドはレンの目を見据えた。


「……おまえさん、金がないって言ってたよなァ。稼げる場所があるんだがついてくるか?」


魅力的だが怪しい誘い。レンが思わず訝しんだ目で見るのも仕方ないことだろう。


「別に無理にとは言わねえよ。」


――ボンドルドとの戦闘で自信はついた。危険そうだったらすぐに引き返そう。どちらにせよ、このままでは野宿である。


「……分かった。連れてってくれ。」


さて、一体どこへ連れていってくれるのだろうか。


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