魔法少年ウィンピィ
何を隠そう、この街の平和を密かに守っているヒーロー、魔法少年ウィンピィの正体はこの僕だ。
普段はケイドロや色鬼に全身全霊を捧げている偏差値35の幼気な男子高校生だけど、ある日突然、マジカルでリリカルでプリミティブでフィジカルでフィテッシュな力が僕を導き、魔法少年へと変身させたんだ。
魔法○○と言ったら、魔法少女だろうと思ったそこの君は、きっと偏差値が65くらいあるガリ勉なんじゃないか?
もっと世界を見た方が良いよ。今時はジェンダーバランスを考慮しなければならない。過去に魔法少女が世界に溢れていたのならば、今のトレンドとしては魔法少年を前面に出していかなければならないんだよ。
……実はその意味は僕にはまったく分からないけど、僕を導いてくれた存在、コンプラーイ・アンスはそう言っていたぞ。
ただ、最近、すごく困っていることがある。
大・大・大好きな女の子ができたのに、なかなか告白できないんだ。
ファーストチャレンジは最悪だった。
「なんだこれ、果たし状って! あーしに文句あるわけ?」
大好きな女の子はギャルだ。オタクには優しいけど、僕には優しくないギャルだ。そして、それは愛情の裏返しだということは、聡明な君達にはきっと伝わっていると思う。
両想い間違い無しなので、告白しようと思ってラブレターを書いたつもりが、果たし状を僕は出してしまっていたらしい。
そう、これが魔法少年ウィンピィになることの弊害! ウィンピィとは英語スラングで弱虫、へたれ、びびりという意味。その名の通り、変身前の姿でヘタレパワーを溜めないと変身できないポンコツヒーローなんだ。
そして、アンスの力で僕は無意識にヘタレ行動を取るように改造されてしまったんだ。
頭の中では愛の言葉を綴っているつもりだったのに!
『君のその喋り方! キャラづくりだろう? うざいよ!』
とか挑発的なことを書き綴る果たし状を体が勝手に書いて送りつけていたらしい。
果たして、それはヘタレ行動なのか? という疑問が一瞬浮かんだけど、そのおかげで変身した際はすごい力が発揮できて、強敵のパワハ・ラーを撃退できたから、仕方ないと割り切った。
セカンドチャレンジも悲惨だった。
手紙がダメなら直接言おうと屋上へと彼女を呼び出した。果たし状の一件があったから警戒心バリバリだったけど、真っすぐな性格(そこが好き)な彼女はちゃんと現れてくれた。
「僕は、き、君の事がす―」
喉が絞まってその先の言葉がどうしても出てこない。
「な、なんだよ。ちょっと怖いぞ、おめぇ」
「す、す、簀巻きにして海に投げ込みたい!!」
ようやく出てきた言葉が殺害宣言だったので、腕っぷしも強い彼女にボコボコにされた。変身前の僕はひ弱なもやし男子でしかないので、それはもう四分の三殺しぐらいにされた。
そんな容赦のないところも素敵だった。
彼女の新たな一面が見れたこと、溜まったパワーで超強敵のカスハラーが倒せたので、半分成功したようなものかもしれない。
最早、自分で告白するのは無理だと悟った僕は、親友の駒助氏にキューピッド役をお願いした。ただ、人選が悪かった。駒助氏は稀代のモテ男だった。
ダブルデート的に遊園地に出掛けたけど、お化け屋敷で他の三人に巻かれてしまった。あまりに可哀相だったのか、お化け役のスタッフに慰められてジュースを奢ってもらった。
その後、遊園地に怪人マスゴミーが現れてしまったので、結局デートはできなかったと思えば辛くない。そう、全然辛くなんかない。しょっぱい水が目から出てきているけど、辛いわけがない。
そして、今、最大のチャンスいやピンチを迎えている。
目の前で彼女が怪人に襲われている!
僕は意を決して変身し彼女の前へ飛び出す。
「僕が来たからにはもう大―」
「きゃあ、変態がもう一人っ!!」
僕がカッコいい台詞を言い終わる前に彼女はそう言って一目散に逃げ出していった。
彼女を襲っていたゲンカー・イチ・ユウネンはトレンチコートに全裸という確かに破廉恥で変態的な風貌だから変態と言われても仕方ない、とは思う。
だけど、僕の恰好は益荒男を表現した由緒正しいAKAFUNフォームだ。垂れ部分には「正義」と金の刺繍も入っていてどこからどう見ても超絶カッコいい。確かに肌色の部分は、ユウネンと大差ないほど多いけど、絶対に変態なんかではない。
いいさ。分かったよ。
好きな人に思いを届けることができなくても!
好きな人に撲殺されかけたとしても!
好きな人を親友に奪われたとしても!
好きな人に変態呼ばわりされたとしても!
僕はヒーローだ!!
ヘタレパワーは力に代えて、平和を守るヒーローなんだ!
かかってこい、悪の組織ショーワーの怪人ども!
この僕がいつでも相手になってやる!
(了)