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ファナは綺麗






「リベレは、パウルと通じていたらしいわ」

 顔に大小の傷痕や火傷痕のあるフリーダは、物憂げにお茶をすする。

 反乱から、半年が経った。反乱の途中、植物園は一部が燃えたが、修繕がすんであたらしい植物も植えられ、また、ロートがそれを描いているところだ。ファナと王女三人で、お茶を飲んでいる。侍従や官女は、気を遣って、はなれたところに居た。


 植物園を燃やしたのは、フリーダだ。彼女は、王太后の葬儀で振る舞われる予定だった酒をぶちまけ、火を点けたのだ。敵を少しでも減らす為に。侍従や官女達を逃がす為に。

 火のなかで倒れていたフリーダは、フェルジャンス達が見付けて救い出した。彼女は傷痕について、これで男を追い払えると、寧ろ好意的に思っているらしい。修道院いりも、そろそろ現実になる。ようやくと、中断していた王太后の葬儀が終わったからだ。


 椅子に腰掛け、のろのろとレースをあむファナは、王女達顔を向けた。フリーダの隣のマグノーリエが、への字口になる。

「やっと調べがついたのです。リベレもようやく、まともに喋りましたしね」

「いやな話ね」

 リーリエは顔をしかめる。


 パウルは、リベレに、后にしてやると約束していたらしい。そして、情を交わした。リベレは身籠もり、パウルに命じられて、ロートとそうなったふりをした。

 パウルは以前から反乱を計画し、玉座を盗むつもりだった。へーレ家が借金をすることになったのは、直接は不作が原因だが、実際は到底うまく行きそうにない貿易を簡単なもののように見せかけるなどして、借金をふくらませるよう工作したのは、パウルの一派だ。ラーヴァ、シュラム、マルモア、ヴォルケも、多かれ少なかれそのような工作をされていた。

 パウルは玉座を盗めなくとも、ロートの子どもとして自分の子どもを育てさせるつもりだったのだらしい。リベレにそのようなことをいったそうだ。パウルの幾らか残っている仲間――当然、捕まっている――も、そういったことをいっていたという。


 リベレはロートを陥れるのに失敗し、パウルに助けを求めたも無視され、実家へ戻される。その後、流産してしまった。

 パウルは余程、他人の気持ちに疎かったと見え、リベレの実家にも反乱の仲間になるよう打診していた。リベレはそれで、仲間に加わった。パウルは愚かで、自分が一度見捨てた女を傍に置いた。そうして、目の上のたんこぶである王太后、自分の母でもある王太后が死んだ直後、反乱を決行した。


 リベレが反乱を停めなかったのは、パウルを大罪人にしてから殺す為だ。


 謁見の間で玉座に近付いていったパウルに、リベレは小刀を突き刺した。パウルは玉座に触る直前に死んだ。反乱者の烙印だけもらって。






「あら、コンスタンチン、パンタオン、もう乗馬も弓も、お兄さまはやったでしょう」

 植物園に這入ってきた儀仗兵達は、小さく頭をさげた。フリーダがいう。「パンタオンはともかく、コンスタンチンはお姉さまに用事でしょ」

「殿下、からかわないでください」

 コンスタンチンは赤くなる。彼は最近、リーリエと婚約した。

「陛下が、そろそろこちらへいらっしゃいます」

「安全確認という訳ね。大丈夫、あれから誰も、わたしに火打ち石を持たせてくれないの」

 フリーダが欠伸をし、リーリエとマグノーリエにそれがうつる。


 陛下方は、すぐにいらした。大怪我をした国王だったが、薬のおかげもあって一命をとりとめ、最近床上げした。まだ歩くのに介助は要るが、いずれそれもなくなるだろう。

「ロートは、楽しそうに絵を描いているな」

「はい、陛下」マグノーリエがくすくす笑う。「でも、わたくし達に興味ないみたいです。お兄さまったら、さっきから葉っぱばかり描いてらっしゃるの」

「今はなにかわかりませんけれど。見せてくれないのよ、お父さま」

 ファナが、侍従達にお茶の指示を出そうと、椅子を立とうとすると、王妃が手で制した。

「あら、ファナ、だめよ。あなたは今、無理をしてはいけませんからね」

 ファナは苦笑いして、腹部を軽く撫でる。

 ぱっと、ロートが振り向いた。ぼんやりした顔で、とことことやってくる。

 ロートはあれから、式典や、朝議などに、顔を出すようになった。「普通」のふりはしていない。ロートのままだ。貴族達はそれでも、結局彼を王太子にした。反乱を鎮めた武勇が、反対派を沈黙させたのだ。

 王太子になっても、ロートはロートだった。彼は、優しくて、時折とても頑固で、杓子定規で、話をするのがへたで、泣き虫で、読み書きが苦手で、そしてとても素敵だ。


 夫は手にした画布を、テーブルへ置く。

「あら!」

「まあ」

「凄いじゃない」

 三姉妹がいい、くすくす笑った。ロートは小首を傾げる。「うまくかけなかったよ」

 画布には、ファナが描かれていた。少々大きくなった腹部に手を遣り、もう片方の手には(シャトル)を持って、どんなレースをあむか思案している様子だ。端のほうに、隣に座っているフリーダの肩も描かれていた。

 ロートは肩をすくめる。

「ぼくたちのこどもが、おなかのなかにいるときに、おかあさんがどんなだったか、しりたいとおもって。でもうまくかけなかったよ。ファナはもっと、きれいだもん」






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― 新着の感想 ―
[一言] ファナとロートの間にある確かな愛が美しかったです。 素敵なお話をありがとうございます…!
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