表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

【3】従兄弟

 ドルトン・フィル・アンガストニアに奇跡が起きたのは、五年前のことだ。

 彼が患っていた不治の病が、完治したのである。

 それはなんの前触れも無く、突然のことだった。

 これまで運動も満足にできず、感情の起伏ですら身体に負担がかかっていたというのに、走ることは勿論乗馬も可能になったのだ。

 しかも一時的に治ったわけではなく、一年、二年と健全な状態が続いたことで、貴族らは、神がドルトンに奇跡を与えたと言うようになった。


(私はもう、自由に生きることができるはずだ。それなのに!)


 ドルトンはギリっと歯を食いしばった。

 なんの取り柄も無い自分とは不釣り合いな婚約者は追い出した。

 病が治った際に得た王太子の地位もまた、順調に盤石になりつつある。


(それなのに、なぜ私がこんなにみすぼらしい姿をしなければならないのだ!)


 回廊を行くドルトンは、かつての豪奢な服装ではない。

 式典や夜会以外でも、ドルトンは常に最高級のオーダーメイドの服をまとい、同じ服には二度と袖を通さない性分だったのだ。

 それが王族の嗜みである。

 それなのに、ドルトンが今着ているのは、ごくありふれた燕尾服であった。

 理由はわかっている。

 ディアンナとの婚約を解消したことにより、ポーリッシュ伯爵家からの援助が打ち切られたためである。


(そうなることはわかっていた。だから私は、新たに王妃候補を婚約者に迎えようと言ったのだ。それを、なぜ父上は反対なさるのだ!)


 先々月のディアンナとの婚約破棄以後、国王との関係性が良好とは言えない状態が続いている。

 国王はドルトンに、ディアンナに詫びて再び婚約を結び直すことばかり命じるのだ。

 しかし、ディアンナはどう見てもドルトンにそぐわない醜女であるうえに、王妃として特別に優れた才能を持っているわけでもない。

 唯一彼女との婚約で得るものといえば、ポーリッシュ伯爵家の支援であった。

 だが、何も支援を望む貴族はポーリッシュ伯爵家だけではない。

 後ろ盾になり、支援金も惜しまない家門など探せばいくらでもいるだろう。

 なにせ、ドルトンには健全な肉体と、王太子としての立場があるのだから。


(公爵家から妻を娶ればいい。今だけだ、このような貧乏くさい生活は……!)


 フッ、ドルトンは笑った。

 国王の命令は据え置いて、先に新たな婚約者を探そう。

 後ろ盾となり、資金提供を惜しまない者を見つけ、ディアンナより優れた者を見つけたと国王に提示すればよいのだ。


(そうすれば、父上も目を覚ますだろう)


 ふと、前方から歩いてくる茶髪の青年に気付いて口の端をあげた。

 ドルトンが病弱だった五年前まで、未来の国王と言われていた従兄弟のカルロスである。


「やぁ、カルロス」

「ドルトン殿下。ご無沙汰しております」


 そう挨拶をするカルロスは、それなりに整った顔立ちをしているが、到底ドルトンの足元にも及ばない。

 髪も茶色だし、背もそれほど高くない。

 何より存在感というものが皆無で、王族として必要なカリスマ性が足りないのだ。


「王宮には、何をしにきたんだ? 確か、父上から辺境伯の地位を与えられたと聞いているが」


 イフ国との県境にある辺境地で、王都からほど遠い地である。

 王都には不要だという意味で、国王が遙か遠くにカルロスを追いやったのだろう。


「陛下より呼び出しを受けましてね。暫くタウンハウスにおります」


 カルロスは肩をすくめて見せた。

 ドルトンはそんなカルロスを見て、露骨に笑ってみせた。


「残念だったな。俺が病弱なままであれば、お前が国王になれたかもしれんのに」


 すると、カルロスは驚いた顔をした。

 まるで考えもしなかったというような態度が露骨過ぎて、白々しく見える。


「精々、辺境の地でうまくやっていくのだな」


 そう言って、ドルトンはその場を去った。

 カルロスの反応をじっくり見たかったが、今は思い立ったことを実行に移すほうが重要である。


 ――新たな婚約者を見つけるのだ。


 ディアンナよりも聡明で美しく、そして資産のある後ろ盾を。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ