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魂(2)


 ふいに、「にゃぁ」っという鳴き声が聞こえた。


 声が聞こえたほうに顔を向けると、近くの茂みからガサゴソという音がする。少ししてからひょっこりと顔を出したのは小さな子猫だった。


 その猫を認識した少女は驚愕に目を見開く。


「……黒、猫?」


 この学院では己の能力によって髪や瞳の色が変化する。炎の扱いに特化した者なら髪や瞳は赤く。水の扱いに特化した者なら青く。


 だが、髪や瞳が黒く変化する能力などない。よって、この世界には黒色の髪や瞳を持った者はいない。


 ……この猫は、一体なんだ?




 とある部屋に少年が1人立っていた。色素の薄い、オレンジと行っても過言ではない赤毛の少年で、棚に立てかけた写真を何とはなしに眺めていた。そこに写っていたのは1人の少年、1人の少女、1人の女。3人とも髪は黒く、こちらに向かって微笑んでいる。写っている少年は髪の色こそ変わってしまったが、今、写真を眺めている少年に違いなかった。


 と、不意にコンコンっというノック音が聞こえた。そして、間を置かずに扉を開く音も。


 少年は慣れた様子で扉の方へと向かう。


「返事をしていないのに開けないでくださいと何度言えば分かるんですか、ファイさん。……っていうか、あなたどうしたんですか?」


 ファイと呼ばれた少女はビショビショで、少年に向かってニッコリと微笑んでいた。


「あのな、あのな。おもしろいモノ拾って……っわぷ!」


 ファイの視界が白に染まる。次いで顔に柔らかい感触。手に取ってみると、ふわふわの清潔そうなタオルだった。顔を上げると少年が面倒くさそうにこちらを見ていた。どうやら彼が投げてきたようだ。


「とりあえず体を拭いてください。風邪でも引かれたら困りますし、何より部屋を濡らされるのは勘弁ですから」


「おぉ、サンキューな」


 そう言って、ファイは長い赤毛を揺らして笑った。だが、彼女は自分の体を拭かずに足下にあった何かを拭き始める。おそらく、先程彼女が言いかけていた「おもしろいモノ」だろうとだいたい予想する。


 しばらくそうしてガシガシと中にある”何か”が哀れになるほど乱暴に拭かれているのを見ていると、ファイが不意に話しかけてきた。


「そういやスー。お前授業今日は出てないのか」


「……ファイさんはお忘れかもしれませんが俺は一応一ヶ月前に学園内での課題を全て終了して卒業してます」


 …その場に、沈黙が降りる。


「あ、あはは。そうだっけか?時が経つのは早いなぁ。あははははは」


「そーですね。俺よりも一つ年上であるはずの誰かさんは何度目の留年でしたっけ?」


「まだ二度目だよ!」


「と言うことはまだ一度も進学してないんですね」


 スーの呆れたと言わんばかりの溜め息に、ファイはぐぅの音も出ずに固まる。


「なんなんでしょうねぇ。体術だけなら学年トップなのに学力が学年最下位というこの格差。俺はファイさんの頭の中を一度でいいから観察させて欲しいです」


「うるせー。普通は卒業まで十年かかると言われてるこの学園を三年で卒業するような化け物の話なんて聞きたくねぇー」


「俺は体術は苦手なんですけどね。それより、ファイさんこそ大丈夫なんですか?どうせ雨が珍しくて授業を途中で放り出したんでしょう。今頃皆さん探してますよ」


「……もう、いいよ。今帰っても後から帰ってもどうせ反省文だ」


「さいで」


 っと、スーがタオルの中で何かがモゾモゾと動いていることに気がついた。ファイもその事に気がついたのか、自分の手元に目をやる。


「そう言えば、それはなんなんですか?」


「あー、さっき中庭で拾ってな。面白そうだから持ってきた」


 面白そうだから持ってきたって……本当にこの人の頭の中はブラックボックスだ。と、溜め息を吐くスーの事は気にせず、ファイはタオルをめくった。


 中から出てきたモノを見て、スーは驚いたように息を詰まらせる。


「……凄い濃い青の毛並みですね。一瞬本当に黒猫かと思いました」


「お前って本当に驚かせがいのない奴」


 コレだから頭のいい奴はっ!と、ファイは頬を膨らませた。

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