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一、魂

 ザアァアアアア


 ザァアアアアァ


 外から聞こえてきたその音に、少女はふと顔を上げる。


 腰まで伸びた、少しだけウェーブのかかった濃い赤毛。瞳は燃え上がる炎の真紅。この学院の、しかも炎の塔と呼ばれる施設に入っている者達は皆、赤髪灼眼であるが、ここまで炎を連想させるような美しい紅色を持っているのは彼女だけと言われている。


 少女はトテトテと窓に近づき外を眺める。


 窓から見る景色は、まず広い草原が始めに目に付く。それから、目を見張るほど巨大で、神秘的な塔。この巨大な塔はこの学園敷地内に全部で七つ建っており、どれもがそれぞれ意味を持つ。


 まず【光の塔】を中心に置き、【炎の塔】【水の塔】【風の塔】【いかずちの塔】【生命の塔】【大地の塔】の六つの塔がその周囲を囲んでいる。光の塔にはこの学院の責任者が住んでいた。始まりの巫女と呼ばれる彼女は、一目見て純白という言葉を連想させるような容姿をしている。


 ハッとするような白い肌。白銀の流れるような髪。彼女が好んできているのも、簡素ではあるが汚れなどは一つもない白いワンピース。そして、白いブーツ。ただ、その瞳だけが薄い金色で、全てを見通しているかのような光を放っていた。


 まったく巫女らしさなどは全くない姿だが、それでも巫女と呼ばれていた。そして、またの名を白神はくしん


 この世の創世守であり守人。生あるモノのすべての母。


 少女のような姿をしているが、実は何千何億という長い年月を生きている偉大な方なんだそうだ。


 そうだ、というのはもちろん誰もが彼女のことを語る時、口をそろえてそう言うのをそのまま思い出しているだけだからだ。しかし、少女にはその言葉にどうしても頷けない理由があった。 


 確かに、ただ黙って座っていれば可愛らしい幼い少女なのだが、いかんせん性格に多少の難あり。


 多くの者達は白神と話をするどころかほとんど面識がないので知らないが、周りの者達にかなりの無理難題をふっかけてくる少女なのだ。


 やれ、ちょっと戦場の様子を見てこいだの。やれ、喧嘩っぱやい不良共のいざこざを止めてこいだの。さらには、幻の生き物である火の鳥が見てみたい、連れてこいだの。かなりの我が侭姫だったりする。


 大体、すべての創世守である彼女が幻の生き物と言っている時点で火の鳥とは存在しない生物のような気がするのだが、頭の良い友人にその事を伝えるとそうでもないよ、という返事が返ってきた。


 なんでも、白神が作ったのは限られた力ある有力者達だけであとの生物を創りだしたのはその有力者だという。だから例え白神が火の鳥を生み出していなくても、それが火の鳥はいないという確証にはならないんだそうだ。


 その説明を受けても、やはりよく分からずに唸っているとその友人は笑いながら色々と複雑なんだよと言ってきた。


 それから、光の塔以外にはそれぞれ学生が学んでいる。


 この施設は光術専門学院といい、簡単にいってしまえば色々な世界から集まった生物が魔法を学ぶ場所だ。


 主に学んでいるのは人と呼ばれる生物。人は、白神の姿にもっとも近いと言われている生き物である。人は神が己に似せて創った生き物であるという話はここから来る。


 先程話に出た白神が創りだした“有力者”は、一般的に『神の子』と呼ばれており、彼らは白神をモデルとした生物を好んで生み出した。よって、知識ある生物は大半が人となったのである。


 窓のから眺める景色は、いつもより薄暗く透明な宝石がパラパラと降っていた。


 少女は窓から身を乗り出し驚いたように目を見開いた。手を伸ばすと掌が宝石を受け止めた。


 濡れた己の手を少しの間凝視してから、少女はただでさえ乗り出していた体をフッと窓の外に投げ出した。少女がいたのは炎の塔の六階である。地上から百五十メートルほど離れていた所で普通の人間なら地面にぶつかったとたん即死してしまうような高さだが、彼女は構うことなく体からダラリと力を抜いていた。あと少しで地面にぶつかるというところで、少女は身を翻すと小さく呟いた。


「上手く受け止めてくれよ」


 突然、地面から空へ風が吹き上がる。


 そして、風が、今にも地面に衝突しそうになっていた少女の体を拾う。そのまま少女はふわりと地面に降り立つと、何事も無かったかのように空を見上げた。


「……雨……」


 体を容赦なく濡らしていく雨を、少女はただぼうっと眺めていた。


 不意に、少女は口元に笑みを刻んだ。まるで、嬉しくて、楽しくて、しかたがないと言うように。


「何年ぶりだろう。懐かしい」


 そして、楽しそうに笑う。








  懐かしい。

  雨は、ふるさとを思い出す。

  毎日が楽しくて楽しくて仕方がなかったトキ。

  もう、二度と戻らない素晴らしかった、時の思い出。


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