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安易さと誠実さは別物

「うう、頭がパンクしそう。三木元さんは色んな事考えすぎて疲れないの?」

お代わりの飲み物を飲みながら……今度は砂糖なしのストレートティーにしてみた。我ながら影響されやすいと思うけど、体重管理は大事だと自分を納得させる。

「疲れなくなるまで身に染み込ませれば良いのよ。だらけきった状態から立て直すのがキツイのは当たり前じゃない。掃除と同じで毎日コツコツ片付ければ、大掃除だって楽になるでしょ」

「だらけきった…確かに、ダラダラ過ごしてたかもしれないですけどぉ……もっと優しくして下さいよぉ」

泣き言を漏らす私に三木元さんは少し目を細めると、そうねぇと小首を傾げて

「可哀想にこんなに疲れて。貴方は充分素敵な女性よ。だからきっと誰か素敵な人が貴方の価値に気付いてくれるわ。辛いことなんか考えるのは止めて、甘い物でも食べながら将来住みたい家の話でもしましょうか」

「え、え?本当ですか?」

急に目の前に差し出された優しく甘い言葉に、訝しがりながらに手を伸ばしたくなる。辛いことなんか考えたくないじゃない、と頭の隅で誰かが囁いた気がした。

「もちろん。選ぶのは貴方だもの。それでうまくいくと思えるなら、そうすればいいのよ」

頷いてた三木元さんの顔は優しい微笑みを浮かべていたけど、目がまったく笑ってなかった。

「ーーすみません、上手くやれると思えません」

潔く謝る私にやれやれと言うように三木元さんが肩を竦めた。

「安易な優しさと誠実さは別物なのよ。私は気遣ってるつもりで相手のチャンスを棒に振らせる事はしない。耳に痛い事も言うわ。私自身がそれで助けられたからね。辛いことを見ないふりしたり隠したりしても、事実が消える訳じゃないの。時間は有限で人間は不平等なんだから、安易な薄っぺらい優しさに甘えてる暇なんてないのよ。ツルッツルの脳みそに夢だけ詰め込んだ女になりたくないなら、いつでも思考を巡らせなさい。自分にも相手にも、耳に優しい言葉ばかり求めるから背骨が抜けるのよ」

「うう、三木元さんは教育ママっぽいですね」

グサグサと大量に放たれた矢に瀕死になりながら、細やかな反撃を試みる。

「私は基本的に娘が学びたいって言ったことしかさせてないわ。もっと色々学びたいって思うように多少の思考誘導はかけたけど。親が守って興味を広げさせてくれて、学べる環境にいられるってとっても贅沢なことよ」

三木元さんがちょっと顔を顰めてコーヒーカップの縁をそっとなぞる。

「昔、母親に連れられて子どもの保護施設に慰問に行った事があるわ。ああいう場所ってね、保護した子どもに保護された事情を隠さないのよ。知らない事での危険性がある場合もあるから。それに施設の職員は両親のように何から何まで世話したり甘やかしたりもしない。ほんの小さな子どものうちから自立することを考えさせられるし、そのために自分の事は出来る限り自分でやらせる。だって何歳まででもそこにいられる訳じゃないもの。18歳になったら出ていかなきゃいけないのよ。手助けがある内に自分の事は自分で出来て、自分がどう暮らしていくか考えなければ、将来困るのはその子ども達なんだもの。可哀想の毒に子どもの将来を浸すべきじゃない。誠実さって優しくないのよ。普通に頼れる両親がいるなら想像も付かないし、子どもは皆優しさに包まれて育つべきだろうけど、現実はそんなものよ。だからこそ娘はやりたいと思ったことをやらせてあげられる環境にいるのだから、楽しい事も辛い事も別け隔てなく沢山知って欲しいって思ってるわ」

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