私達の大半は無意識で出来ている
不満に思っていたことの原因が分かってスッキリしたのと同時に、自分が目指す状態になるには、なりたかったシンデレラにはならないという選択をしなければいけないという現実にガッカリする。
「でも、容姿を磨いてしっかりしてるように見せる以外に、具体的にはどうすれば良いんですかぁ」
嘆く私に背中、と彼女の指摘が飛んできて、慌ててしゃんと背を伸ばす。意外にずっと背を伸ばしたままでいるのは腹筋を使うのだと気付いて、知らない内に身体がずいぶんとだらけていた事に気付いた。
「自分にも、相手にも、無意識に働きかけるの。人間の言動や判断の90%以上は無意識からくるものだから」
「え、そんなに!?」
「そんなによ。大体の人は自分は意識と無意識を分けられていると思っているけど、私達の脳はその方面ではまったくポンコツなの。意識してやった事は無意識に影響するし、無意識に持っている判断基準は必ず意識してする言動に影響する。マザー・テレサの有名な言葉に、『思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。 言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。 行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。 習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから』っていうのがあるわ。色々な話があるからマザー・テレサ自体はそんなに尊敬はしてないけど、これは真実だと思うの。実験されて証明もされてる。そして思考は無意識から上がってくるものよ。誰かに好かれる立派な人になりたければ、考える事から気をつけることね」
「考える事って?」
「自分に客観的になることね。良くないと分かっていても、これくらい良いじゃないって思ったことは無意識に蓄積されて、そのうち行動に出るし止めようと思っても止められなくなる。さっき言った結婚しろおばさんみたいに。逆に駄目なものは駄目だって考えるようになれば、良くない考えが出ても言動に出るのを抑えられるものよ。無意識に手綱を付けるの。私もまだまだ全然だし、失敗ばかりだけど」
「三木元さんは出来ているんじゃないの?」
「偉そうに言ってるけど、私も可哀想の毒に酔っ払ってた人だから。詳しい話は省くけど、育った家庭環境が古風で抑圧的でね。いつも友達に愚痴ばかり言ってたわ。だからきちんとした人は遠のいていったし、集まってくるのは自分と同じように自己肯定感の低い、楽して誰かに甘えたい人間が多かった。類は友を呼ぶとかいう言葉、本当に昔の人はよく観察してると思うわ。自己肯定感が低いから他で穴埋めするように、人の不幸にざまを見ろと笑ったり、人の欠点ばかり挙げ連ねたりね。自分からは何にも働きかけないくせに、相手の欠点ばかり見て文句を言って、拒絶されるとこんなにも可哀想な私をさらに虐げるのかって怒って。自分の事だけでいっぱいいっぱいで、私も私の周囲の人も意識しないまま、自分より可哀想な人を探しては可哀想って同情しつつ、自分はこの人より可哀想じゃないって自分を慰めて、相手を見下し合っていた。自分を肯定してくれる人だけ求めて、不都合な事からは目を逸らす駄目人間だったけど、高校で会った先生が楽するなって叱ってくれて。最初はめちゃくちゃ反発したけど、根気強く私に付き合ってくれた。実は今でもたまに叱られに行くの。性根……無意識に染み付いちゃうとね、完全に抑えるのもなかなか難しいのよ」
「もしかして前に話してた恩師の人ですか?」
ふと思い当たってそう言うと、今日1番嬉しそうに三木元さんは笑って頷いた。
「そう。私が話したことは、大抵その人の受け売りね。自分から行動すること。自分の選択に責任を持つこと。誰かに依存して振り回されないこと。どんな人であろうと人の不幸を願わないこと。人の欠点ではなく長所を見て伸ばすこと。人は自分の鏡だと思うこと。相手を尊重すること。どれも当たり前だと言われるけれど、実行できている人は案外少ないものよ。何せ人は肯定されることに滅法弱くて、否定されることに逆らいたくなるように出来ているから。行動しないことを選択した結婚しなさいおばさんみたいにね。特に日本は古くから人に寛容でいることを良しとしていた文化だったから、白黒はっきりした海外に影響された現代で考えると、不合理で甘い事も多いのよ。弱くても生きていける社会を作ってるのは悪いことじゃないから、一長一短だとは思うけど……ってまた話がズレたわね」
「ううん、大丈夫。完璧じゃないんだって正直ちょっと安心しました」
「お恥ずかしいけど、どこに出しても恥ずかしい過去ばかりよ。今も多少マシになったくらい。えぇと……つまり自分の無意識に理性の手綱を付けて置けば、自然に言動は整うの。反対に感情や衝動に支配されて無意識を野放しにすると言動は荒れる。どっちが側にいたい人になれるか分かるでしょ。全ては鏡よ。相手に思ったこと、言った言葉、やった行動は良いこと悪いこと問わず、全部ブーメランで返ってくると思っていればいいわ」