シンデレラが悪い訳では無い
思い返してみる。自分のお母さんは週に3度ほど短時間のパートはしていたけど専業主婦だった。それが悪いとは思わないけど、稼ぎの上でお父さんに依存していたのは確かだった。お父さんは悪い人じゃないけど、ちょっと不器用でだらしがなくて家事が苦手。お母さんはいつもブツブツ言いながらソファ脇に脱ぎ捨てられたお父さんの靴下を拾っていたけれど、お父さんに直接言うのは諦めていた。言っても聞かないし角が立つからって。その代わりに近所の人達とよく愚痴を言っていた。離婚する気はまったく無さそうだった。
「同情で得たものを同じ感覚で維持しようと思うとね、ずっと同情される立場でいるしかないの。自ら自分を相手の下に置くしかない。可哀想って言われる事を手放せなくなるの」
「え、でも……分かっていれば抜け出そうとするんじゃないんですか?」
そんな、自分から自分を最悪に置くなんてと思う。三木元さんはそんな私のミルクティー…砂糖を2杯半ほど入れたカップを指差す。
「本間さんは、甘党だと思うんだけど。砂糖なんて肌荒れするし、ブクブク太って醜くなるし、健康を損なうのにそんなに大量に取るなんて馬鹿じゃないの、止めなさいよって言われたらどう思う?」
「腹立ちます。自分の勝手だし、放っておいてって。リラックスするし悪い事だけじゃないし」
「同じ事よ。砂糖が肌荒れや肥満の原因になって、健康に悪いっていうのは事実だけど、悪環境に陥ると分かっていても止められない。それどころか続けるための理由を探す。人間は色々並べられても、結局はほとんど慣れた物を選択するように出来ているって研究結果が出ているわ。不満はあるけど抜け出してまた苦労するほどじゃない。飢えないしそこそこの自由はあるし、私は幸せだって思っている……思いたい。結果、夫の愚痴を言いながら未婚の娘や未婚の周囲の女性に結婚を迫り、否定されると怒り出す女性が出来上がる」
目から鱗がぼろっと落ちる。すごくロジカルで分かりやすいし納得できる。
「でも彼女達は犯罪を侵した訳じゃない。人を気遣ったり子どもを育てたりする、大半は普通の良い人達よ。ただ夫に対してそういう選択を意識せずにしているだけ。泣いて庇護を求める子どものようにね。それを止めるか続けるかは、本間さんの言う通りその人の自由にすることよ。本間さんが考えるべきは、そういう人になりたいか、なりたくないか」
「それは……なりたくないに決まっています」
どっち?と首を傾げた三木元さんに複雑な気持ちで答える。
「ならまず、自分で立たなきゃ。人に頼ることが悪いって意味じゃないわよ?でもより上を求めるなら、誰かの働きかけや情けを前提に期待して泣くだけは止めなきゃ。私達はシンデレラじゃないし、その選択をするならシンデレラになろうとするべきじゃないのよ」