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話題わんこそばになってない?

短編の合わぬ蓋あれば合う蓋ありを先にお読み下さい。

誤字脱字などありましたらご協力頂けると幸いです。

「で、どうだったの?」

「何人かはお話したけど、正直あんまり分からなくて」

日曜日の昼過ぎ、前と同じカフェで三木元さんと向かい合っている。前と違って今回は私からの誘いだった。生まれて初めて婚活パーティーなるものに参加した後の相談をしてみたかった。

別に友達がいないわけでも、結婚した友達がいないわけでもない。でもなんていうか、三木元さんは結婚に至るまでをロジック的に考えている雰囲気がした。万人が納得できる訳じゃないけど、思考のステップが明確だ。

三木元さんは休日のこの時間帯は娘さんのお稽古事が終わるのを待っているらしく、気持ちよく応じてくれた。

「そりゃそうでしょ。ちょっと話しただけで分かる事なんてそれほど多くないもの。初回は、目に見える大きな欠点があるようなのを弾く作業を覚えるくらいで良いと思うわ」

「目に見える大きな欠点とは」

「そうね、例えば……本間さん、チビデブハゲのおじさんとセックスできる?」

「え、いや、ちょっとそれは……ご遠慮したい」

「じゃあ究極の選択。紳士的な態度のチビデブハゲのおじさんと、見るからに結婚して欲しいんだろって見下してくる高身長細マッチョイケメンなら、どっちがマシ?」

「中身と外見どっちを優先するかって話?」

よくある究極の選択だろうけど、意気込んだ割に大した成果も得られなかった私は、ちょっと卑屈になっている。恨めしそうに見てくる私にあっさりと三木元さんは頷いた。

「基準が無ければ選びようがないじゃない」

「選ぶだなんてそんな。私が良いって言ってくれる人なら…」

「じゃあチビデブハゲでもいいじゃない」

もじもじとしていた私のポーズに即座に鋭い返答が突き刺さってぐっと呻いた。

「今のは極端な話で別に最低から選べって事じゃないけど、自己分析と自分の希望の最高ラインと最低ラインはいるじゃない。受験や就職活動でやったでしょ。そこで遠慮してもしょうがないじゃない」

「でも、条件でときめく訳じゃないし」

何となく忌避感とちょっとした反抗心が芽生えて反論すると、三木元さんは苦笑しながら首を傾げた。

「そう?私は好きになるにも理由はあると思うけど。少なくとも本間さんはチビデブハゲにはときめかない。これは条件と言って良いんじゃないの?」

「それは、そうだけど……」

曖昧に相槌を返しながら何かモヤモヤする気がして俯く。何だろう。素直に頷けない。

「納得出来ないって感じね。選ぶより、選んで欲しい?」

「ーーそうかもしれない」

「でも私、受け身で結婚して幸せになった人ほとんど見たことないけど」

問いかけがスッと心に入り込んで落ち着く。ホッと気が抜けそうになった瞬間、またドスッと太い針が胸に突き刺さる。

「これは私の持論だから話半分に聞いて欲しいんだけど。私は選択する権利には、結果に責任を負う義務がくっついてくると思ってるわ。選択の結果に責任を取りたくない人や言い訳がしたい人、そういう人って誰かに選んで貰いたがるのよ。うまくいかなくても自分のせいじゃないって自分を慰めたい」

「そこまで言わなくても……」

眉を顰めながらも納得する気持ちもあって複雑だ。否定したいけど否定しきれない。

「自分の人生じゃない。自分で選んで何が悪いの。大人になれば自分の人生の責任は自分で取るものでしょ。私、娘が成人して2〜3年ほどバックパッカーになってくるっていったら、一応計画や資金の確認はするけど、素直に送り出すと思うわ」

そうなったら楽しそうと笑う三木元さんは豪胆だと思う。

「話を戻すけど、別に白馬の王子様を望んでも良いのよ」

「え、良いの?」

てっきり高望みとか言われる気がしていたのでちょっと意外そうに問い返す私に三木元さんは力強く頷く。

「当たり前よ。その分の努力が出来て、結果に責任が持てるなら。あと言うまでもないけど、自分が誰かを品定めしてるなら相手も自分を品定めしてるってことは忘れちゃだめよ」

「う……努力って、エステとか?」

「もちろん見た目を磨くのは大前提よ。でも見た目で釣られてくれるならそれはそれで簡単だけど、私の経験からすると見た目だけで選ぶ人って長続きしないと思うわ」

「うぅー…どうすれば」

「そうねぇ……まず、猫背になってる」

唸りながらテーブルに顔を伏せる私に、笑いながら三木元さんが指摘する。慌てて顔を上げて、背を伸ばして座り直す。

「就職活動の時に言われなかった?背を伸ばして、相手の目を…見られるのが苦手な人もいるから、そういう場合は眉間辺りを真っ直ぐ見て、笑顔でハキハキ喋りなさいって。どうしてだったか思い出して」

「えぇと……きちんとしてしっかりした人に見られる。その方が、好感を持ってもらえる……」

思い出しながら自分の言葉に目を見開く。それに三木元さんが満足そうに頷く。

「私の経験上、社会的地位が高い男性ほど、結婚相手にはきちんとしてしっかりした、意思表示が出来る大人だと思える人を望むのよ。結婚は大人がするものでしょ。あとは人は目が合うと緊張するの。それだけで自分に注意を引けるでしょ」

「なるほど」

「ーー睨んじゃだめよ。あくまで自然にね」

頷いて力を込めてじっと三木元さんを見つめると、困ったように眉を下げられて慌てて視線を外す。

「そして視線が外れるとホッとするの。緊張と緩和って無意識にすごく強く働きかけるの。強い印象を残せる。軽いボディタッチも同じ理由で有効だけど、軽々しくすると娼婦みたいに扱われるから、ここぞという時だけにオススメするわ。あとは自分ばかり喋るのは論外だけど、何でもああ、そう、ふーんで会話を繋げないこと。意見のない馬鹿に見えるし、相手に話題わんこそばをやらせることになるから」

「話題わんこそばって何ですか?」

「よくいくつかの同じ自慢話ばかり繰り返すおじさんっているでしょう。話すことはそれしかないのかって思うような」

「いますね」

「そういう場合の大半は、話し相手も自分から話題を提供していないの。相手に次々とそばという話題を求めるくせに、そばじゃなくてうどんやラーメンや冷麺を捻り出せと言っているのよ。用意できるわけないでしょ。そのうち話すことも面倒に感じるし、結果的に自分から楽しくなくなるように仕向けてるのよ」

「ぐふっ…!」

ものすごく胸に刺さった。めちゃくちゃ納得してしまう。

せっかく伸ばした背筋がへにゃりと曲がってしまうような気がした。

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