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勇者に婚約破棄された悪役令嬢、推しのラスボスに溺愛される~城が散らかってたから、片付けていただけですが~

作者: まと
掲載日:2023/10/19

他人の恋を盛り上げるためだけの存在が、どこにでもいる。

私はまさに、勇者と聖女の恋を燃え上がらせるための役だった。


「まったく。最後に一言くらいあっても良いじゃない……」


誰もいない宿屋に、私の声が響く。

手に力を込めて、手紙をぐしゃりを丸めた。

『やっぱり聖女と婚約するわ(笑)勇者より』と書かれていた紙を。


前世でやりこんだゲームに転生したから、この結末は知っていた。

私はヒロインである聖女の恋敵。貴族の悪役令嬢、ヘレナだから。


「分かっててもムカつく。誰の金で、ここまで来たと思ってるのよ!」


シナリオでは、婚約破棄された後にヘレナの出番は無い。

勇者と聖女の愛の力(笑)でラスボスの魔王を倒して、エンディングだ。


そうなると、こうしてはいられない。

宿屋を出て、雑貨屋で買い物をして、ある場所へ向かった。


ゲームの推し、ラスボスである魔王が住む城へ。



城への道のりは知っていたから、すぐに辿り着いた。


「勇者たちは、まだ時間かかるわね。精霊の開放とかなんとかしてるから」


扉はすんなり開き、城の中へ足を踏み入れた。

夜に来ると不気味だが、朝に来ると意外と立派で、ちゃんとしている。


「でも、物が多すぎるのよねー」


ゲームをしていた時から気になっていた。

この城、とにかく物が多い。棺、鎧、剣、弓矢、拷問器具。


「雑貨屋で買った収納で、足りるかしら?」


散らかっているものたちを、ジャンル分けして収納箱に放り込んでいく。

無心で片付けをしていくと、勇者に与えられた心の傷も癒えて行った。

推しには、心地よく過ごしてもらいたい。どうせ勇者に倒されてしまうから。

一心不乱に片付けていたから、背後にいた存在に気付かなかった。



「お前、何をしている」

「うわ!?」


突然聞こえた推しの声に、私はのけぞった。

生で聞くと、ますますイケメンボイスだ。


振り向くと、夢にまで見たラスボス、魔王が立っていた。


「盗賊か?それにしては身なりがきちんとしてるな。立ち振る舞いも品がある」

「い、いえ。片付けていただけです……」


今日も魔王はかっこいい。

たくましい身体、金髪に赤い瞳、悪魔的な美しさ。


「片付けだと?」

「はい。魔王に気持ちよく過ごしていただきたくて」

「……」

「これらを地下の倉庫に入れれば、もっと快適な空間が出来ると思いまして」


完全な沈黙が、数秒ほど流れた。

彼は顎に手を当てて、しばらく考えた後に、言った。


「素晴らしいな」

「え?」

「その発想は今までなかった。魔物たちにやらせよう」


彼が指を鳴らすと、ゴーレムやミイラが集まって来た。

少し怖い。ゲームでは倒すべきモンスターだし。


「君の名前は?」

「ヘレナです」

「良い名前だな。みんな、ヘレナの指示を聞くように」


ウォオオオオオ!と、雄叫びと咆哮が上がる。

普通に怖い。どことなく、みんな嬉しそうだし。


でも、力仕事をしてくれるのは頼もしい。

みるみるうちに、魔王城は片付けられていった。



その日の午後。

魔王と私は、食堂の大きなテーブルを囲んでいた。

「ヘレナ、何とお礼を言ったら良いか」

「いえ。こうしてお話できたけで光栄です」


彼は優雅に紅茶を飲んだ。

そうして私を見て、にっこりと微笑んだ。


「君は聡明なだけでなく、謙虚でもあるんだな」


魔王ってこんな甘々キャラだったのか!?

ゲームでは全く分からなかった。


ラスボスである魔王との会話は、ほぼない。

彼を倒してアイテムを手に入れて、世界を救って終わり。


数少ない立ち絵と、パターンの限られたボイス。

しかし私のハートを射止めるには充分だった。


「こんな素敵な女性がいるなんて、人間も捨てたものじゃない……」


彼はどこか遠い目をした。

そして、私をまっすぐに見つめた。


「なあ、ヘレナ。ここで一緒に暮らさないか?」

「え?」

「欲しいものは何でもあげよう。魔王城の魔物たちも、好きに使って良い」


あまりに急な展開に、私は目の前が真っ白になった。




目を覚ますと、見慣れないベッドの上にいた。

ふかふかで、薔薇の花弁に横たわっているようだ。


辺りを見渡すと、部屋が広い。広すぎる。

現状を把握できずいると、横から声をかけられた。


「ヘレナ、気付いたか!」

「ま、魔王様?」

「食堂で転倒したから、ここで休ませていたんだ」


魔王は私を抱きしめた。セクシーな匂いが鼻をついた。

ミントとゼラニウムが混じった、さわやかな香水だ。


「良かった。せっかく愛する人を見つけたのに、もう失うのかと……」


今、何て言った?愛する人?

そういえば、一緒に城で暮らそうって言われたんだっけ。

「あの、先程のお返事ですが」


やっと魔王の抱擁から解放されて、私は言った。

彼ははっとして、少しだけ目をふせた。


「あぁ。もちろん無理強いはしないさ」

「喜んで、ご一緒させてください」


彼は微笑んだ。ゲームで見た、不敵な笑みではない。

あたたかく、深い笑みだった。



数か月後。

魔王と昼食を楽しんでいると、家来のメデューサが慌ててやって来た。


「大変です。勇者たちが魔王城へ押し寄せてきました」

「何だって?」

「門を守っていたゴーレムたちが、やられました」

「分かった。すぐ行く」


魔王は立ち上がった。その顔は怒りに満ちている。

魔物を心から愛する彼にとって、ゴーレムの件は許せないのだろう。


そして優しい顔で、私を見た。


「ヘレナ、少しだけ待っていてくれるか?」

「私も行きます」

「だめだ。大切な人を傷つけるわけにはいかない」

「分かりました。部屋で待っています」

「良い子だね」


メデューサと魔王は、急ぎ足で去って行った。


「……とは言ったものの、気になるわよね」


私は部屋と反対方向の扉へ向かった。

そして、彼らの後をつけて行った。



城の広間では、勇者が破壊行動を繰り返していた。


「おらぁ、魔王!出てこい!」


彼は魔王城にあるアイテム「賢者の石」を探しているのだ。

それがあれば、魔力が不足している国を救えるから。


勇者は次々と魔物を倒している。

婚約者である、聖女が回復してくれることを良いことに。


「でも、これじゃあ、どっちが悪者か分からないわね」


私が呟くと、魔王が現れた。

目は怒りで赤々と燃えている。


「何か用か、勇者よ」

「やっと出て来たな!お前を倒しに来たぜ!」


いきなり切りかかる勇者たち。

魔王は涼しい顔で指を鳴らした。すると、ドラゴンが現れた。


ドラゴンは紅蓮の火を噴き、勇者たちに炎が降りかかる。

メデューサが石化の魔法をかけて、パーティの動きを止めていった。


「くっ、石化なんて卑怯だぞ!」

「いきなり人の城を襲っておいて、どっちが卑怯だ?」


やがて勇者以外、みんな石化された。

がっくりと肩を落とす勇者に、魔王は冷静に言い放った。


「安心しろ。石にしているだけだ。死んではいない」

「クソ、何が望みだ?」

「この城から出て行け。そして二度と来るな」

「俺は、賢者の石を見つけるまで……帰れない!」


剣を持って、勇者は突進した。

向かう先は魔王でなく、私だった。



私は勇者から、剣の先を首に突きつけられた。


「おっと。動くと切るぜ?」

「あんた、本当に最悪ね」

「魔王に寝返った女が、よく言うぜ。俺が捨てた女も、ここで役に立つとはな!」


勇者は、決定的な一言を放ってしまったらしい。

かつて見たことがないほど、魔王のオーラは怒りに満ちていた。

魔王は恐ろしいくらい冷徹な声で、言った。


「勇者よ。捨てた女とは、どういう意味だ?」

「こいつは俺の婚約者だったんだよ!持参金が目当てで、婚約破棄したけどな」

「それは本当か、ヘレナ?」

「はい、本当です」


だって、それがゲームのシナリオだから。

その通りにしないと、悪役令嬢は処刑エンドなのだ。


意外なことに、魔王はふっと笑った。


「なら、良かった。もう手加減する理由はないな」

「はぁ?」

「俺の愛する女性を二度も傷つけた罪は重いぞ……」


ゴゴゴゴゴ、と地響きが起こる。

やがて地震のように大きく揺れて、勇者も私も立っていられなくなった。


私は膝から崩れ落ちたが、魔王が支えてくれた。

いつの間にか、すぐ横に来ていたらしい。


勇者は、地面に尻もちをついている。

そんな彼を指さして、魔王は叫んだ。


「この者を生贄に捧げる。地獄の門よ、開け。『ダークホール』!」


勇者は口を開いて、何かを言いかけた。

しかし、それは叶わなかった。


勇者の下に大きな穴が出現し、彼は飲み込まれていった。

ふと、目を大きな手に覆われた。もう慣れた香水の匂いがする。


「見てはいけない。あれは深淵だ」


魔王の声から、もう怒りは消えていた。

いつもの穏やかで、私を溺愛してくれる声だった。



石化が解かれた後、私はお茶会を楽しんでいた。

席を共にしているのは、魔王だけではない。懐かしのパーティの面々も一緒だ。


「え、じゃあ聖女も婚約破棄されそうになってたの?!」

「そうですわ。私の回復魔法が目当てだったみたいですの」

「本当に、勇者って最悪だったのね……」


聖女、魔法使い、盗賊、格闘家。

かつて勇者に追放された僧侶、踊り子、商人も加わり、大団円だ。


彼らと昔話に花を咲かせているうちに、魔王がいないことに気が付いた。


「ちょっと、席を外すわね」

「魔王を探しに行くんですの?ラブラブですわね」


聖女にからかわれながら、私は広間へ向かった。



「ヘレナ、どうした?仲間と楽しんでいると思ったが」

「魔王様がいないから、気になって来たの」

「君は本当に優しいな」


彼は優雅な動作で、私を抱き寄せた。

そうして広間を見渡して、言った。


「あの戦闘で、またすっかり散らかったな」

「大丈夫、また片付ければ良いから」

「ヘレナは、どうしてそんなに片付けが得意なんだ?」

「それは……」


前世でOLだった私は、営業社員のデスクの整理ばかりさせられていた。

薄給で、学歴も平凡で出世もせず、報われない日々だった。


「言えないんだな、まあ良いさ。元婚約者の話より、大したことないだろう」

「あ、根に持ってます?」

「好きな女性の元婚約者に嫉妬しない男性が、世の中にいると思うか?」


お詫びになにかしてもらおうか、と耳元でささやかれる。

私は耳まで赤くなっていくのを感じた。


「はは。ヘレナを傷つけることはしないよ。気持ち良くさせるだけだ」

「こ、声が大きいです!みんながあっちにいるんですから!」



かつての仲間が賢者の石を使い、世界も無事に救われた。

魔物も一役買ったので、後年、魔王城と国の出入りは盛んになって行った。


私は国に戻らず、魔王城に留まった。

いつまでも魔王の溺愛の元で、幸せに暮らすのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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