第8話 ブリュンヒルド
翌日の昼。
俺は着任の挨拶を行った。
新しい領主である俺に謁見にくる有力者たちと会うのだ。
俺はそつなく挨拶を済ました。
さっさと終わらせたいからな。
大小の貴族。富裕な商人。
エルドラスの官僚たちと挨拶を交わす。
そして、必要書類を受け取る。
行政とはつまる所、『紙』だ。
書類に行政に関する情報が集約されている。
それらはあとで全部ベルダンディが処理する。
事務処理作業でベルダンディに勝てるものはいない。
俺は執務室の椅子に座り、有力者たちとの挨拶をドンドンこなしていく。
そして、最後の相手になった。
時刻はもう夕方である。
「最後はこのエルドラスの防衛軍の軍団長です」
ベルダンディが秘書として俺の隣に立ち、耳打ちする。
俺は椅子に座りながら伸びをした。
「軍団長か。名前は?」
「ブリュンヒルド=フォン=ハーゲン。年齢18歳。このエルドラス最大の大貴族ハーゲン伯爵家の現当主です。どうか、粗相のないように……」
「分かっている。大貴族とは仲良くしないとな」
新しい領主が上手く領地の経営をするには、土着の大貴族との融和が大事だ。
ドアがノックされ、ミスラが扉をあける。
「ブリュンヒルド伯爵のお見えです」
ルーナが明るい声で告げる。
「シオン殿下。私は 翌日の昼。
俺は着任の挨拶を行った。
新しい領主である俺に謁見にくる有力者たちと会うのだ。
俺はそつなく挨拶を済ました。
さっさと終わらせたいからな。
大小の貴族。富裕な商人。
エルドラスの官僚たちと挨拶を交わす。
そして、必要書類を受け取る。
行政とはつまる所、『紙』だ。
書類に行政に関する情報が集約されている。
それらはあとで全部ベルダンディが処理する。
事務処理作業でベルダンディに勝てるものはいない。
俺は執務室の椅子に座り、有力者たちとの挨拶をドンドンこなしていく。
そして、最後の相手になった。
時刻はもう夕方である。
「最後はこのエルドラスの防衛軍の軍団長です」
ベルダンディが秘書として俺の隣に立ち、耳打ちする。
俺は椅子に座りながら伸びをした。
「軍団長か。名前は?」
「ブリュンヒルド=フォン=ハーゲン。年齢18歳。このエルドラス最大の大貴族ハーゲン伯爵家の現当主です。どうか、粗相のないように……」
「分かっている。大貴族とは仲良くしないとな」
新しい領主が上手く領地の経営をするには、土着の大貴族との融和が大事だ。
ドアがノックされ、ミスラが扉をあける。
「ブリュンヒルド伯爵のお見えです」
ルーナが明るい声で告げる。
「シオン殿下。私はブリュンヒルド=フォン=ハーゲンと申します。どうかお見知りおきを」
ブリュンヒルドは金髪碧眼の背の高い美女だった。
軽鎧をまとっており、女騎士という出で立ちである。
腕もそこそこ立つようだ。
胸が大きく、腰がくびれている。
プロポーションがいい。
顔立ちも綺麗で俺の好みだ。
「初めまして。シオンだ。噂は既に聞いていると思うが、俺は無能ゆえに父王から左遷された男だ。俺のような男がエルドラスを統治していくには卿のような才媛の力が必要だ。どうぞよしなに頼む」
「いえ、そのような……」
ブリュンヒルドはどう答えて良いか分からないという顔をした。
そりゃあ、そうだよな。
しばし、雑談をした後、ブリュンヒルドは背筋を伸ばし、改まった口調をした。
「実はシオン殿下に是非とも、お願いしたい事がございます」
「お願いとは?」
「はい。魔王軍についてです」
「魔王軍……。エルドラス防衛軍の軍団長としての意見というわけか」
「御意」
「詳しく聞こう」
「はい。じつは魔王軍の強硬派の動きか活性化しております。どうやら穏健派との間で大きな衝突があったようなのです」
ブリュンヒルドが言う。
魔王軍は数千年にわたり人類と敵対しているが、魔王軍も一枚岩ではない。
強硬派は人類を殲滅するまで闘おうとする武闘派の派閥であり、穏健派は人類との共存を考え、共存共栄して行こうと考える派閥である。
当然ながら魔王軍の中で強硬派と穏健派は仲が悪い。
絶えず争いを重ねている。
「現在の魔王は……、たしか穏健派だったな」
「はい。穏健派の魔王が勝てば我ら人類は当面の間、魔王軍との全面戦争を回避できるでしょう。すくなくとも大規模な戦争は起こらないかと……。ですが、強硬派が勝てば……」
「すぐさま魔王軍の大規模侵攻作戦が開始されるだろうな」
「シオン殿下のご推察の通りです」
ブリュンヒルドが感心した顔をした。どうやら、噂と違い、俺は少しは政治が分かると知ってホットしているらしい。
「留意すべき事態だな。さきに卿の意見を聞こう。どのように対処をする?」
「まずは強硬派が勝利した時に備えて大規模な防衛戦争準備を行うべきかと。備えあれば憂い無しです」
「その通りだな」
俺は頷く。
戦争には備えが大事だ。
軍事力こそが国家の要であり、自国を軍事力で守れない国は即座に滅びる。
世の中は、全て力の均衡で成り立っているのだ。
「穏健派が勝利したならば、即座に魔王に対して使者を送り、相互不可侵条約、もしくは通商条約などを締結……、といった所か?」
俺が言うとブリュンヒルドは、おお、と声をあげた。
「陛下の明敏さに感服いたしました。まさに私の意見を同じです」
「そうか。それは良かった。戦争および外交交渉についてこれから卿とは協議を重ねる事となろう。とりあえずは戦争の準備については卿に一任したい。早速動いてくれるか?」
戦争は速度が重要だ。
魔王軍の襲来に備える防御態勢を一刻も早く造り上げる必要がある。
「お任せ下さい。ですが、外交交渉については殿下にお願いしたくぞんじます」
「妥当な所であろうな。腐っても私は第三王子であり、このエルドラス領の領主だ。外交交渉となると私が出ざるを得まい。了解した」
「有り難く存じます」
ブリュンヒルドが破顔する。
頭の回転の速い女性だな。話していて楽しい。
有能な人材を見つけられて良かった。
有能な人材が増えれば増える程、俺が楽をできる。
「では私はすぐに防衛体制の構築にとりかかります。状況は逐次、ご報告致します」
「期待している」
俺は満足して頷いた。
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