第4話 本能
俺、アガレス王国の第三王子シオンは、前世でクロキという英雄だった。
前世で『黒木』という日本人だった俺は、この異世界にある時、突然転移した。
そして、数多の冒険と死闘を乗り越えて、魔神を倒して人類を救った。
自慢ではないが、世界最強の存在であり、有能な男だった。
剣技においても魔法においても史上最強である。
だが、それ故に前世で俺は酷い目にあった。
有能な人間は使われるのだ。
世間が放っておいてくれない。
事実、俺は前世で魔神を倒すという苦難を背負わされた。
その後、英雄として祭り上げられて政治に携わり死にそうな程の激務の日々を送った。
前世での俺はブラック企業の社畜ですら同情したくなるであろう程に労働をした。
そして俺は決めたのだ。
来世では働かない!
俺は前世で働き過ぎて、心底労働が嫌いになった。
前世で転生魔法を独力で編み出した俺は、現世で第3王子にめでたく転生した。
転生した理由はただ一つ、ノンビリと生きる事だ。
その為に俺は17年間、無能な王子を演じてきた。
俺が有能である事がバレればもうお終いだ。
確実に父王は俺を国王なり宰相なりにしようと企むだろう。
俺の力で甘い汁を吸おうとする貴族たちも派閥をつくり、すり寄ってくるに違いない。
そして、第一王子エダードや第二王子オスカー、その派閥と権力闘争の嵐に飲み込まれる事は必須だ。
運良く王位継承のゴタゴタから免れても、父王は俺の戦闘能力を当てにして、「魔物や魔族を倒してこい」と命じるに決まっている。
そして、俺は前世と同様、死ぬまで『英雄』として酷使される日々をおくるハメになる。
冗談じゃない!
「俺は現世ではお前らのような美少女に囲まれてノンビリと生きると決めたんだ。だから、今後も宜しく頼む」
俺は膝枕してくれているルーナの太ももを撫でさする。
「う~、て、照れるにゃ~」
ルーナな恥ずかしそうに太ももを擦り寄せてモジモジする。
「ご、ご主人様のご命令通りに……」
ベルダンディも頬を赤らめて眼鏡に手をあてる。
「こ、こういう不意打ち気味の褒め言葉は反則ですのよ」
ミスラは耳まで真っ赤にして窓の外を見る。
可愛い奴らだ。
「なあ、ミスラ」
「な、なんですの?」
「足を組み替えてくれないか?」
「? どうして足を組み替えろと命令されるんですの?」
吸血鬼の女王は不思議そうに首をかしげる。
「パンチラが見たい」
「さ、最低! 最低ですわ!」
ミスラが頬を赤らめて怒鳴る。
「ルーナに膝枕してもらい、耳かきをされている状態だから、ちょうど俺の目の前にミスラのスカートがある。男としてパンチラが見たいのは本能なんだよ」
「最低な台詞をもの凄い男前な顔で言わないで下さいまし! 自分がどれだけゲスな発言をしているのか理解していますの?」
「契約をかわして使役し、ご主人様である俺の命令に従わざるを得ない使い魔に『パンツを見せろ』、と強要している」
「理解していましたわ! 最悪ですわ!」
ミスラが頬を両手に当てて顔を赤らめ、絶叫する。