第23話 国王の崩御
アガレス王国の王都。
王城の一室で、パウル国王はベッドに病臥していた。
「なんという事だ……」
パウル国王は咳き込みながら独語する。
長男エダード王子と次男オスカー王子、二人の息子を失ってしまった。
「まさか、二人の息子に先立たれるとはな……」
パウル国王は、暗澹たる気持ちで傍らにいる宰相に瞳をむけた。
宰相の名はグスタフという。
青年期からパウル国王に仕え、30年間に渡り宰相として辣腕を振るってきたパウル国王の股肱の臣である。
年齢は63歳。白髪碧眼の思慮深い顔立ちをしている。
「グスタフよ。世の中とは無常なものだな……」
「まことに……」
グスタフ宰相は沈痛な面持ちで言った。
しばし、パウル国王は瞳を閉じた。
やがて、瞳を開けると、
「グスタフ宰相。第一王子エダード、第二王子オスカーがともに死去した今、他に方法はない。第三王子シオンに玉座をわたす。王位継承権をシオンにわたす正式な書類を作れ。第三王子シオンに対する追放令も当然ながら取り消す」
「御意」
グスタフ宰相が頭を垂れる。
パウル国王は瞳を閉じて、吐息をついた。
「グスタフ……」
パウル国王が問う。
「はっ」
「第三王子シオンが王になり、はたして我が王国は命脈を保てると思うか?」
第三王子シオンは我が息子ながら、『無能』と評判の男だった。
「おそれながら、シオン殿下は、愚者を装っておいでだったのでしょう。魔王国との平和条約の締結を成し遂げた手腕は並大抵のものではありません」
「そうだな……。では何故、シオンは無能を擬態していたのだ?」
「王位継承にまつわる暗闘から逃れる為かと。身内同士で殺し合う愚を避けるにはそれが一番だと判断されたのでしょう」
グスタフ宰相の言葉にパウル国王は頷く。
「そうであろうな……。王族同士の殺し合いという惨劇の愚は、予が身に染みておる……」
パウル国王は、苦しそうに咳き込んだ。
「寿命だな。予はあと十日ももつまい。グスタフ宰相。予の死後は頼むぞ」
「お気の弱い事は申されますな」
グスタフ宰相が悲しそうな顔をする。
「寿命と病には勝てぬ。予は愚かにも、シオンという英雄を愚者と勘違いしていた。この病は予の愚かさに対する神々の罰であろうよ」
パウル国王は自虐的に笑い、グスタフ宰相に下がるように命じた。
翌日、王位を第三王子シオンに継がせる正式な公文書を作成し、国璽を押印した後、パウル国王は崩御した。
最後まで、読んで下さり、本当にありがとうございます。
あと数日で、完結します。
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