第20話 左遷王子は強すぎる。
シオンの放つ『神雷』が、魔王軍に降り注いだ。
天空から、地上にめがけて数千の青い稲妻が、落下していく。
落雷音と閃光が弾け、着弾すると同時に、魔王軍の魔族と魔物を焼き尽くしていく。
それはまさに天災に等しい光景だった。
一つ一つの『神雷』の稲妻の威力が強く、大鬼や小鬼のような下級な魔物も、巨人やヒドラのような上位の魔物ももろともに焼き滅ぼしていく。
「相変わらず、ご主人様は凄いにゃ~」
ルーナが、感嘆の声をあげる。
「ご主人様の力だけで、世界を滅ぼせますね」
ベルダンディが、うっとりとした声を出す。
「まさに伝説の英雄……」
ミスラが、頬を染めてシオンを見やる。
「つ、強すぎるのじゃ……、シオンは強すぎる……」
魔王ジークリンデは、茫然として眼下の光景を眺めた。
20万をこえる魔王軍の軍勢が、シオンの魔法で全滅していく。
天空に浮かんだ巨大な魔法陣から稲妻が放出され、地上に豪雨のように稲妻が落ち、魔族と魔物が消し飛んでいく。
天地が落雷音と閃光に満たされ、この世の終わりのような風景が出現していた。
10分後。
「さて、終わったな」
シオンが気軽な口調で言った。
確かに惨劇は終わっていた。
20万を超える魔王軍が、一匹も残らず消滅した。
地上に残ったのは、焼け焦げた魔族と魔物の骸と、無数に刻まれたクレーターのような地面に穴だけだ。
「あわわわ……」
魔王ジークリンデは、青ざめて震えた。
シオンが強い事は知っていたが、ここまで強いとは知らなかった。
外見は普通の少年なのに、その強さはまさに怪物だった。
「恐がらなくて良いにゃ。ご主人様は優しい人にゃ~」
ルーナが怯える魔王ジークリンデを背後から抱きしめた。
「ええ、人間性に重大な問題があるだけで、根本は優しいですわよ」
ミスラも、魔王ジークリンデに優しい視線をむける。
「……に、人間性に重大な問題? どんな問題なのじゃ?」
「ご主人様は、スケベなんだにゃ~」
ルーナが笑顔で答える。
「どスケベですわ。まあ、それ以外は存外、誠実ですわよ」
ベルダンディが、真面目な顔で答える。
「俺の陰口はやめろ。帰るぞ」
シオンが伸びをしながら欠伸をする。
「了解しました」
ベルダンディが、転移門の魔法を発動した。
全員、転移門で、エルドラス領に帰還した。