第19話 大軍勢
三日後。
俺、ルーナ、ベルダンディ、ミスラ、魔王ジークリンデは、魔王国の領土内にいた。
飛翔魔法で空に浮かび、大地を進軍する魔王軍を見下ろす。
「さすがに壮観だな」
俺は高度500メートルの地点から、大地を見下ろした。
魔族が、魔物の軍団を率いて進軍している。
大鬼、小鬼、ゾンビ、リザードマン、人面獅子、グリフォン、ヒドラ、巨人、あらゆる魔物の混成軍団だ。
「総勢20万といった所ですね」
ベルダンディが、軍勢の数を目算する。
「事前に察知できて良かったですわね。これだけの大軍勢に奇襲をかけられたら、領民に多大な被害がでる所でしたわ」
ミスラが、安堵した顔をする。
「も、もの凄い大軍勢なのじゃ……」
魔王ジークリンデが青ざめて、震えている。
魔王ジークリンデとしても予想外の規模の大軍だったようだ。
「にゃ~。圧巻、圧巻。敵とはいえ、大軍勢は見映えが良いにゃ」
ルーナは派手な事が好きなので、無邪気に喜んでいる。
「じゃあ、取り敢えず、あいつらを殲滅するか」
俺が宣言する。
「ど、どうやって殲滅するのじゃ?」
魔王ジークリンデが困惑した顔を俺にむけた。
「こうするだけだ」
俺は『神雷』という魔法を無詠唱で発動した。
『神雷』は、俺が編み出した創作魔法だ。
電撃属性の超位魔法で、あらゆる物質を電撃で焼き尽くす魔法だ。
天空に巨大な青い魔法光を放つ、積層型立体魔法陣が浮かび上がった。
地上にいる魔王軍の強硬派は、エルドラス領目指して進軍していた。
この軍勢の総帥である魔人族の名は、ガドラス=ブリターという。
魔王国でも最も古い名家の一つ、ブリター家の出身で、魔王国において、実力、権勢ともに最上位に位置する男である。
魔王ジークリンデを放逐して玉座から追放した現在において、魔王国の実質的なトップである。
外見は、50歳前後の壮齢で、角が無ければ人間と瓜二つの外見をしている。
豪華な黒い鎧と黒い毛皮のマントに身を包み、巨人たちが担ぐ神輿に乗って移動していた。
ガドラスは、自軍の光景を楽しげに眺めていた。
「見ろ。イドリス。我らの軍勢の頼もしさを」
ガドラスが言うと、イドリスと呼ばれた男が、頭をさげた。
「まさしくガドラス様に相応しい偉大な軍団にございます」
イドリスは、ガドラスの執事であり、追従はなれたものだった。
「このままエルドラス領に侵攻し、橋頭堡を気付いた後、人間族の国々のことごとくを一年以内に滅ぼしてくれる」
「ガドラス様なら必ずや叶いましょう」
イドリスは、本心から答えた。
この軍勢の規模と戦力は魔王国史上空前絶後であり、人間族の国々を滅ぼすにたる戦力が十分にある。
ガドラスは魔王軍の総帥として、20年以上かけて綿密な準備を重ねてきた。
人間族の国々の地理を把握し、情報を集め、兵站を整え、指揮系統を統一化した。
今回の人間族の殲滅という一代壮挙は、決して軽挙妄動から成されたものではなく、深謀遠慮に基づくものであった。
魔人族が、人間族の国々に侵攻するに当たって、ここまで精緻な戦略を練った事例は皆無に等しい。
ガドラスという知勇兼備の武人がいてこその一代軍事作戦なのだ。
「一ヶ月もすれば人間族の領土の8分の一は、占拠できるであろう。はやく部下どもに人間族の女どもを犯させ、財宝を略奪させてやりたいのものだ」
ガドラスは剛腹な笑いを起こした。
侵略する魔族や魔物は、略奪と暴行、殺戮、全てを許可してある。
人間の女を夫や子供、恋人の前で犯して、惨殺し、財宝を奪い尽くす。それらをこの軍勢の兵士たちは末端に至るまで望んでいた。
「楽しみでしょうがないわい」
ガドラスが、ふたたび笑い声を上げた。
「ガ、ガドラス様、あれはなんでしょうか?」
イドリスが、上空を見上げた。
「うん? なんだ?」
ガドラスがつられて空を見上げる。
その時、巨大な稲妻が、魔王軍に降り注いだ。