第16話 魔王の涙
「妾がしっかりしていれば強硬派を抑えられた。もっと私が強ければ他人を頼らずに自分だけの力で解決できたのじゃ……」
ジークリンデがすすり泣く。
「でも……、妾は弱い……。腹心たちは全員死んだ……。殺された……。そして、強硬派たちはすぐにでも人類の国家群に侵攻しようと目論んでいる……。もう……、妾では止められない……」
ジークリンデが、紫瞳に涙を湛えて俺を見る。
「頼む、シオン殿下。妾にできる事なら何でもするのじゃ。なんなら、妾の体を差し出しても良い。……どうか、戦争を止めてくれ。妾は、罪もない魔族や人間が死ぬ所を見たくない……」
ジークリンデが土下座した。
俺に頭を下げて額を地面にこすりつける。
ゲっ、やばすぎる。
「健気だにゃ~」
「主君の鏡のような少女ですね」
ルーナとベルダンディが感心して土下座するジークリンデを見る。
「幼女に土下座されて懇願をされましたわね~、ご主人様」
ミスラが赤い瞳を俺にむける。
「まあ、そうだな……」
「これで断ったら、人類史上に残るクズになりますわね」
「……そうだな」
俺は力なく答える。
「まあ、『面倒くさいから嫌だ』と断るご主人様も見てみたい気がしますけど」
「それをしたらどうなる?」
「そうですわね。今後、ご主人様にパンチラやストリップショーを要求されても無言で行いますわ。『ケダモノに裸を見られても何も感じない』、という軽蔑の眼差しとともにね」
ミスラが冷たい口調で言う。
気付くとルーナ、ベルダンディ、ミスラが俺を注視している。
使い魔3人娘の視線にどんな感情が込められているのかが手に取るおうに分かる。
伊達にこいつらと五年も付き合ってはいない。
こいつらとは恋人であり、親友であり、家族なんだ。
俺は椅子に背をもたせた。
そして、吐息をつくと椅子から立ち上がりジークリンデに歩み寄る。
「ジークリンデ陛下。顔をあげろ」
ジークリンデが顔をあげた。
「出来る限りの事はする。最大限の努力をすると誓おう」
俺がそう言うと、ジークリンデは涙を溢れさせた。
「うぅ~」
ジークリンデが俺に飛びついてきた。
俺の首に手をまわし抱きついてくる。
そしてラッコのように俺にしがみつく。
「あ、ありがとう! これで戦争は回避されたのじゃ!」
「おいおい、まだ回避されると決まったわけじゃないぞ」
「いや、できる! シオンならきっと出来る。妾には分かるのじゃ!」
「……そうか」
俺は肩をすくめた。
なんかもう、この幼女魔王にいいように扱われてるな。
たいしたお嬢さんだ。
俺はコアラのように抱きついたジークリンデを床におろした。
「頼むぞ、シオン。頼んだぞ」
「分かった。分かった」
俺は苦笑してシオンの頭を撫でる。
「シオン、いつでも妾を抱いて良いからな。愛人でも妾でも好きなようにしてくれてよいからの」
「いらん」
俺はジークリンデの頭にチョップを入れた。女の子がそんな事を言うんじゃない。