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第15話 罪悪感

 ジークリンデは、当代の魔王である。


 外見は幼いが、年齢は100歳を超えている。


 前魔王の実娘であり、前魔王が病没した後、魔王の玉座を受け継いだ。


 前魔王もジークリンデも魔族の中では穏健派であった。


 穏健派である理由は、人類と前面衝突すれば人類も魔族も、双方が壊滅的な被害を被るからだ。


 現在の人類の国家群と魔王国の国力差と軍事力はほぼ互角。


 一度、全面的な大戦争が起きれば数十年単位で戦争が続く。


 その間に、人類も魔族も数百万、下手をすると数千万単位の死傷者が出ると予測される。


「なら、戦争はせずに人類側と平和裏に共存すれば良い。必要ならば相互不可侵条約などの平和条約を締結すれば良いのだろう」


 と考えるのが穏健派だ。


 魔族も国内で商売をしており、『金銭』や『契約』という概念がある。


 魔族も人類と通商して、互いに利益を得れば良い。


 経済圏が大きくなれば、それだけ利益も拡大する。魔族にとっても、人間族にとっても有益だろ

う。


 そもそも、魔族の中には人間と外見がほとんど同じ種族も沢山存在する。あえて、人間族を敵視する必要もない、と考えるのが穏健派だ。


強硬派は、


「冗談ではない。人間族のような下等種族と平和条約の締結などまっぴらごめんだ! 人間族のような下等種族と商売をするなんて考えるだけでも穢らわしい!」


 という感情論を持つ魔族・魔物が多い。


強硬派は、生粋の武闘派であり、『人間族よりも魔族の方が偉い』という安っぽい優越思考を持っている。


 よって、穏健派がどのように理論や損得を説いても納得しない。


 ナチスドイツに『ユダヤ人と仲良くやっていきましょうよ』、と説得するようなものだ。

 上手くいく訳がない。


そもそも、強硬派は脳筋が多く。


「人類の国家群と全面的な大戦争になっても必ず勝てる!」


 と、盲目的に確信して絶叫する連中ばかりらしい。


 ジークリンデは腹心の臣下とともに、強硬派を何度も説得した。


 だが、ついに強硬派がクーデターを起こした。


 ジークリンデのいる巨城を攻め落とし、彼女の重臣や側近たちを皆殺しにした。


 ジークリンデはからくも腹心たちに助けられて逃亡に成功。

 逃亡途中にあえなく腹心たちは全滅。


 そして、1人で人類の国家に亡命しようと逃げている最中にドラゴンライダーの追っ手にみつかり、俺に救われた……と。



あ~。説明を聞いているだけで面倒くさい……。

 最悪だ。

 厄介ごとに巻き込まれる未来が押し寄せそうな予感……。


「シオン殿下。あらためて頼む。魔族と人類を救ってくれ。なんとか貴殿の力で魔族と人類の融和を図ってくれ。魔族には善良な者も大勢いるのじゃ。このままでは魔族と人類の大戦争が起きる!」


 ジークリンデが跪いて俺に哀願する。


 金髪紫瞳の魔王の瞳には涙が溜まっていた。


 自己を犠牲にして民と、人類を守ろうとする幼女。


 そして、哀願されている俺……。


 やばい、これ、俺が引き受けないと俺が悪者にされるパターンだ。


「あ~、ジークリンデ陛下。どうか頭をあげてくれ。そもそも、戦争を回避するといっても、どのようにすれば良いか……」


戦争を回避するのは戦争を開始するよりも難しいのだ。


「シオン殿下ならできる!」


 ジークリンデが曇りなき眼で言う。


「いやいや、俺なら出来るという根拠は?」

「シオン殿下は英雄だからだ! 妾の直感がそう告げている。シオン殿下なら不可能も可能にする力あると!」


 直感かよ!


「見所がある子だにゃ~」


主君である俺が褒められて嬉しいらしく、ルーナがニヤける。


「中々、可愛いげがありますね、ジークリンデ陛下は」 


 ベルダンディも、ご主人様である俺をベタ褒めされて嬉しそうだ。


「直感力が強いお嬢さんですのね。中々、良いカンをしていますのね」


 あ、やばい。

 ミスラまで、ジークリンデを気に入っている。


 いや、俺なら出来るよ?


 前世では、数多の戦争を終結させたり、外交交渉で横暴な超大国の侵略を未然に防いだりしたからね。


 一応、小国の王様だった事もあるしさ。


 ……だけど、面倒クサイ……。


 とても即答はできない。


俺はわざとらしく咳払いした。


 そして、ジークリンデに黒瞳をむける。


「あ~、ジークリンデ陛下……」


 俺がうまく断ろうとした刹那、ジークリンデが泣き出した。


「ほ、本当は、妾が悪いのだ……」


 室内に沈黙がおりる。


 やべぇ、綺麗な顔をした幼女が泣いてる。


 これは破壊力がある。

 俺は悪くないのに罪悪感が出てくる。




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