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殺し屋の転職

始まりは暗闇だった。

今思うと、たぶんどこかの下水道だったと思う。

そこで生きているとも死んでいるともわからない生活をおくっていた。

俺以外にも何人かいて協力して暮していたが、そんな所でまともな食事がとれるわけもなく、一人、また一人と消えていき、最後には俺も倒れてしまった。

ようやくいなくなれると思いながら錆ついた床を眺めていると、男がやってきて俺をそこから連れ出した。

そいつはいわゆる、暗殺を生業とする組織の人間で、戸籍もなく脚のつかないマンホールチルドレンは使い勝手が良かったのだろう。ありとあらゆる殺人技術を叩き込まれ、『仕事』をこなすのに不自由はなかった。

俺は恵まれていたと思う。

この世界は弱肉強食だが、生まれ方は選べない。だが俺は他人から奪う方法を学ぶことができたのだから。

しかしどんな日々にも終わりは訪れる。

敵対組織の襲撃を受けたのだ。

幹部連中が脱出する時間を稼ぐために、俺は前衛として戦った。

そして基地が爆発したのだ。

自爆だった。

俺は巻き添えをくらった、いやはじめからそういう算段だったんだろう。

要は捨て駒だ。

気がつくと俺は敵の腕の中にいた。

事態に気づいた俺はそいつの首を圧し折ろうとする。

だがそいつが笑っているのを見て指から力が抜けた。

いや、単に爆風で傷ついただけかもしれない。

「そんだけ動けりゃ充分だな」

俺はその時ようやく、正しく状況を理解した。

こいつは俺を守ったのだ。

「お前、うちに来い」

そのまま男は動かなくなった。




『隊員00に通達、至急、司令室まで出頭せよ』

通達を聞いた俺はトレーニングルームから引き上げ、窮屈なネクタイで首を締め上げながら、足早に通路を行く。

「隊員00、到着しました」

重厚そうな扉が軽快に開き、青いジャケットに身を包み金髪を後ろに撫でつけたサングラスの傷だらけという、とても堅気とは思えない様相の男、もとい司令長官が俺を出迎えた。

部屋に入ると椅子にふんぞり返っているそいつの前で、再び姿勢を正した。

「うむ、よく来てくれたな00(ゼロ)。早速だがお前にうってつけの任務がある」

うちは表向きは民間警備会社、裏では危険組織を相手に要人の警護などを行っている。

「どんな任務でも遂行してみせます」

それが俺の存在価値だ。

「うむ、それでこそ俺が見込んだ男だ。それじゃあ準備をしてくれ」

「え?」

司令が指を鳴らすと3人の隊員が俺を抑え込んだ。

腕に自身はあるがさすがに分が悪い。

「ちょっちょ、うわ、どこ触って、、ぎゃあああ〜〜〜」


数分後。


「なんですかこのカッコは?!」

「似合ってるぜ、フフっ」

笑ってんじゃねぇか!

俺は憤りを露わに足を踏み込む。

だが動きに妙に違和感がある。やたら軽い。

それもそのはず、今俺の下半身を覆っているのは下着と円筒型の布1枚。一般的にスカートと呼ばれるそれは俺の足の動きに抗うことなく、ヒラヒラと宙を泳ぐ。その下まで簡単に見えてしまいそうだ。

それだけではない。

胸元には赤いリボンが揺れ、ジャケットはピンク、肩口まで垂れた髪はウィッグだった。

おそらく初めて俺を見た者は、その性別を認知できないだろう。

「いやおかしいでしょう!」

「なんで?かわいいよ?」

「それがおかしいってんだよ、くそジジイ!」

「なんだその口のきき方は。立場をわきまえろ」

「部下に女装させる変態上司の肩なんぞもてるか!」

「やれやれ、なにか勘違いしているようだが、それはれっきとした任務の装束だ」

大げさに腕を開いて嘆息する司令。

「さっき笑ってたのはどいつだ?」

「ガマンできなくて、テヘっ」

「ぶっ殺す」

「待て待て待て!任務のためっていうのはホントだからっ!」

司令が何か操作すると正面のモニターが動き出す。映し出されたのはやけに豪奢な建物だった。

「王立ファンデール魔法女学院、お前も名前くらいは聞くだろ」

「知らん」

「……ここの生徒に対し暗殺の動きがある」

「それをどうにかしろと?」

「そうだ、しかし教職員を除いて男子禁制の本校への侵入は困難を極める」

「?、なら教員として送り込めばいいじゃないか」

「あっ」

あ?

「い、いや、ここは全寮制でな、生徒でなければ立ち入れない空間もあるだろう。もちろんサポートとして大人も派遣する予定だ…」

確かにこの組織は年齢不詳の俺が最年少だと思うくらいにはむさい男しかいない。生徒役なら俺が適任だろう。

「隊員ナンバー00、その身を盾とし、人々の尊命を守り抜け!」

「……了解」

まだ腑に落ちない部分もあるが、どのみち俺に拒否権はない。

「詳細は移動中に通達する」

「はっ」

俺は敬礼して部屋を後にする。

「ヨーシ、オモシロクナッテキター」

扉が閉まる寸前、忍ばせていたナイフを投げつけて、後日、ヘリで現場へと向かった。



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