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早口言葉に関する考察 3

ようこそ東京特許許可局へ。


開口一番、目の前のスーツのおっさんはやはり職員なだけあるのか噛まずにそう言い切った。

「これでお前たち3人は晴れてここの局員となる。これまでの試験をクリアしたお前たちに上の連中は期待しているから、まぁ、その期待を裏切らない程度には頑張ってくれ。」


なんだこのおっさん。俺たちには興味はないのか?


「僕たちに興味はないんですか?」


心の中に留めたつもりが声に出たのかと焦ったが、どうやら隣の眼鏡君が同じセリフを口にしたようだった。よく言った!ナイス眼鏡!


「ないよ」


なんだこのおっさん。気だるそうにおっさんは答えるもんだから真実味がすごい。

俺たちの新人教育係じゃないのか、こんなんじゃやる気でないぞ、出鼻をくじいたら従順になると思ったら大間違いだ、これからの時代はぬるま湯に浸かるくらいの感じで行かないと人は付いていかないぞ、などと脳内批判をしていたらまたしても隣から「とても僕たちの教育係とは思えない発言ですね」

なんて聞こえてくる。

なんだこの眼鏡くん。俺が思ったこと全部言うじゃないか。ちょっと怖いじゃないか。


「そりゃそうだろ。俺はこの建物について説明するためだけに貴重な時間を割いてるんだ」

お前たちの担当はついさっき緊急案件とかで出て行ったからな、と。


なるほど、急な代打でしかも新人の案内役ってのは面倒で確かにやる気は出ないかもな。

しかもその新人が噛みついてくるんだもんな。でも俺たちにその態度を出すんじゃないよ、いい歳した大人だろ。


「いい歳した人の言葉じゃないですね。こんな人が他にもいるのかと思うと今から先が思いやられますよ」


思ったこと全部口に出す系の眼鏡か、貴様は。なんで角が立つ言い方をするんだ。

俺みたいに心に秘めなさいよ。


「そうだな。だから早く偉くなって上から変革でもしてくれたら、ここもちょっとはマシになるだろうな」もういいか、続けるぞ、と軽くいなして説明が再開された。


眼鏡君もそれ以上は何も言わなかったけど、今度は眼がギンギラギンになってた。

たぶん本当に昇りつめて変革を行うつもりなんだろう。そして最初に飛ばされるのは目の前のおっさんなんだろな。


まぁそこからは当初の予想通り、予定通りに退屈な局内の説明が始まった。初日と言えばやはりこれである。



東京特許許可局。



早口言葉になってるくらいだから知名度で言えばかなりのものを有している特許許可局ではあるが、実情を知っているものはその知名度に反比例してほとんど居ない。そもそも世間一般でいう「特許」とは有用な発明に対して独占的な権利を得る、あっちの方を思い浮かべるところだ。独占的な権利を得られるが内容を公開することが代償となっているらしい。

一番聞き覚えがある言い方をすると「許可局なんてないんだぜ。特許庁が正解なんだぜ」が挙げられる。


しかし、特許許可局が指している「特許」は当然その限りでは無い。


特許許可局は文字通り「特別な許可が必要な事柄」を取り扱う。さらに明確な違いとして、特許庁は「非実在的な事柄」に関して取り扱うのに対して、特許許可局は「実在している事柄」に関して取り扱っている。

昔、異星人の入出国を取り締まるスーツを着た役人が主役の映画があったがそれの拡大版だと思ってくれていい。そこから異界、冥界、霊界、魔界etcまでを追加した感じ。

この星に住まう大多数の一般人が知る由もない「実在するが異なる事柄」に対し、渡航や滞在、観光する許可を出しているわけだ。


それだけ聞くと入国管理局のほうがしっくりくるし俺もそう思う。が技術や思想に関しても取り締まっている関係上、あくまでも特許許可局なんだそうだ。その範囲は「非実在性な事柄」では無いか、などと俺みたいな新人は考えてしまうのだが、よく分からん。


一通り各階のフロアを案内されて、始めに小競り合いをした一階のフロアに戻ってきた。


「これでこの建物の説明は終わりだ。そろそろ新人教育係が帰ってくるはずだから、お前たちの配属先はそこで確認してくれ」

それじゃあな、とその新人教育係が帰ってきてない状態の俺たちを置き去りにしようとするおっさん。

しかしそんなおっさんの適当さを奴が見逃すわけがない。我らがギンギラ眼鏡に目を向けるまでもなく「俺たちはどこで待機してればいいんですか?ここですか?でもここって通路のど真ん中で邪魔になりますよね?」

更に捲し立て続けるギンメガネ。君なら絶対に食らいつくと思ってたよ、俺は。

でも何だか少しネチネチしている上に、小物臭がすごくないか。ほら、同じ新人女史なんてもうお前のことドン引きした眼差しを向けてるぞ。やはり口は災いのもとだな。


そんなことを考えている内に大きな音を立てて玄関の扉が開いた。

そちらに目を向けるとスーツを真っ赤に染めた男が玄関フロアに倒れこんでいた。


なんだこれは。新人研修の一環か?不測の事態に対して新人の俺たちがどういう動きをするか、的な訓練なのか?いや、しかし、床がどんどん血に染まっていっている。リアリティが過ぎるぞ。

さすがにこれはおかしくないか、と他の2人に目配せしようとするよりも前に、さっきのおっさんが駆け寄っていた。こっちに向かって何か叫んでる。そっちに目を向ける。

すごい量の血が流れている。倒れこんだ人はピクリとも動かない。なんだこの状況は。何が起きている。頭で思考を続けているが、身体が動かない。自分の身体じゃないみたいで唾を飲み込むのが精いっぱいだった。


全く動かない俺たち新人の3名をよそに、事態は進行していてすでに玄関ホールには色んな人たちが出てきた。

救急セットを運ぶ人、担架を持ち出してくる人、止血を試みる人、呼び掛け意識を保たせようとする人、少しでも情報を得ようとしているのか話しかける人。治療室だかへ連絡する人、外を警戒するためか出ていく人、建物内には緊急のアナウンスが響き渡っていた。


ここまでくれば充分に理解できる。これは新人研修ではない。俺たちの、東京特許許可局での物語はここから幕を開けた。


たぶん続かないです。

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