ー3話 読まなくても大丈夫なやつ
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伝説、世界最上と謳われる神の竜を前にして二人が見とれること数分、最初に沈黙を破ったのは魔女であった。
「だいぶ弱ってるように見えるのだけど、何があったのか聞いても?」
魔女はまったくの異種族である竜種に対して、当然のように人の語で言葉を紡ぐ。
「あなた様の領域にて無断で休息している理由と共に、細かい事情を説明したいところではありますが、如何せん体力も魔力も底が近くて……少し眠りについてもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。結界が過剰に反応していた訳でもありませんの」
竜が人の言葉を理解すると共に話すことすら驚かない魔女に、セルシアは目を輝かせる
「失礼いたします……」
承諾の返事を聞き神竜は目を閉じ早々に眠ってしまった。
それを横目に見つつセルシアは魔女に聞く
「しっ、師匠!神竜というのはあの蝶輝種と言われる超貴重な竜種ですか?!」
セルシアの言っている神竜、蝶輝種とは、ツリーハウスの本棚に雑に置いてある、伝説の物語のような本に出てくる神竜である。
「ええ、その竜ね。普通に生きていてもおめに書かれることはないと言われている種だったかしら……」
魔女は溜めることなく返した。
セルシアも神竜については本で知識を得ているため、深くは聞かず(後からでも聞けるかもしれない)、もう一つ違う質問をした。
「あと何時間くらいしたら竜は起きますか?」
目の前で目を瞑っている神竜は少し眠ると言っていた、その少しが分からなければいつどのタイミングで事情を聞けばいいのか分からず、起きるまでこの場にいなければない。
「1週間、そのくらいあればある程度回復できるかな」
「1週間………?!竜の時間感覚ってどうなってるんですか?!」
「竜は万年生物、私たち人間とは生きてる時間の長さが違うんです」
セルシアは今聞いた事実に驚いた。竜が1000年以上生きることの出来る生き物だということは知っていたが、長生きすればその10倍は生きていくことが出来るなど、想像を遥かに超えていた。
「竜の一週間は私たちの1時間みたいなものなんですか?!」
「長く生きているのならそうなるかもしれないけれど、まだ若いうちは私たちと同じようなもの、かもしれないわね」
魔女は「散歩は一旦終わりかしら」と言いながらしれっと帰路についた、それに対しセルシアは無自覚のうちに魔女の背中を追っていく。
「だからといってあの神竜さんが長生きだなんて分かりませんよ」
「そんなの、色んなところを見たらひと目でわかります」
「例えばどんなところですか?」
魔女は「そうだなぁ」と視線を空に向けて一言。
「雰囲気、とか」
「ちゃんとした答えになってません?!」
まともな答えを期待していたセルシアを落胆させて魔女はニコニコと笑っていた。
一体なんの雰囲気が見た目として長生きしている竜だとわかるのだろうか、セルシアは全くわからなかった。
そんなセルシアの様子を見て魔女はもう1つ口を開いた。
「雰囲気じゃないとしたら……"眼"になりますが」
「師匠はそればかりです」
たしかに師匠の片眼の瞳はその神竜に引けを取らない程美しいが、神竜は神竜で別の美しさがあるのだ、だからといってどこがどうあって長生きしているのかは全く分からない。
「私の先生みたいな人が乱暴に他人の心を読むような人だったんですよ……まあこの話はまた今度にするとして、お昼のご飯を一緒に作りましょう」
「はーい」
その後も、セルシアが瞳を見てその者がどうあるのか判断できることはなかった。
少しだけ、師匠のその綺麗な瞳に嫉妬するのであった。