お金ゲットだぜ!
「それじゃあ、これが買取したものだ」
そう言って俺の前にジャラジャラと音を立てた袋を突き出したのはクレイジースコーピオンを解体した魔族の男。解体屋と呼ぼれ、魔物や動物の解体を専門としているらしい。
ヴェルネやさっきの男とは違い、額に皮膚がそのまま伸びたような角を持つ黒髪の青年だ。
肌色はちょっと赤茶っぽく白い瞳をしている。
目はやっぱり黒。何人か見たけれど、全員が人間で言う白い結膜の部分が黒く染まっていた。
ちなみに差し出された袋の中には金色に輝いたコインがぎっしり詰まっている。
「ふんっ、よかったじゃない一気に大金持ちになれて!」
不機嫌そうに言いながらそっぽを向くヴェルネ。まぁ、結局あの後もヴェルネの言葉が誰かに届くこともなかったために俺が町にあるこの解体場にいるわけなのだが。
にしてもヴェルネって結構町の人から信頼されてるのな。
「そんなにヘソ曲げるなって。ほら、いくらか分けてやるから」
「あんたの施しなんて受けるわけないでしょ、バカにしてんの?」
スッと袋からコインを一枚取り出して差し出して機嫌取りをしてみたが失敗。
どうしてここまで俺を拒むのかと考えつつ、取り出した金のコインを袋に戻す。
「……本当に人間はヴェルネさんと仲がいいんだな」
「どこをどう見たらそう見えんのよ!」
ずっとこっちを見ていた青年の言葉に、ヴェルネが噛み付きそうな勢いで否定する。
その姿が必死にキャンキャンと吠えるチワワと被ってなんだか愛らしく思えてきた。
「あ、そうだ。このコインの価値ってどのくらいなんだ?」
「なんだ、金を持ったことがないお坊ちゃんか?」
ハハハと笑われて冗談だと思われてるらしい。
「まぁ、そう思ってもらって構わない。正確には使ってた通貨が違うんだけど。ということでヴェルネ先生、お願いします」
「せ、先生……しょーがないわねー!」
「先生」と呼ばれたのに気を良くしたらしく、さっきまでの不機嫌オーラが消えていた。およ?もしかしてヴェルネってチョロい……?
「まず銭貨。一番低い価値で安い果物を買うのに一個五枚くらいになるわ。次に銅貨で銭貨十枚分、それをまた十枚で銀貨になるの。あとこれ百枚分がその金貨よ」
ヴェルネがそう言うと俺の持ってる袋を指差す。
なるほどと納得しつつ、元の世界との価値観があまり合わないから一度常識をリセットした方がいいかもしれないと思った。
「……っていうかもしかしてこの袋の中ってほとんど金貨なの?多くない?」
「えぇ、クレイジースコーピオンは最近この周辺で出没していたから報奨金が出ていたのでその分も入ってるよ。まぁ、そもそも災害級を倒せるなんて誰も思ってなかったからな。むしろ解体費とかで少なくなった方なんだがな」
それだけの素材だったってことか……にしても、こういう化け物を倒して金を得るというのも別世界っぽいな。
向こうだと動物の毛皮を売るみたいなもんか?
「ちなみに人が普通に働いて貰える金額は?」
「せいぜい月に銀貨十枚二十枚よ。多くても金貨まで行くかどうかなんだから……」
呆れながらもこっちをチラ見して若干羨ましそうにするヴェルネ。悪態突いて強がってもやっぱりお金は魅力的か。
「あ、んじゃ職ってどこで探せばいいの?」
「えっ……まさかあんた、ここに住む気?」
予想外とでも言いたげに驚くヴェルネ。
「そりゃあな。当面の間は知識と常識を覚えなきゃならんし、気楽な仲間が近くにいた方がいいだろ」
「仲間?あんたに仲間がいるの?」
そう言って怪訝な顔をするヴェルネを俺は指差す。
「……は?あたし?」
「おう、俺はもうお前のことを仲間だと思ってるぞ。面白いし」
理解できないと言いたげにポカンと間の抜けた顔をするヴェルネ。
「ははは、懐かれたねヴェルネさん?」
「じょ……冗談じゃないわよっ!?」
笑う男に慌てて全力否定しようとするヴェルネ。
「おっ、そうだ。あんたこの町に住むんなら一応自己紹介しとくよ。俺はレンジ、この解体屋の責任者だ」
「おう、俺は柏木 和。カズでいい。お前は人間が嫌いとか言わないのか?」
「あん?まぁ……嫌いっちゃ嫌いだぞ。でもそれはアイツらが俺らを嫌ってて嫌がらせや戦争を起こそうとするからな。でも普通に接してくるお前個人は嫌いじゃないよ」
レンジが物分りの良い人で良かった。
彼の背後からは変な視線ばかりを感じるからな。会う人会う人全員が好感度マイナスで敵対心MAXだったら話が拗れそうだもの。
「それと……肉の売却は本当にいいのか?七割も売っちまって……アレ結構高級品だぞ?」
レンジが心配そうに聞いてくる。
「いいんだよ、高級品つってもあんだけの量が手元にあったら腐っちまいそうだからな」
「助かる。あれだけの量の高級な肉を売れば元を取れるどころかかなり儲かるからな。ありがたく買い取らせてもらうよ……ああ、そうだ。良いものを売ってくれたお返しってわけじゃないけどコレやるよ」
レンジがそう言うと靴を差し出してきた。
「なんでかは聞かないでおくけど、ずっと裸足だと辛いだろ?俺のお下がりだからボロいしサイズも合わないだろうけど、自分で服を揃えるまではそれで我慢してくれ」
言われてようやく自分が裸足だったことを思い出した。
裸足で外を歩くことにも元の世界で割と慣れてたから気にしてなかったな……
「おう、ありがとな。また返しに来る」
「やめてくれ。元々捨てるもんだったんだから返しに来るくらいならそのまま捨ててくれよ」
レンジはそう言って苦笑いする。
そんな感じで話し合いは終わり、ヴェルネ以外お互い笑顔でその場を後にした。
「んじゃ、次は職探しと……服か」
靴もだが、今の格好は家でダラダラするための家着だ。しかも周りの奴らは異世界風のコスプレみたいな格好をしてるのが普通らしいから余計浮いてる気がするし。
「服の店ならすぐそこにあるし、丁度お金も沢山あるんだから買い揃えときなさいよ」
そう言ってヴェルネが指を差した方向にはたしかに着るものが売られている店があった。
そして買い物風景は省略。ここで生活するにあたって何着かを買い、その内の1着を着た。
色は基本的に黒が好きなので黒寄りの服一式を揃えた。
定員に勧められてつい買ってしまったが……「あなたにピッタリの装備がありますよ!」と言われて見事なセールストークの術中にハマってしまい、言われるがままに買ってしまったのだ。しかもヴェルネの引きつった表情を見るに少々高かったっぽい。
とはいえ、実際動きやすい。
……いや、たしかにこの服の素材は少し薄くなっているが、それ以上に不自然な動きやすさを感じるこの違和感。
……というのを、気になっていたことを店員が説明してくれた。
この服には着用者の体を軽くする効果があるだとか。流石異世界、ファンタジーな魔法的要素が服にもついてるらしい。異世界スゲー。
しかもここの店員、俺の顔を見て驚いたのは最初の一瞬だけですぐに商売人の顔になった。この町の職人は商魂逞しいようだ。
「あとは仕事をしたいのよね?だったらすぐに見つかるから大丈夫よ、ついて来なさい」
言われた通り彼女について行くと、1つの建物へと連れて来られた。
パッと見、西部劇の映画なんかに出てくる酒場のような雰囲気がある建物だ。
名前は「リントヴルグギルド」……「ギルド」か。なんとなくわかった気がする。
ヴェルネは躊躇することなく建物に入って行くので俺もその後を追う。
ギルドの中は木製で、やっぱり西部劇の酒場のようなテーブルの位置だった。
ただ違うのは、そこにいるのは拳銃を構えるようなガンマンではなく、大きな剣や槍を背負った屈強な者たちばかりだということ。
さらに彼らは全員が人間ではなく魔族。
完全に部外者感のある俺は当然そいつらから睨まれる。
だがヴェルネは構わずカウンターのある場所へと突き進んでいた。俺もこれくらいじゃ怯まないので同じように進む。
「おおっと、人間。ここから先は魔族様しか通れないぜ?」
するとヴェルネと俺の間に魔族の男が立ち塞がり、さらに数人の男女が俺を囲む。
あ~……やっぱりこうなるか。