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出会ったのは魔族っていうらしい

「こんなの……こんなの馬鹿げてる……なんで夢じゃないのよ……!」


 しばらく停止していた青肌の少女が正気を取り戻したかと思うと、まだ困惑してるみたいで頭を抱えながらブツブツと呟いていた。

 こんな変なサソリがいる世界でも倒しちまったらこんな反応されるんだなぁ……

 昔、襲ってきたダンプカーを反射的に背負い投げしたら周りから気持ち悪がられたことがあったのを思い出す。

 今できるかと問われればできると答えられるが、よくあの時もできたなと自分で感心する。


「ま、人生長いんだ、そんなこともあるさ」


「何他人事みたいに言ってんのよ、あんたのせいあんだからね!人間が一人で災害級の魔物を倒すなんて、人生どころか長い歴史でも聞いたことないわっ!」


 適当にフォローしようと思ったらいい感じのツッコミで返されてしまった。

 コイツ結構面白いな。大抵の奴は萎縮するか化け物呼ばわりして批難するかなのに……


「とりあえず落ち着いたんだ、お互い自己紹介といこうぜ」


「あたしとあんたが?これから殺し合うかもしれない奴と慣れ合うなんて馬鹿げた話、あると思う?」


 体を震わしながらその言葉を口にする彼女を見た俺はニッと笑う。


「震えながら強気に出るなんてやっぱ面白いな、お前は」


「何とでも言いなさい!あんたが強いのはわかったけど、だからって諦めないんだから!たとえ刺し違えてでも……!」


 決死の覚悟。それが本気だというのが彼女の目から伝わってくる。

 うん、やっぱり彼女は面白い。


「じゃあ、敵対しないのはどうだ?」


「……は?」


 俺の言葉に少女は不快そうに眉をひそめる。


「ふざけてるの?それとも舐めてるの?」


「いやいや、割と本気だが?俺はここがどこだか全くわかってない……だからお前は大事な情報源なんだ」


「ふんっ、結局はあたしを拷問して魔族の情報を吐き出させたいんでしょ?」


「いや、どうでもいいわ、魔族とかよくわからんそんなもん」


「よくわからんそんなもん!? あ、あんた……嘘を吐くにしてももうちょっとマシな言い方しなさいよ!」


 だってしょうがないじゃんか、魔族なんてこっちの世界には存在しないんだし。


「でもだったらどうやったら信じてくれるんだ?」


「そんなの……ああ、そうね」


 青肌の少女は何かを言いかけるとニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「あたしに抱き着けたら信じてあげてもいいわよ!」


「……ん?なんだって?」


 変な手段を伝えられた気がするんだが……?


「抱き着けばいいのよ、抱き着けば!もちろん思いっ切りね!」


 大きく腕を広げてハグポーズをする青肌の少女。えっ、いいの?やっちゃうよ?遠慮なんて言葉を辞書黒の絵の具で塗り潰してやっちゃうよ?

 いや、落ち着けよ自分。


「なんでそんな方法なんだよ……」


「人間は魔族を心底嫌ってるから触るのも難しい……つまりあたしに敵意もなく協力関係になりたいってんならそれくらいできるでしょ?」


 なんだその解決方法は?まぁ、それくらいなら……


「どう?嘘を取り消すくらいなら今のうち――」


「できるが?」


 全く問題ないので少女に抱き着く。

 あっ、そういえばコイツ今俺のガウンコートを着てるだけでほぼ全裸だったな……

 彼女も固まったまま動かない。


「なぁ、これでいいのか?」


「な――」


「な?」


「何してんのよっっっ!」


 青肌の少女は憤慨するように叫び、思いっ切りビンタしてきた。イタス。


「何って……お前がやれって言ったんじゃねえか」


「本当にやるとは思ってなかったもん!そんな物好きがいるなんて!」


 もんってなんだよ。顔赤くしてまた涙目になってるし。

 ただこれだけは言える。老人が言うより青肌の少女が言った方が万倍可愛い。


「物好きでもなんでもいいわ。これで俺がお前らのことを嫌ってないし害する気もないことを証明できたってことでいいよな?俺は柏木 和だ」


「あ、あたしは……ヴェルネよ。っていつまで抱き着いてんのよ?早く離れなさい!」


 ビンタされても抱き着いたままだったからか、名乗り合った後にまた怒鳴られた。


「離れてほしかったら離れてほしいって言ってくれないと」


「ビンタまでされたら普通離れるでしょ!? なんで抱き着いたままなのよ!」


「ビンタされても抱き着いてれば証明できると思って。どうだ?」


 なおも抱き着いたままでいるとヴェルネは頬を膨らませて俺の胸に手を当てて押し退けようとする。


「わかった、わかったわよ!あんたは敵じゃない。これでいい?」


 ムスッとしてそう言うが、押し退けようとする力は弱い。意外と嫌がってない?……わけないか。ビンタしてきたし。


「オーケーだ。とりあえずこの世界が何なのかってところから聞かせてもらおうか」


「……は?」


 俺の現状を説明しながら溶けた氷塊の中からヴェルネの服装を探して木に引っ掛けて干していた。


「ねぇ、それ本気で言ってるの?」


 乾くまでは俺のガウンコートを代わりに着ることとなったヴェルネが怪訝な顔で俺を見てくる。


「そう説明するしかない。だって俺の世界にはヴェルネみたいな青い肌とか黒目の種族やあんなサソリの化け物は存在しないからな」


「そんな説明されても信じられないわねぇ……」


「んじゃもう一回抱き着いとく?」


「やめて」


 ヴェルネは本気の真顔で拒否する。

 そこまでか。冗談で言ったが否定されるのも寂しい気がする。


「まぁいいわ。仮にそれが本当であんたがこの世界の人間じゃないとして、これからどうするつもりなの?」


「そこだよなぁ。簡単に帰れるなら帰りたいんだけど……ちょっと小腹が減ったし――」


 そう言ったところでさっき俺が倒したクレイジースコーピオンが目に入った。


「……なぁ」


「何?」


「このサソリって食えるか?」


「……なんですって?」


――――

―――

――


 焚き火で焼いたクレイジースコーピオンの甲殻を外し、その一つを鍋に見立てて水を入れて沸騰させる。

 お湯が沸いたらクレイジースコーピオンの身を一部千切って茹で、柔らかそうな身をすくい上げてかぶり付く。

 ちなみにすくい上げるのに使ったのはクレイジースコーピオンの甲殻の一部を砕いて箸のように細くしたものである。


「……すげぇな。サソリってかっぱえびせんみたいな味がするとは聞いたことあるけど、蟹の味がする気がする」


「うわ、本当に食ってる……」


 ムシャムシャと食って腹を満たしていると、服を乾かし終わったヴェルネが着替えてやってきた。しかもゴミ虫でも見るかのような目で見てくる、

 しかしその服装が何とも……


「まさかだけどそれって普段着か?」


「そうだけど……な、何よ?」


「……下は?」


「下?」


 ヴェルネが言葉のまま下を見る。

 俺が言ってる下とは下半身のこと。

 簡潔に言ってしまえば全身ファンタジーらしい服装なのだが、ズボンだけ履いてないパンツ状態なのだ。完全に痴女である。

 そしてヴェルネは自分の姿に違和感を抱いていないようだった。

え、何、この世界ってそういう概念だったりするの?パンツ一丁当たり前?


「何よ……何か文句あるなら言ってくれる?」


イライラしているヴェルネに俺は正直に答えることにした。


「下半身黒パンツだけってエロくね?」


 ヴェルネはしばらく固まると徐々に顔を赤くし、胸や下半身に手を当てて隠そうとする。


「死ね!何考えてんのよ、変態!」


「お前の方が痴女っぽくて変態だと思う」


 そう返した瞬間、ヴェルネの周囲に人の腕ぐらいの尖らせた氷塊が一瞬で生成され、俺に向けて大量に飛ばしてきた。

 その時、俺は家族から「お前はいつも余計な一言が多い」という言葉をよく言われたのを思い出したのだった。

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