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異世界だとよ

 ……おかしいな、俺疲れてるのかな?

 そりゃ疲れてるよな、本当ならまだやらなくていい大人の仕事を最近手伝ってばっかりだったもの。なんだったら仕事1つ丸々請け負ったことさえある。

 だからさっきまで室内のコタツで温もりを感じていたはずなのにいつの間にかジャングルの奥地みたいなところにいただとか、目の前にあったテレビが消えてそこそこ大きな湖が広がってるだとか、その真ん中で肌が青い裸体を晒してる紫色の髪をした少女が水浴びしてるのが見えているのは全部疲れのせいよ、きっと。あのまま寝て夢でも見てるんだよ。

 でもなぜだ、風や水の音とかがリアルに感じる。

 特に足。コタツに入ってた裸足が地面の感触をダイレクトに伝えている。

 しかもその青肌の少女、黒い角が頭から生えてるし尻尾も生えて動いているし。もしアレがコスプレだったら最近の化学は進歩してるなと感心するレベルだ。

 だがコスプレと言うには尻尾の動きが妙にリアル過ぎるし、青い肌も水遊びしてるにも関わらず染色した感じがしない。

 そもそも人気の無いこんな場所で水浴びするコスプレイヤーなんているか?

 ……と、ここまで思考観察するのに1秒もかかっていない。

 ちなみに裸ではあるが後ろを向いているためまだR十八は超えてないから問題ない。えっ、そういう問題じゃない?


「……えっ?」


 そしてそんな意味のない自問自答をしていると、向こうさんも俺が声を出したことで気付いて振り返った。あ、はいアウトです。

 振り返った彼女の顔も青く、眼球の白い部分が黒くて瞳も獣のように黄色く光って縦に瞳孔が開いていた。

 互いを認識して十秒ほど固まる。

 俺はというと、未だにコタツに入っていた時の肘を突いて横になっている体勢で彼女を見つめ続けていた。

 そこで俺は片手に握りっぱなしだったテレビのリモコンのボタンを何度も押し――


「……ア〇ターなんて映画、こんな時間にやってたっけ?しかもチャンネル変わらねえし」


 ――全力で現実逃避をしていた。


☆★☆★☆★

~他視点~


「…………」


 和が目の前でいきなり消えたことに目を丸くして呆然とする彼の祖父。

 そこに調理を終えて父、母、祖母が入ってくる。


「あら、和は?」


「……なぁ、婆さんや」


「なんだい、ジジイ」


「人とは急に消えるもんなのかのう?」


「……はぁ?」


 祖父の要領を得ない説明で、柏木一家が和の消失を理解するまで数時間かかることとなる。


☆★☆★☆★

~柏木 和視点~


「イ、イヤァァァァァァァッ!?」


 俺がテレビのリモコンボタンを押し続けて現実逃避をしていると、その青肌の少女から悲鳴が上がり大量の氷塊が突然眼前いっぱいに押し寄せてきた。


「お?」


 何も無いはずの森林奥地でその光景には流石に驚いた。

 俺のいた場所はあっという間に氷塊に飲み込まれてしまい、まるで極地にいるかのような寒さが辺りに充満した。


「ハァ……ハァ……!」


 憎々しげに俺のいた方向を睨み、息を切らす少女。

 そんな彼女の背後に俺はいた。


「な、何なのよアイツ!? 気配も無くいきなり現れて……それにアイツ人間――」


「まぁ、気配無く動くのはそこそこ得意だが、今のは来たくて来たわけじゃないぞ」


 ちょっと少女の言葉に被せながら俺の存在をアピールする。

 すると彼女は猫のような驚き方で飛び上がり、俺から距離を取る。


「なっ……あ、あんた今あそこに……何者よ!人間があたしに何の用!?」


 相当気が立ってるらしく、俺を睨んで警戒する少女。

 さて、その警戒をどう解かせてこの状況を打開するか……まぁ、そもそもの話、男が女の入浴?を覗いてる時点で有罪確定で弁明もクソも、取り付く島さえなさそうなんだが。


「んじゃ、簡潔に言うぞ。ここどこですか?」


「……はい?」


 少女から怒りや敵意が薄れ、一気に困惑した表情になっていた。


「あんた……あたしをバカにしてんの?」


「いや、してないしてない。俺だって困ってんだよ。さっきまで『世界の可愛いワンニャン動画集お正月スペシャル』って番組を見てただけなのにいつの間にかこんなとこにいたからな……えっと、服いる?」


 事情を適当に説明し、今まで羽織っていたガウンコートを脱いで差し出す。

 だが彼女は自らの体を隠す気はないようで、腰に手を当てて胸を張った。


「ふんっ、何言ってるのかわからないけど、そんな戯言を簡単に信じると思わないで。それに敵の施しなんて……あっ」


 少女は拒絶しようとしたが、氷塊を見て何かを思い出したかのように声を漏らした。

 俺も少しして察した。まさか……


「……お前の着替え、あの氷の中か?」


「…………」


 少女は何も答えない。代わりに下唇を噛んで悔しそうにしていた。

 ごめんな……いや、あの氷塊は俺のせいじゃないけど、なんかごめんな?

 するとそんな微妙な空気になってしまっているところに地震のような地面が揺れる感覚に襲われる。

 それは徐々に大きくなり、まるで何かがこちらへ近付いている気がした。いや、確実に「何が」がいる。

 そして爆発と共に近くの森から砂塵が上がった。


「ッ……!」


「おっと?今度はなんだよ……」


 立て続けに起こる現象に若干呆れつつも、その爆発音のした方角を見る。

 何かが木々を倒しながらこっちに向かってきているのが一目でわかった。

 それが俺たちのところまで来ると、その「何か」の正体が明らかになる。

 いや、明らかにとは言っても姿形がわかっただけで、俺はそれが何なのか全く検討も付かなかった。


「……なんだコイツ?」


 言うなれば巨大なサソリ。

 しかしメタリックな銀色の甲殻や五本の尻尾など見たことがない品種。

 さらにはその体長が民家を二つ繋げたような大きさである。

 現実的じゃない生物。まるでSF映画の中にでも迷い込んでしまったかのようだ。

 こんなのが地球にいればニュースになってるだろうし、世間が騒がないわけがない。

 この青い少女といいこのサソリといい、俺はある「もしかしたら」という考えが頭に浮かんだ。

 ここはいわゆる別世界……最近定番の異世界なのではなかろうか、と――

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