第5話【お使いと剣】
「いやぁ外は気持ちいいねー」
ミロクちゃんが両手を広げて伸びをした
「しかし、ほんとに見えてねーんだな俺ら」
すれ違う人達はイチさん達が見えていない
という事は……
「僕…1人で喋ってるってことですか?」
ただの変態じゃ……
「あははっ!
それじゃトーカさん変な人だね」
「大丈夫よ!
世の中に変な人なんてたくさんいるわ」
おネエさんが言うと説得力ある…
いやしれっと失礼なこと言わないで……
「それよりトーカさん
妹さんの所にはどのくらいで着くの?」
「ここから3日ほどで着きます」
僕の住む村スピアノから大都市グランディオまでは歩いて3日…
僕のお小遣いでは馬車に乗ることもできない
それにしても、珍しいな……
そんなに大事な用なんてあったか…??
「3日かぁ…まだまだかかるねー
トーカさん!妹さんてどんな人??」
「妹の名前はサナと言います
今年で13になります
性格は……あー少し変わってまして…」
変わり者というか……
「あ?何だよ変わってるって」
僕を見下ろすイチさんの目は
今にも僕に殴りかかってきそうなくらい
殺気に満ちている…怖い……
「その…自分で言うのも何ですが
僕のことが大好きでして……」
「いやん!
禁断の恋というやつなの「違いますっ!」
改めて言う
「違いますっっ!」
「はははっ気にすんな!
そんな発想するのはアスカだけだ」
飛んでいる鳥を全力で捕まえようとジャンプしているイチさん…
あなたも大丈夫か……
ミロクちゃんも跳躍する度引き締まるイチさんの尻を瞬きもせず凝視している…
そして相変わらずシロくんは僕を見てるし…
おネエさんは…きっと兄妹の禁断の恋でも妄想しているんだろう……
こんな事言ったら殺されるかもしれないから言えないけど……
この人達もじゅうぶん変だ……
「トーカ殿!我ハマトモデスゾ!」
「うわっ!!」びっくりした――
「ハハハハ!
トーカ殿ノ考エナドオ見通シデスゾ!」
いちばん変なのは…
間違いなくこの火の玉だ……
―――――――――??!
―――――キィィン……
何だ?!
急に指輪が青白く光り出した―――
「創造者さん…指輪が……」
「ウム……」
昨日創造者さんに
「剣ノ代ワリ二コノ指輪ガ導イテクレルダロウ…」
と言われて仕方なく身につけたこの指輪……
今剣を持ち歩くことが出来るのは
大都市の選ばれた騎士だけで
一般の人は禁止されている――
剣を持っていたら牢獄行きかな…
そして
何を導いてくれるのだろう…
と疑問に思っていた昨日の僕――
僕はこの後後悔することになる……
キィィン――キィィン――………
指輪は暫く光っていたが
その後何事も無かったかのように
黒い水晶に戻った……
何だったんだ……
「おい創造者!何で指輪が光った!?」
指輪の異変に全員気がついた――
「ワカラナイ…」
「はぁ!!?」
「我々二トッテ良クナイ何カガ
近クニイルノカモシレナイ…」
何かって……
疑問が多すぎる…
僕達にとって良くない何か…とは
僕しか見えない筈なのに
イチさん達を認識出来る人がいる
という事なのか?
それとも剣のことを知っている誰かがいるのか…?
「俺が見てくる」
イチさんは物凄いスピードで走って行ってしまった――
「創造者さんっ!どうしたら…」
「今ハココヲ離レナイヨウニ
トーカ殿ハ戦エナイ」
皆が僕を取り囲んだ――
「え…?皆さん戦えるんですか?」
「当たり前じゃない!
こんな平和な時代に生きてたんじゃなくてよ
…記憶ないけど」
おネエさん……脱ぐと凄いんですね
いやこんな時に何で脱ぐ!
これが戦闘態勢なのか?
一瞬間違えて全部脱いだよね?!
犯罪だぞ!
なんか…
一気に緊張感無くなった……
「おいっ!」
僕が呆けている間にイチさんが帰ってきた―
「…何ですか、これ」
目を疑わずにはいられなかった……
「知らねぇ
目玉がやたらと付いてるネズミを殴ったら出てきた」
ブルブル……
目玉がやたらと付いてるネズミ…!?
そんなの生きてるの!?怖っっ!!
「何これ…気持ち悪ー」
イチさんが地面に投げ捨てたそれは
首に何かが巻きついた
てるてる坊主のようだった――
よく見ると
巻きついた帯状の布に
見たことも無い文字がびっしりと書かれていた――
「トーカ殿
コレハ魔人ガ使用スル文字」
…………………魔人??
本に登場する邪悪なあの魔人??
話し好きの創造者さんは
その後黙り込むように何も言わなくなった…
「魔人…ほんとにそんなのがいるの?」
「創造者!なんて書いてあるか読めねーのか」
「……………」
創造者さん……どうしたんだろう……
てるてる坊主の様なものは不気味に地面に転がったまま動かない――
いや動いてほしくないけど……
「この変なのは気味悪いけど
みんな怪我もしてないみたいだし良かったわ」
おネエさんの言う通りだ
みんな無事で良かった――
この時僕はどこか浮ついていた……
好奇心と冒険心
この先には見たことも無い世界があるのかもしれないと――