第2話【トーカ少年と剣】
ここは
大都市 グランディオから
ずっとずっと離れた村スピアノ
この村に住む少年「トーカ」のとある日常である
「母さん行ってきます!」
貰ったばかりのお小遣いを握り締め
急いで市場へ向かう――
えっと…母さんに頼まれた野菜は…と
「おばさん!これ3つ!」
「はい!トーカちゃんいつもありがとうねぇ
これ1つおまけね!」
「ありがとう!
ん?おばさんあんな店いつもあったっけ?」
トーカとおばさんの視線の先には
店主のおじいさんと物珍しい商品が並ぶ小さい露店がある
「物珍しいよねぇ。私も初めて見たよ!
なんでも流行り屋って言うらしいよ!」
「流行り屋…」
「トーカちゃんも帰りに寄ってみたら?」
特に欲しい物はないけど…
まあ、母さん達への土産話にはなるかな
トーカは流行り屋なる露店の前で
立ち止まる――
見たこともない首飾りに耳飾りに指輪――
ん?これは………
「おぉ、それに目を付けるとは流石じゃ」
「え?」
「ほれ!これじゃろ!」
おじいさんが差し出したのは宝石の付いた綺麗な指輪だった―――
「いや…」
いやいやじいさんどこ見てた…
僕が見てたのは反対側の商品だぞ
これは押し売りだな。買わされるやつだな。
「ほれ!見てみるか」
「いや、いいです…」
「そう言わず、ほれほれ!」
強引に手渡された指輪の宝石を覗いてみると
結晶のようなものが中で輝いていた――
「今ならなんとこの剣も付いてくる」
ガシャガシャ…ドゴンッ!
じいさんは足下の箱に手を突っ込んで何かを探している
「これじゃ!」
え…
どこから出したんだよ
そんなデカいの………
「今時、剣って…」
「ふふふはー!都会ではの!剣をインテリアとして飾るのが流行っとるんじゃ!!」
急にどうした
変な笑い方して…
「いやでも…そんなお金ないし」
じいさんは何故かキョトンとしている
え?知らなかったの?
こんな小僧金持ってる訳ないだろ…
「ふふふはー!」
そしてまた笑い出した
「金はいらんよ」
「…え?!」
とうとう頭おかしくなったか
タダだと!?
「…いや!でも」
「いいんじゃ若いの
気に入ったのなら持っていっておくれ」
そんな優しい笑顔を向けられたら
……とても断りづらい
「…あ、ありがとう」
折角だし僕も都会風に壁に飾ってみるか
母さんが待っているし
早く家に帰ろう―――
「…約束通り
あの少年に渡したぞ」
トーカが走り去った後
露店の後ろにある路地に向かい
おじいさんが話し掛ける―――
それを聞いた黒い外套の人影は
何も言わず姿を消した――――――
家に帰ると
やっぱり母さんに怒られた……
分かってるよ
お小遣い握り締めた息子が
帰ってきたら高価そうな指輪と剣持ってたら
誰だって買ってきたんだなと思う
母さんには市場であった出来事を一通り話した
信じてもらえなかったけど…
その一部始終を見ていたおばあちゃんが
不思議なことを言った
美しい鍔だねぇ…
この指輪と剣は2つで1つ…
なんだか話し声がするようだ…
ふふふ…賑やかだねぇ
この指輪と剣は2つで1つ…
この言葉が何故か頭から離れない――
確かに指輪の結晶と
剣の鍔に付いている結晶は
同じもののようだけど…
部屋に戻り鞘から剣を抜いてみた―――
ドクンッ――ドクンッ―――
何だこの剣……
剣身が――――――漆黒だ
光に当ててもキラリともしない…
そして剣から何かが身体に流れ込んでくるように脈打っている――
違和感から思わず剣から手を離してしまった
剣は地面にカランと音を立てて落ちた――
自分の両掌を確認するが
何も変わりはない…
さっきのは一体―――
恐る恐る剣に触れてみるが
先程の脈打つ感じもしない……
剣を鞘に戻し
怖いので部屋の隅にそっと立て掛けた――
ベッドに仰向けに寝転がり
もう一度両掌を確認するが
やはり変わりない―――
…ただの気のせいか
だってあの指輪と剣はタダだった
高価なものだったのなら
タダなはずがない―――
これはただの安物でガラクタだ
なんか、疲れたな…
トーカはいつの間にか眠ってしまった―――
目が覚めると
きっと夢だと思うだろう
ここから
この物語は始まるのだから
今日はゆっくりおやすみトーカ