6.一歩。
拳が良いところに入ったからか。
数分の間動きを見せなかった相方をそのままにして、俺なりの欲しい仲間枠の条件を考える。
苦手な相手がいないからとは言え、欲しい相手がいないというわけではないのだから。
(出来れば欲しいのは純粋な前衛と幻想系権限者、治癒系がいればいいが最悪俺が学んで担当すればいいし……。)
今の俺達は細かいところには手を回せるが、一点に突き抜けた戦闘性能を持つわけではない。
逆に言えば、そういった一点性能持ちが仲間にいれば補えるということでもある。
……というか、頭数の多さに比例して電子戦型は働くのだし。
まあ、問題は電子戦というその一点なのだが。
「そろそろ動けるか?」
「あの……何かしら言うことは……?」
「すまん、妙にイイ顔だったから殴ってしまった。」
「軽くない!?」
軽口が叩けるなら余裕だな。
そう判断して、動き始めるのを横目で待ちながら何と説明するべきか少し悩む。
多かれ少なかれ接続者/共鳴者となった以上は電子戦に適正を持つ。
何にしても他者に干渉しようとする以上、その電子防壁を強制解除するには時間がかかるのだ。
慣れてしまえばそれ専用の鍵を作っておいて自陣への改変強化は短時間化も可能になるけれど。
その間に白兵・間接得意に叩き切られる。
或いは魔術使用者に攻撃され、改変を強制中断される可能性だってある。
そういう意味合いで、サポートとしては優秀とは言っても忌避される傾向が非常に強い。
周囲の調査とかだって、共鳴者が出来ないわけでもないのだから。
「まだなんか腹部がじくじくする……。」
「思ったより綺麗に入ったからなぁ。」
「いや、だから殴り掛かるのがおかしいって気付いてね?」
まあ、若干動きが鈍いのは確かだが動けるのは分かった。
うん、と小さく頷けば細い目で睨むような、見つめるような。
少しだけ待った後、深い溜息を吐き出され。
「そういう人だってのを知らなかったボクが悪いんだろうけど。」
一度そう言って、意識を切り替えるように目を瞑り、開いた。
「オッケー、これ以上は引っ張っても無駄だね。 で、どうするの?」
「あの場にいた奴等の中……か、一人になっただろう相手を探そうとは思う。」
これでな、と目の前に出したのは。
【門】の前でも使っていた写本機の中に導入されていた一つの追加機能。
『共有掲示板』と表示されたそれを起動しながら、更に言葉を紡いだ。
「全員で集合できるような場所、と端的に言っても集まるか集まらないかは任意だしな。」
「へえ、詳しいね?」
「まあ、事前に調べておくのは当然だろ?」
この辺りは調べる気になれば幾らでも出てくる。
というよりも、隠された情報でないのだから調べないほうがどうかしている、と言ってしまっていい。
この【学園】を卒業する為に必要なもの。
それは、一定の年数を経過するか。
或いは他の可能性の中で『資格』を示すこと。
後者の条件に関しては、誰もが口を閉ざすそれ。
そして、俺が見知ってしまっている条件。
だからこそ、あの人が消えたということを知っているから。
「えーっと……これか、仲間を探す掲示板。」
可能性、と一概に言っても最初であった《エルフ》などのように。
魔術などが存在できる可能性があった世界や、近似した機械に特化した可能性の世界。
つまり、この世界からどの程度離れているかがそのまま危険度に直結した数値と重要語として選択できる。
俗に変動値、なんて呼ばれ方をされるモノではあるが。
ある程度、向かいたい方向性は選ぶことも出来るわけだ。
経験則的にどんな言葉を入れれば、どの程度の数値ならこの程度の危険度、というのも伝わってはいる。
そこから考えるなら、初めに向かうなら危険度が低い所が望ましい。
(ただ、此処で募集して集まるかは別なんだよなぁ。)
危険度が高ければ基本的に希少な物品が手に入る。
この世界に存在しない物がありふれている世界などであれば、それを入手して【学園】に売り捌くことで様々な権限を購入できる。
そうして、少しずつ準備を整えていくものではあるからこそ。
低難易度の場所には殆ど向かわない上級生、というのは当然のように出てくるわけだ。
「で、どうだった?」
「駄目だな、何処も最低中難易度。 今の俺達だと現地生命体を視界に入れられるかも怪しい。」
「あらら。 それならどうするのさ。」
「決まってるだろ?」
仲間を探す掲示板で見つからないのなら。
学年別の掲示板を開いて、文章を打ち込んだ。
『低難易度の可能性世界での鍛錬を積みたい。 同じ考えの奴がいるなら個別返信をくれ。』
そんな風に。