5.周囲。
光が消え、戻ってきたのは先程の【門】の前。
けれど変わったのは、傍に立つもう一人の存在。
「さて、行く? レイス。」
「此処で行かない選択肢が出てくるのはどうかと思うぞ……。」
接続者が入るための鍵となり。
彼との共鳴が証明となり。
【門】へと入り込めば、次に飛ばされるのは先程の空間ではなく。
やや広すぎる、とも感じるような大きな空間と2つの寝具が置かれた部屋のような場所。
拠点とも、自室とも呼べる場所へと移動していた。
「案外広いんですねえ、此処の中。」
「可能性の拡張の応用とか何とか。 その辺りの技術的な部分はさっぱりなんだがな。」
きょろきょろと周囲を確認する姿は、とてもではないが【英雄】らしくはない。
少しずつ落ち着いてくれば、見えてくるものも違う。
顔だけでは分からないが、肉体年齢にしてみれば俺と変わらないか少し上くらいなのだろうか。
その内聞いてみようとも、思いながら。
「で。 どうするんだい、レイス。」
なんとなく分かってきた。
ティルのこの笑顔は、文字通りに面白そうだと思うからこその笑顔。
皮肉とかそういう面を取っ払った、子供らしい感情の発露なのだと。
「まずは色々学んだり仲間増やしたいところだがな。」
「なにか問題でもあるのかい?」
「お前の得意分野だよ……!」
電子戦特化。
言い方を変えると、敵や味方への改変・防壁を付与する担当であり。
その範囲は得意次第に寄っては。
幻想領域への改変権限さえ併せ持つならば、という前提条件さえつくものの周囲の地形すら変化させる能力を持つ存在。
……この辺りが出来るのならば、【精霊術師】として堂々と名乗れるのだが。
「電子戦での権限は?」
「一応周囲変更くらいは出来るさ。 後は……そうだな、改変よりも防壁のほうが比較的得意。」
「比較的?」
「改変はちょっと……特殊な条件がいるから。 というか、魔術はその条件達成のためのオマケ的な。」
……何と言って良いのか。
対幻想、つまりは魔術的な改変や直接的な負傷系列には強い特殊な支援役、というのが近いか。
少しは間接攻撃も出来ると言っていたし、何も出来ないというわけではないのだろうけれど。
「治療系列が出来れば万能に近かっただろうがなぁ。」
「悪いねえ、その辺の知識は流石に無くて。」
「そこまで求める俺が悪いんだ、気にすんな。」
「あれ、というかこれに関してはボク謝る必要ある?」
無視。
手前のベッドに腰掛けながら、余計なことに気がついたやつをガン無視する。
治療手段自体は、俺達もティルたちも同じ手段で済ませられる以上身に付けられればよかったが。
それが出来る環境にいなかったから致し方ない。
と、なると……。
「……なぁ、ティル。」
「あの、ボクの話聞いてる?」
「聞いてるがその前に教えてくれ。 お前が絶対に組めない相手は? 因みに俺は特に無い。」
確認から。
接続者次第では、属性や存在に縛りや嫌悪感が発生することも少なくない。
つまりそれを飲み込んだ上で作るのが、冒険家達の集まりということになるのだが。
「……ああ、【存在】とか【属性】って意味で?」
「そうだ。」
「改めて言われると難しいけどねぇ。」
天井を見上げるように、考え込む素振り。
それにつられて、俺も上を見上げた。
何もない白い空間、というのは思っていた以上に圧迫感が凄まじい。
その内この空間も弄って色々出来るようにしたいところだ。
改変権限を購入して、俺が知る範囲での製造物の加工素材とか。
「基本的にはないよ。」
「また曖昧だな、基本って。」
「何方かと言えば、その個人次第のほうが大きいからね。」
「……個人次第?」
その言葉に、何故引っ掛かったのか。
口から漏れた言葉に、にやぁ、と。
ティルは、口元を歪めるような笑みを浮かべた。
「ボクはティル・オイレンシュピーゲル。 捻くれ者の代名詞。 つまり――――。」
すう、と息を吐き。
まるで劇場の主役のように、言い放つ。
「相手が偉そうにしていればしているだけ、反逆したくなるんだよねえ。 何故かは知らないけどさ。」
おい。
それは、極大の爆薬じゃないか。
そう答えれば。
肩を竦めて当たり前、みたいな顔をしていたので。
近づいて腹部に一発、拳をめり込ませた。
遅くなりましたが~